弱小領地の生存戦略!

俺の領地が何度繰り返しても滅亡するんだけど。これ、どうしたら助かりますか?
征夷冬将軍ヤマシタ
征夷冬将軍ヤマシタ

12回目 異変

公開日時: 2021年5月3日(月) 01:42
更新日時: 2021年5月4日(火) 19:17
文字数:3,271



「…………え?」



 朝になって目覚めたクレインは、呆然としていた。


 昨晩新しく寝室に置いた、商人たちからの贈り物。

 調度品の数々が、一切残らず無くなっていることに気づいたのだ。


「あ、あれ? これって、もしかして」


 昨日の会合で、商人が友好の証・・・・に献上したものは色々とある。

 高尚な絵画やら特徴的なデザインの壺やら、寝室に置くには異彩を放っているものだったので。クレインもいずれはどこかに移動させようと思っていた。

 しかし、本当に一つ残らず。枕元に飾った花瓶までが消えている有様だ。


「は? な、なんだ? 俺は死んだのか!?」


 寝ている隙に殺されたのだろうかと慌てるクレインだが、まずは死ぬ前の状況を冷静に振り返ってみる。


「会食が終わって、家に帰ってきて。腹が痛いからと胃薬を飲んで――」


 毒殺。という可能性が頭を過ぎる。

 少なくとも襲撃で殺されたわけではないはずだ、と、彼は考えていた。


 その根拠として、数回前の人生では暗殺を避けるために小旅行へ出たことがあったのだが。寝ている間に襲撃されて、微笑み騎士ことブリュンヒルデからの攻撃で即死している。


 しかし最後の数秒。絶命する直前の記憶を微かに保ったまま、クレインは死んでいた。

 即死であっても、意識が消えるまでのごく短い時間は知覚できるらしい。という経験があったのだ。



「そもそも普通なら、殺される前に物音で目が覚めるからな。……気配も感じさせずに殺してきた微笑み騎士がおかしいんだが」


 眠りについた後の記憶が無いということは、就寝後は二度と目覚めなかったということだろう。

 そう推測したクレインは、一番怪しい物体を思い浮かべた。


「タイミング的には……胃薬だよな」


 昨日クレインが飲み食いしたものは、そう多くない。

 食事はいつも通りの朝食と、会食で出された料理、そしていつも通りの夕食だ。

 その他に口にいれたものは、商人のトレックから貰った胃薬しかなかった。


「毒殺だとして、原因が胃薬と決めつけるには早い。会食に何か仕込まれていた可能性もある」


 そもそも腹の調子が悪いから薬を飲んだのだ。

 昼食に変なものを混ぜて、そこから胃薬という二段構えの可能性もあるが。昼食自体に何かが仕込まれていた可能性はある。

 そもそもクレインには、トレックが己を毒殺する理由が見当たらなかった。



「……まあいい。全ては順調に進んでいるし、俺に敗北はない」


 犯人が誰であれ、殺し方がどうであれ。クレインならば必ず正解に辿り着ける。

 例えば、多少遠回りではあるが、次は会食のメンバーを一人か二人減らせばいい。


 特定の誰かを呼ばなかった時にクレインが生きているとしたら。

 高確率で、その場にいなかった人間が犯人となる。


「そうだよ。……ふふっ。誰がやったかは知らんが、目にモノ見せてやるぞ」


 身体に起きた異変と言えば、腹痛だけだったのだ。あの会食を繰り返せば、最後には確実に犯人を絞り込めるだろう。

 会食後に死なないパターンがあったとして。その後胃薬を飲んで死ねば、トレックが犯人で確定だ。


 いずれにせよ、敗北はない。


 そう思い、クレインは立ち上がった。

 目覚めてから数日で命を落とす日々が続いていたが、前回は四か月も生き残れたのだ。



「そう、未来は俺の手の中だ。ふ、ふふ、フゥワーハッハッハッハ!!」

「クレ……失礼しましたー」

「え?」



 熱意を燃やすクレインがふと部屋の入口を見れば、モーニングコールに来たメイドのマリーが回れ右をして退室するところだった。


 そして自分の姿を冷静に振り返れば――



 ――変な人だった。


 朝一番からベッドの上に立ち上がり、「未来は俺の手の中だ」と宣言しつつ、一人で高らかに笑い声を響かせている男。

 これはもう、誰がどう見ても完全に変な人である。



「クレイン様がおかしくなっちゃったぁぁぁああ!!」

「待ってくれマリー! 違うんだ! ……えっと、あれは違うんだッ!!」


 何がどう違うのかはクレイン自身にも分からないが。

 ともあれ、当然マリーは止まらない。


