さて、俺たちは初級の市街地ダンジョンに潜って戦闘訓練をこなし続けた。ダンジョンを歩く時は常に四人一組で行動。
幸いにして、俺たち四人はチームとして破綻せず上手くやっていけていた。
まぁ喧嘩するような意見を対立させるような事態にも、また危機的状況にも陥ったことがないからでもあったのだが……
それだけチームリーダーのハルが慎重を期しているということでもあった。
そんなハルは今日も上機嫌だ。
ちなみに今日は休暇で、全員で親睦を深めるという意味でもカジノを楽しんでいた。現在やっているのはブラックジャックというカードゲームだ。簡単にルールを説明すると、カードの合計が「21」を超えない範囲でディーラーより高い値を目指すというものだ。
ちなみに俺たち四人の中で一番、引きが強いのが意外にも高橋和だった。
女性陣はカズ君と呼んでいる。俺も最初は高橋くんと呼んでいたが、呼び名が長いのでカズと呼び捨てにしている。本人からも「好きに呼んでどうぞ」と言われたので呼び捨てにすることにした。
顔はイケメンだが、いかんせん目に光と力がないので魅力は半減と言ったところ。それでも女性受けはする顔立ちをしていると思う。さぞかしモテるんだろうなぁとか思って、本人にそう尋ねてみたところ、カズは平然とした様子で答えた。
「まぁ、今まで何度か女の子と付き合ったことはありますが正直、女って面倒っす」
と言い放った。気持ちは分からんでもない。まぁ俺は女性と付き合ったことのない童貞なんだけどな!
冗談混じりに「なら男と遊ぶん?」と尋ねれば、「男も面倒っす」と答えやがった。俺と同じで独りが一番、落ち着くタイプらしい。でも年長者で、それなりに人生を歩んできた俺は自分の人生に後悔していたりする。
もっとアクティブに生きていれば、人並みにはなれたんじゃないかって、ついつい思ってしまうのだ。
だから俺は、鬱陶しく思われてもいいからカズに言った。
「俺も似たような生き方や考え方をしているが後悔もしている。何せ32歳になってもフリーターだからなぁ。しかも友人も恋人も居ないという負債持ち」
「…………」
「店長には嫌味を言われ、年下のバイトにも陰で笑われてな?」
「…………」
「まぁ幸いと言って良いのか、こうしてマネーダンジョンに招かれたわけだが…… どうなんだろうな? 老後とかさ…… いや。このまま40代とか50代になったら路上生活者? とか考えたりしてさ……」
沈黙を続けるカズ。俺の言葉は彼に届いているだろうか? そう思わずにいられない。まだ彼は16歳だ。人生これからの彼にしたら、既に半分以上終わりかけている俺の言葉なんて鬱陶しいだけだろう。
でも言わずに居られない。
俺みたいにだけはなるな、と。
次に紹介するのはヒメさんだ。
本名を神薙姫という。本人談だがヒメさん自身はこの名前が嫌いだと言う。小・中・高の学生の頃に一部の生徒にからかわれ続けたからだそうだ。
確かに『姫』という派手な名前には不釣り合いな、地味な見た目をしている。でも一部の男性には受けるだろうなと俺は感じていた。
無愛想なところを直せばだが。
最初。俺は彼女が無愛想なのは俺に対して怒っているのかと思って、そう尋ねたことがある。しかし本人はうつむき小さな声で「すみません。怒っているわけじゃないんです」と言った。
それからも何度か話す機会があったが、常にこんな感じだ。本当に不機嫌だったり怒ったりしているわけではないようだ。
できれば仲良くなりたいんだが、きっかけがつかめず困っていたりする。俺にもっとコミュニケーションスキルがあればなぁ……
そして最期が我らのリーダー。渡来遥だ。21歳。大学生。以前も紹介したが、せっかくなのでもう一度。銃が大好きで、実際に海外へ行ったときも、観光地を周らず射撃場に入り浸ったという剛の物だ。他にもバイクや車(とくに軍事車両)等が大好物なのだそうだ。
マニアって凄い。
何が凄いってそのアクティブさ。
本物の銃が撃ちたいというその一心で、実際に海外へ行く。そのための資金稼ぎにサバゲー雑誌のモデルまで務めるという行動力は称賛に値すると思う。最近では所属事務所と出版社から、海外の色んな演習場を周って、色んな銃に触れてみようかという企画まで出ているらしい。
見た目の良さもあって、きっとこの業界で成功してくことだろう。
まぁでも現在、そんな彼女を夢中にさせているのはマネーダンジョンなのだが……
ちなみに、この宇宙船。時間の流れが変わっていて外界とは違う時間の流れにあるそうだ。
船の中で幾ら時間を過ごそうと、地球に戻るとそこでは全く時間が進んでいないそうなのだ。つまりこの船。宇宙の時間の流れから切り離されて停止しているという。しかも船内に居る人間は老いないという謎仕様。
もうね。意味が分からない。
意味がわからないが一つだけ言えることは、ここにいれば時間的には永遠に生きられるということだ。
最も、ダンジョンを攻略しなければならないというルールが有るわけで、そこで命を落とす可能性があるわけなのだが。
あぁそうだ。そのダンジョンについて一つお知らせしておこうと思う。
このタイミングが一番いいだろうから。
俺たちが携帯している、総支配人のフルフェイスから貰った端末の待ち受け画面にはタイマーが設定されている。そしてそのタイマーは常に減り続けていて、これがゼロになるまでに特定の数のダンジョンをクリアしていないとペナルティ。つまり罰則があるというのだ。
ちなみにこの、カウントダウンは一人ひとりに応じて違う。どう違うかと言うと、船に来た時期で違うのだ。皆に一定のカウントダウンだと、船に後から来た人間が不利になるから当然の措置だろう。
そしてこのダンジョンクリア数というノルマを達成していくと、今度は普段は『開かずの間』となっている扉が開くらしい。
そこは煉獄と呼ばれ、上級ダンジョンよりも難易度の高いダンジョンの攻略が出来るようになるのだそうだ。
ソロ攻略は自殺行為。ということはパーティ単位。場合によっては他のパーティ同士で組んで、クランの立ち上げも考えねばならない。その場合、煉獄に挑めるのは登録されているチームリーダーたちのタイマーの平均値が基準となる。
とまぁ、色々とあるが、つまるところ現在の俺たちチームが当分しなければならないことはダンジョンを攻略することだ。
初級ダンジョンはもとより、中級ダンジョンまでをクリアしなくてはいけない。
同時に他のパーティの中で有望そうなパーティと仲良くなる必要性もある。後々は上級ダンジョン。そして更に上の煉獄にも挑まなくてはいけないからだ。
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