「跡目争いと言うなら、第二王子の周辺だろうね」
少し考えれば、ヨトゥン伯爵にはすぐに推測がついたらしい。
当然のことのように言う伯爵だが、クレインに中央の知識は無い。
その辺りを察してか、彼は最初から話し始める。
「王国では女性が玉座に座ったことは無い。第一王女は優秀な人物だったが、現実的に王位を考えれば第一王子と第二王子のどちらか。ということになるだろう」
「なるほど。……第二王子以外の可能性はどうですか?」
継承権の争いと言うなら、女性である第一王女は候補から外れる。
ならば第二王子以外の子がどうかと言えば。
そこは南伯にも、選択肢に上がりそうな人物が思いつかなかったらしい。
「庶子も何名かいるようだが。そこから引き立てるなら、親戚筋の公爵家から人を送る方が無難だよ」
「庶子の数はどれくらいですか?」
「二、三人というところかな。まあ、実際に何人いるかは分からない」
国王が認知していない子。身元がハッキリしない子を玉座に付けるくらいなら、王族の血が流れている名門から跡取りを取る方がいい。
これも現実的な話だ。
以上のことから、跡目争いの結果として第一王子が暗殺されたと言うなら――生存者は第二王子ということになる。
「それ以外の選択肢は考えにくいと思うね」
「……そうですか」
「ああ。何故あの事件から二年が経って出てくるのかは分からないが。暗躍の可能性が高いとすれば第二王子の勢力だろう」
誰かが意図的に流した噂ならば、第二王子が再び政界に出る前の撒き餌とも見れる。
そう結論が出そうになるが、クレインはまだ考える。
「陛下の正式な子は、第二王子までですか?」
「いや、第三王子もいたが。当時まだ五歳で、目立った後ろ盾も無かった」
「生きていれば七歳ですね。傀儡として使おうとする勢力は無いでしょうか」
そう言われたら、ヨトゥン伯爵としても否定はできない。
東西南北の有力者と、王都の権力者。
誰がどう動くかも分からないので、王族の末席を担ぎ上げる可能性はあった。
「無いことは無い、と思うが」
しかし今の状況を見るに、東側の勢力が赤子同然の王子を担ぐとは考えにくい。
中央への道はブロックされているのだから、実権は握れないし。
今の状況で無理に攻めれば、今度こそ王宮が本腰を入れて対処するだろう。
南侯はクレインと同じく、中央への興味が薄そうだ。
北伯は分からないとして、北侯は第一王子を掌で転がしていた方が得だった。
だからクレインが傀儡という可能性を考えるなら。
残る選択肢は西か中央の勢力になるのだが。
「いえ、申し訳ない。……これ以上は推測の域を出ませんね。検討は、続報が入り次第にしましょうか」
「そうだね。それがいい」
北と東の問題が片付いたかと思えば、今度は王都だ。
不穏な気配はあるが、勢力的には安泰なところまできている。
「願わくば平和にいきたいものですが」
「もう何度かは、荒れるだろうね」
不安ばかり覚えていても仕方がない。
と、頭を切り替えて。
一番の懸念を伝え終わったクレインはピーターを下がらせてから、今日の本来の予定に入っていく。
「では。最新式の農耕具の買い付けと、指導員の派遣についてですが」
「いい値が付くことを期待しているよ」
クレインは問題を、内政面に移す。
ラグナ侯爵家とは軍事関係が主だが、ヨトゥン伯爵家とは商売が主になる。
「現地を視察した者から、希望のリストは上がってきています。ご確認を」
降って湧いた報告で中断したが、今日のメインはこれだ。
リストを受け取った南伯も、真剣に中身を検討している。
「ふむ。跳ねくりと脱穀機、それから三又クワは必須。指導員は熟練者を希望か」
「はい。詳細は個々に話すとして、まずはそちらのご要望もお出しいただければ協議がしやすいかと思います」
にっこりと笑うクレインだが。
最先端の技術を領地全体にバラ撒くのだから、結構な額の商談になる。
だからその目は真剣だったとして。
「こちらの要望もまとめてきたが。主に鉄かな。とにかく採掘量を上げてほしい」
「……なるほど。こちらで加工までして、製品として卸しても構いませんよ」
「ほう」
ヨトゥン伯爵家からしても、他勢力の横やりが入ると弱い点が浮き彫りになっていた。
だから可能な限り、アースガルド家で穴埋めしてほしいと考えている。
農具や武具に限らず、日用品へも鉄は大量に使う。
しかし南方に、鉄の鉱床などありはしなかった。
だから特に鉄鋼関係は、アースガルド家で何とかしてほしい分野になる。
鉱物と食料。
互いに求めるものがハッキリしているので、要望がぶつかることはない。
明確な利権争いもないので、あとは値引き合戦だ。
「加工の技術者まで当家から紹介するなら、そこは考慮してほしいな」
「いえいえ。北侯の紹介で招く予定です。プランは既にあるので、適正価格でお願いしますよ」
「北侯の? ……よろしい。詳しく聞こうか」
使えるものなら何でも使って交渉をする。
自領を富ませたいと思っているのはどちらも同じだ。
クレインは折角だからと、ラグナ侯爵家の影響力も大いに活用している。
例えばヘルメス商会に対して北侯からお願いをしてもらって。
以前よりもスムーズに人や物の移動ができるようになっているのもそうだが。
「なるほど、ここは北侯の力を使って……」
「ええ。我々だけでどうにかするなら、北侯に骨を折っていただくのが一番安く済むと思いませんか?」
「違いない」
宿敵に頭を下げるのは、色々と思うところがあったクレインだが。
しかし蓋を開ければ意外と対等な関係だった。
従属関係とは違い、あくまで協力体制だ。
こうなれば徹底的に利用してやれ。
と言わんばかりに、美味しいところは全ていただいている。
特に技術者のような集団を招こうとすれば、アースガルド家やヨトゥン家が用意すると高くつく場合も多い。
しかし北侯のお抱えや、配下の貴族家が抱えている人材を借りるなら安上がりだ。
「だがこれでは、こちらばかりが得をしていないかな」
「北侯が求めるのは安全保障です。利益がいらないと言うなら、有難く頂戴しましょう」
「はは、そうだね。その方向で行こうか」
その後も細々とした交渉は続いたが。
どうやら両者、軍事よりも内政や経済をやっている方が好きらしい。
生産量を上げるための機材と人材。
その購入交渉の方は、結構な熱が入っていた。
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また陰謀の影がちらつきますが、もう少しで四章も折り返し。
次の五章で、一章から四章までに溜めた不明点をまとめて回収することになります。
次回、農業。
今はほのぼの内政生活をお楽しみください。
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