 二人は今回も仲良く執事長に捕まり、お説教を受けることになったのだが。



「クレイン様。朝からどうしました?」


「それは――え? ひ、ひえっ!?」



 廊下で正座をしていたクレインが声に振り向けば。

 そこには微笑みを浮かべた死神こと、クレインの護衛と秘書を兼任している女性。

 ブリュンヒルデ・フォン・シグルーンが立っていた。


 驚いて立ち上がったクレインは、廊下で正座していたせいで足が痺れている。

 ふらついて態勢を崩した彼は、後ろ側へ倒れ込み。


「あっ」


 花瓶が置いてあるテーブルの角へ頭をぶつけて――そのまま帰らぬ人になった。





     ◇





「いやいやいやいやいや、ちょっと待て!」


 そうしてクレインは、叫び声と共に目を覚ます。

 彼は今、パニックに陥っていた。


「マリーッ! マリーはいるかーッ!」

「え? ど、どうしましたか、クレイン様?」

「今日の日づ――いや、今日の新聞を持ってきてくれ」


 今日は何月何日だ? と聞けば彼女は答えてくれるだろうが、それでは今後に影響が出るかもしれないと判断した。

 だからクレインは、日付が書いてあるだろう新聞を要求したのだが。


「お、王国歴500年8月1日……だと」

「クレイン様?」

「ああ、マリー。ありがとう。下がっていいよ」


 首を傾げて出ていくメイドを見送って、クレインは頭を抱えた。

 今までは必ず、王国歴500年4月に戻っていたのだ。

 それがいきなり8月スタートに切り替わったのは、どういうことだろうと。


「え、ええと。もしかして、「最初からやり直すのが嫌だ」とか言ったからなのか?」


 前々回亡くなる前に、彼は確かにそう言った。

 しかし。そうだとすれば大問題である、と、クレインは顔を青ざめさせる。

 もしも今までの行動で、何か詰み・・に繋がるものがあれば終わりだからだ。


 例えば転生した後の初手で、「銀鉱山を発見した」という報せを使者に持たせて王都に送ったとして。


『銀鉱山を見つけるのは大変だったし、手続きも面倒だったな。いやぁ、次は・・手続きが終わったところから始めたいもんだ』


 などと言えば。もう、スタートした直後にブリュンヒルデが殺しに来て終わりだ。

 手続きが受理された=第一王子が暗殺命令を下したと思っていい。


 このように、例えば受理された日の朝からリスタートだとしたら。もう微笑み騎士が殺しに来るまでの数日を、無限にループするしかなくなってしまう。

 クレインが直接交渉に出向くという手を打つこともできず、死ぬことになるのだ。


「だ、大丈夫か!? 大丈夫なのか、これ!?」


 だから彼はパニックになっていた。

 今までは領地を発展させられて、かつ、自分が死なずに済む道を探してきただけで。それが最善手だったのかはまだ結果が出ていない。

 過去に取り返しのつかない間違いをしていた可能性は否定できないのだ。


「お、落ち着け。いいか、慌てるなよ? なあクレイン・フォン・アースガルド。まだ詰んだわけじゃないし……そうだ! 4月に戻れないと決まったわけでもない!」


 終わったことを言っても仕方がないだろう。

 そう結論付けて、クレインは前向きに考えることにした。


 これも新しいことを試すチャンスだと。



「あ、ああー。やっぱりこの時期からじゃあ中途半端だよなー。次にやり直せるなら、4月からがいいわー」



 と、まずは棒読みに賭けてみた。

 演技力は無いが、必死さと熱意は本物である。

 もしもこれで開始日時が変動するならば、今後は何か失敗した時にすぐリスタートできるだろう。


 開始がもう8月で固定なら、今後は絶対に不用意な発言をしない。

 復活の日に自由が利くなら、それを利点と考えて生かしていく。


 状況は把握できていないが、とにかく彼はそう決めた。



「……しかし、三年前に戻れるのは最初の一回だけだとか。ある程度時間が進んだら、戻れる範囲が狭くなるとか。色々考えつきはするな」


 そもそもの話。自分が何故、こんなやり直しをできているのかすら分かっていないのだ。

 この状況に対する漠然とした不安を抱えつつも、クレインは進む。


「まあ考えたって仕方がない。まずは暗殺回避からだな、うん」


 そう言ってカーテンを開け、彼はまた、生き残るための作戦を考え始めた。



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