弱小領地の生存戦略!

俺の領地が何度繰り返しても滅亡するんだけど。これ、どうしたら助かりますか?
征夷冬将軍ヤマシタ
征夷冬将軍ヤマシタ

39回目 アースガルド子爵家を、一緒に滅ぼそうぜ!

公開日時: 2021年5月14日(金) 00:59
文字数:2,196



「調査方法は秘密だ。マリウスは頑張ってくれたし、トレックも活躍してくれた。滅びた家から吸収した人材もいい働きをしているが……何も、それだけが情報源というわけでもないからな」


 そこに加えて、王国の役人たちや懇意にしている商人たち。

 そして領主に好感を抱く領民からの情報提供。

 南伯とも最近は頻繁にやり取りをしている。


 ぱっと思い浮かべても、彼らの脳裏には様々な提供元が思いついた。


 それらを活用したとして、この情報量は異常なのだが。

 しかし敵の詳細を知れて、困ることはない。


「敵を知り、己を知らば、百戦百勝というやつですな、うむ」

「あ、ああ。そうだな」

「おう。まあ、居場所さえ分かっていりゃあ暴れるだけでいい。こっちのモンだぜ」


 それは何かの兵法書に書いてあったフレーズだ。

 ランドルフは多分、覚えた単語を早速使ってみたかったのだろうな。

 とは思いつつも、口には出さず。



「もしも無策でいれば、有事の際の対処に三、四千の兵を使うだろう」


 何はともあれクレインは作戦会議を続ける。


「だから不穏分子を叩き潰して、派遣する兵を減らしたいということですね?」

「そうだ。将来的には戦力にしたいが、今のところは新領地だけで警察機能を回せるようになることが目標だ」


 クレインとしてもプラスを取っていきたいところではあるが、領地が安定するまでには一年を見ている。

 言ってしまえばラグナ侯爵家が東進する時までに整っていればいいので、クレインが今回目指すものはプラスマイナスゼロだ。


 治安維持に使っていた三千の兵が戻ってくれば、合算で一万三千の兵を得られる。


 兵が立て籠もる城を攻め落とすなら、攻める側には三倍の兵が必要と言われているが――立て籠もる予定でいるのは急ごしらえの砦だ。

 それでも弱体化したヴァナウート伯爵軍ならば、兵数が二倍と少しだとしても撃退は可能だろう。


 そんな目論見で、数回前の人生から兵数を増やす工夫をしていた。

 できることから始めた結果がこれだ。


 実働部隊を率いる三人は驚きのせいか反応が鈍いが。

 何にせよ、この作戦は完全に遂行しておく必要があった。



「東の動静がキナ臭い。二か月以内……可能であれば一か月ほどで、仕事を終わらせてほしいんだ」


 地図を食い入るように見ている三人に対し、クレインは期限を告げる。

 すると三人は、拍子抜けしたような顔をしていた。


「ここまで詳しいことが分かってりゃ、一月もいらないと思うがね」

「こればかりは同意ですな」

「拙者もそう思うが……。よく、ここまで詳細な情報が集まりましたな」


 情報の確度については、クレインも自信を持っている。


 ここに集められた情報が正しい確率は、ほぼ百パーセントであり。

 言ってしまえば、既に現実を知っているクレインだからこそ回収できたものだ。


「分かった。では一月以内に頼む。……まあ、情報については全面的に信頼してくれていい」


 彼は同盟締結後にも五回死んでいる。


 その間に何をしていたのかと言えば――密偵だ。


 滅ぼされたというか、返り討ちにあった小貴族家の人間は。

 悲しいことに誰一人として、クレインの顔を知らなかった。


 知らない人を相手によくあそこまで派手に喧嘩を売ったなとは思いつつ、今回はそれが良い方に働く。

 誰もクレインという人間を知らないのだから、堂々と敵地へ乗り込み。



『アースガルド子爵家を、一緒に滅ぼそうぜ!』



 などと言いながら、クレインは仲間集め・・・・をしていた。


 一斉蜂起するんだ、団結するんだと呼びかけながら、各地に潜んだ不穏分子たちの元を訪ねて周り。


 どの地域の誰が味方に・・・なってくれそうなのか。

 反乱を起こそうとしている人間たちと相談をしながら、敵味方を徹底的に調べ上げていた。


 調査の過程では、たまたまアースガルド領へ行商に来たことのある商人から、正体を見破られたこともあったのだが。



『ば、バカ野郎! そいつがアースガルド子爵だ!』

『なにぃ!?』

『バレては仕方がない。さらばだ!』

『ええっ!?』


 捕らえられる前に剣で己の首筋を切り裂き、颯爽とこの世を去って脱出だ。


 こうして三度ほど、自ら過去に戻っている。


 自分のことを知る人間と会わないように気をつけながら、各地の勢力がどうなっているかを調べ上げたら。

 次はマリウスが率いる密偵たちの出番がきた。


 クレインが個人的に目星を付けた場所を更に調べ上げて、あらかた情報が出揃ったと判断したら更に次の段階だ。

 今度は今と同じように、ハンスたちを突撃させて賊の拠点を壊滅させていった。



 捕らえた残党からより詳細な情報を聞き出していき。

 残念なことに、一番厄介な男爵の長男に逃げられたので再度やり直し。


『くっくっく、アースガルドめ。地下通路があるとは夢にも思うま――』

『いらっしゃい』

『……は?』


 ハンスたちに追い立てられてきた長男を、脱出路の出口で待ち構えて捕獲した。


 そのあとはもう尋問祭りである。


 捕り物をしている最中には実際に隠れ家などを見て周り、隠し扉や隠し財産の場所まで全て丸暗記してから、再度やり直しだ。


 本来なら半年・・かけて調べるはずの情報を持ち帰り、本来なら取り逃がす人間を捕まえる算段を立ててから今に至っている。


 狼藉者捕獲タイムアタックは前回で既に三か月を切り、決戦には間に合う速さだったが。


 ここをより効率的に。

 最短経路で全ての敵を叩き潰せるように、クレインは各種の作戦ルートを修正した。


 何にせよ調査は完璧なので、クレインは自信を持って部下を送り出していく。



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