ウサギに拉致されてからのダンジョン攻略

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018:交渉

公開日時: 2020年12月1日(火) 11:16
文字数:1,522

 翌日。もそもそとベッドから起きて朝の支度を済ませた所で、部屋の扉がノックされた。俺がドアを開けるとそこにはハルとヒメが立っていた。ハルが「おはよ」と少し暗い様子で挨拶。後ろにいるヒメは俯いたままだ。俺が二人を見て「おはよう」と返すと、ハルが口を開いた。


「準備は?」

「あぁ。ちょうど今」

「よかった。ならロビーで集合」

「了解。荷物を取ってくるから先に行っててくれ」


 俺の言葉を受けてハルが頷き、ヒメを連れてロビーへと向かって歩き始めた。その様子は重い。


「駄目、だったのかな……」


 船を降りると言ったヒメ。ハルに説得を任せたが駄目だったのかも知れない。


「まだ、仲良くもなっていないのに……」


 俺は荷物を背負い移動を開始した。


 途中でカズとも合流。二人で階下のロビーへ向かう。


 そして、やはりそこでハルから、ヒメが船を降りたがっている話を聞かされた。


 カズが珍しく口を開く。


「俺は反対です。だって、ここまでそれなりにやってきたじゃないですか? もったいないですよ!」


 俺も説得の方向で口を開く。


「俺達じゃ頼りないかも知れないけど、ま、守るから…… だから…… 残って欲しい…… です」


 語尾がどんどん小さくなりゴニョゴニョとなっていく。これ、言っていてかなり恥ずかしいし、それに守ると言っても確約ができない。自信がないのだ。主人公になるぞと決意はしたが、それも本当になれるとは思っていない。自分の不甲斐なさに涙が出てくる。仲間が弱っている時こそ励ますべきなのに。それが出来ない。


 雰囲気が重く暗くなりかけた所で、男性に声をかけられらた。


「よぉ。おはようさん」


 全員が視線を向けれた先に居たのは昨日の熊男。倉持堅師だ。俺とカズが会釈をしながら「おはようございます」と返す。ハルとヒメが視線で尋ねてきた。俺が倉持さんを紹介する。


「ハル。こちら倉持堅師さんだ。昨日、訓練所で話しかけられて……」

「あぁ。あんたがこのチームのリーダか?」


 そう言ってハルを見る堅師。ハルが立ち上がって頷く。


「はい。遥です。渡来遥。ハルでいいですよ」


 そう言って握手を交わす。


「俺はスレイヤーズというチームのリーダーをやっている倉持だ。ケンシと呼んでくれ」

「えぇ。ケンシさん。よろしく。それで用件は?」

「おう。どうだ? いっぺん組んでみねぇかと思ってな? 今後のことを考えて」

「皆さんのチームに入れと?」

「いや。チームにではないな。クランにだ」

「クラン……」

「そうだ。まだ中級だが少々手間取っていてな。急きょ攻撃力のあるチームを欲しているんだ。昨日、銃を見せてもらった。ハンドガンだったが、あれはあんたの能力か?」


 ハルが頷く。


「えぇ」

「銃は他にもっと強力なのは出せるか?」

「……えぇ」

「俺たち用とか準備できるか?」

「準備はできます。ただ扱い方を覚えてもらう必要性が」

「うむ。そこで手を組もうと言っているんだ」


 するとハル。今まで見せたことのない厳しい態度と口調で対応を始めた。


「こっちにメリットがないように思えますが?」

「メリットか。そうだな。でも俺たちなら、お前さんらの盾にならなってやれるぜ」

「そういうのは、うちのスタイルには合わないです」

「そうか?」


 そう言ってヒメを見た。そして堅師が口を開く。


「なんかお取り込み中のようだな?」


 ケンシが何やら訳知り顔で話を始める。


「昨日ちょっと声が聞こえてな。船を降りるとか何とか」


 ハルの表情が険しくなる。


「それが何か?」

「いや。別に喧嘩を売っているわけじゃないし売ろうとも思っていない。ただな力にならなれるかもって話だ。一度でいい。組んで見ねぇか?」


 ハルが迷い始める。剣士が言葉を続ける。


「俺たちなら、お前さんらを守ってやれる。今のお前さん達には必要なんじゃねぇか? 守る力が」

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