弱小領地の生存戦略!

俺の領地が何度繰り返しても滅亡するんだけど。これ、どうしたら助かりますか?
征夷冬将軍ヤマシタ
征夷冬将軍ヤマシタ

11回目 寵愛ってやつを受けてやるぜ

公開日時: 2021年5月2日(日) 20:41
更新日時: 2021年5月15日(土) 19:20
文字数:3,101



「人の命を何だと思ってんだッ!!」



 そう叫びながらベッドで目を覚ましたクレインだが、彼は今回も荒れていた。

 彼がこのループに入る前は、少なくとも三年間。何の問題もなく平和に過ごせたのだ。


「ああ、もう! 返答一つしくじったくらいで首を刎ねてくる危険な王子様に比べれば、ラグナの方がいくらかマシな気がするぞこの野郎!」


 三年経って侯爵家が領地を増やした際に、早々に従属関係でも結ぶか。

 という弱気な発想が出てきたのだが。


 しかしラグナ侯爵家の畜生っぷりを見ていれば、靴を舐めても殺されるか。

 良くても家畜の扱いを受ける可能性が高いだろう。

 そう考えて、クレインは従属という選択肢を振り払う。


「ぐぬぬ……だが、ここまで死んだんだ。絶対に幸せな未来を掴んでやる」


 何より恭順の道を選べば、今までの死も、努力も全部無駄になる。

 だからもう、そもそもその選択肢は取りたくないとクレインは思っていた。


 食べ放題の飲食店で元を取りたい食いしん坊というか。退けないところまで突っ込んだギャンブラーの意地というか。

 何にせよ、ここまで来たら色々と思うところがあったらしい。


「はいはい、次は人払いね……って、いかん。銀山の位置は完璧に覚えたけど、他の作戦を結構忘れてきてるな」


 献策大会で出てきた、使えそうなアイデアは全部で十六個あった。


 が、忘れないように枕元のメモに書き込もうとしても十個しか出てこないし。

 そもそもいくつかはうろ覚えで、計画の細部が怪しい。


 自分の記憶力はこんなに悪かったかと疑問に思う一方で。

 衝撃的な体験を繰り返したから、多少記憶が飛んでも仕方がないかと諦めて、首を横に振った。



「忘れたものは仕方がない。もう一度献策大会を開けばいいとして――いや、待てよ。第一王子の側近連中からうちの領地に派遣されてくる人間がいれば、こっちが適当な案を出しても正解に導いてくれるのでは」


 こんなことを考えているのだが、何か意見は?


 そう問えば、具体化してくれる未来は何となく見えた。

 何故ならあの・・王子の元で生き残っているだけで、かなり優秀な人材というのは確定しているからだ。


 王宮から人材を紹介してもらう約束を取り付けるところまでは上手くいっているのだから、あとは第一王子と同陣営になり、支援をしてもらう方向に進めればいい。


「そうだよ。評価基準はかなり厳しめだが……王子から見れば、俺は優良物件のはずだ」


 周囲の家と深い関わりが無く、ラグナ侯爵家の考えには否定的。

 しかも銀の鉱床を見つけて、これから勢力を伸ばしていきそう。

 変なひも・・が付いていないばかりか、将来性もそれなりにあるのだ。


 できれば味方にしたいと思うだろう。


 だから何とかして王子と友好関係を結び。

 側近の中から、文官の教育役という名目で誰かを派遣してもらえば用は足りる。


 今までの道のりを考えても、そこをゴールにするのが妥当だ。

 そう結論付けて。クレインは悪い笑顔を浮かべた。



「じゃあ話は早いな。くくく……見てろよ。この俺が、第一王子の寵愛ちょうあいってやつを受けてやるぜ」

「え?」

「あ」



 運悪くというか、折り悪くというか。

 最悪のセリフを言った直後にマリーが入室してきた。


 彼女はノックの返事を待たなかったり、ノックなしで入ってきたりするのだが。

 戻れる・・・日の初日が今日なので、事前に教育することはできない。


 次回からは寝起きの発言に少し気を付けようと思う一方で、を何とかしなければ酷いことになるだろう。


 ――俺は男と男で愛を育む、衆道の人ではない。


 そう思い、クレインは冷静に立ち上がった。



「いやぁぁああ!? クレイン様が、王子様と、クレイン様がぁぁああ!!」

「待て、待つんだマリー! その話は広がると、本当にシャレにならない!」



 意外と足の速いマリーは四分ほど、屋敷中を逃げ回り。

 毎度の如く執事長に捕獲された二人は、毎度の如くお説教を受けることになった。






     ◇






 三度目となる第一王子との対談。

 今までに通った道を軽く流しつつ、クレインはターニングポイントに辿り着いた。



「では、ラグナ侯爵家はどうか?」

「素直な考えを述べたいところですが……申し上げる前に、まずは人払いを」


 クレインをこの訳の分からないループに叩き落とした家。

 全ての苦労が始まった原因とも言える、因縁の家だ。


 もちろん不満はあるし、目の前の第一王子も彼らに思うところがあるらしい。


「人払い、か」

「ええ。ここの人間は騎士からメイドに至るまで、殿下に忠実だとは思っておりますが――人の口に、戸は立てられませんから」

「そうだな、慎重なのはいいことだ」


 第一王子が目で合図を送れば、微笑み騎士以外の面々は全員退出していく。


 クレインの天敵。一番出て行ってほしい人物が残ったことを残念に思ったところではあるが。

 これで準備は整った。

 

 そこでクレインは改めて、ラグナ侯爵家のことを扱き下ろしにいく。


「名門ではございますが、野心が透け過ぎですね。王都の事情に疎い私でも、ラグナ家が謀略に一枚噛んでいることは容易に推測ができました」

「ほう。どこでそう思った」


 今までの王子の発言を振り返るに、この返答で問題はないはずだ。

 迂闊なところを見せなければこれで助かるはずだ。と、覚悟を決めてクレインは続きを言う。


「毒殺を未然に防ぐ素振りも見せず、混乱に乗じて権力の拡大を図ったのです。それにあの事変で最も得をした家がどこか。考えてみれば、すぐに分かることです」

「…………ふむ、頭は回るようだ。丸きりの凡夫というわけでも無さそうだな」


 ラグナ侯爵家に対して言いたいことを言い切り、しかも第一王子にも認められて。全てのミッションを達成したクレインは満足気に紅茶を嗜む。

 それに対して、少し考える素振りを見せた王子だが。


「で、奴らは今後どうすると思う」


 今度はいきなり暗殺を命じることもなく。クレインに目線を合わせて、更に質問を投げかける。


「彼らの野望は留まるところを知らないでしょう。水面下で手を伸ばし……第二第三の事変を目論んでいると考えています。次に狙われるとすれば、東の可能性が高いかと」

「上出来だな。貴様の見立ては恐らく正しい」


 紅茶のカップをソーサーの上へ静かに置き、第一王子は何気なく言う。



「クレイン・フォン・アースガルド。貴様のような男を待っていた」



 この言葉を聞いて全力のガッツポーズをしかけたクレインだが。

 何とか、ギリギリのところでポーカーフェイスを続けようとして。


「ふふっ、私の周辺でも、まだ先のことまで目が向いていない者が大半です」


 しかし、どうしてもニヤケを抑えることができないので。

 謎の含み笑いをしてから微笑むことにしたらしい。


「国の中枢におわす殿下が備えてくださるのであれば、私のような下々の者も安心できます」

「持ち上げるな。父上はラグナ侯爵家の陰謀に気づいておらず、憂国の士も時を追う毎に削られていく有様だ」


 止める手立てがないことを歯がゆく思っている王子は、しかめっ面で紅茶を飲み。

 微笑み騎士はやはり、優しい眼差しを向けながら微笑むばかりだった。


 今回は殺気が飛んで来なければ、不穏な気配にもなっていない。


「ここから先は少し込み入った話になる。ラグナ家から睨まれるかもしれんが、退出をするなら今だぞ? ……貴様は後々役に立ちそうだ。今なら、中立でも許そう」

「いえ。あの家を放置すれば私どもとて、いずれは破滅します。対策を練るのに今以上の機会はないと思っておりますので」


 そこで会話が少し止まるも。


「……よく回る口だな。まあ、いいが」


 そう憎まれ口を叩いた王子の口元には、微かに笑みが浮かび。

 どうやら機嫌が良さそうだとクレインは判断した。


 難所を突破したクレインは、ようやく先に進んでいけることに安堵していた。



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