弱小領地の生存戦略!

俺の領地が何度繰り返しても滅亡するんだけど。これ、どうしたら助かりますか?
征夷冬将軍ヤマシタ
征夷冬将軍ヤマシタ

初回 領地滅亡

公開日時: 2021年5月1日(土) 15:30
更新日時: 2021年5月17日(月) 00:10
文字数:1,602


「うーん。取り敢えずは、そうだな……身に覚えがないことを王宮に訴えよう」


 彼が言う通り。アースガルド家から侯爵家に対して実際には何もしていないのだ。

 法務官が買収でもされていない限り、勝ちは確実と言える。


「そうだ。まずは無実を証明する時間を稼いで、その間に裁判をしよう」


 味方が争っても良いことなど何一つないのだ。

 王宮から怒られたら、流石に兵は出さないだろう。


 それは極めて常識的な判断だった。


「あの、クレイン様」


 普通でまともなやり方を選んだクレインだが。

 一方で執事長の顔は、青ざめている。


「心配するな。正義はこちらにあるのだから、法廷で勝訴をもぎ取ってきてやろう」

「違います、何と申し上げればいいか……」


 クレインもそれなりに由緒ある家の御曹司だ。

 それなりに高水準の教育を受けている。

 法律知識を総動員し、王宮に訴えるための算段を考え始めた領主の横で――


 執事長は、西にある山の方を指して言う。


「あれは、軍勢では?」

「は?」


 一拍遅れてクレインが振り向けば、山の向こうからぞろぞろと大軍が行進してきており。

 それが一直線に、街へ向かってきているのが見える。


 そして、クレインたちが敵軍を視認するのとほぼ同時。


「クレイン様ぁぁああ! 大変です!」


 衛兵隊長のハンスが屋敷の庭へ転がり込むように乱入し。

 クレインの前へ平伏してからすぐに、悲しいお知らせを叫ぶ。


「敵軍が攻めて来ました! 既に開戦の狼煙が上がり――敵の数は三万ほどです!」

「はぁ!? さ、三万!?」


 ケチな小競り合いをするつもりなど一切なし。

 一族郎党まとめて滅ぼしてやろう。


 という意図が透けて見えるほどの数である。


 どう考えても、こんなしがない子爵家に対して投入する兵力ではない。

 クレインの領地で兵を集めたとして、集まるのは三千がいいところなのだから。


「しかも奇襲戦争かよ!」

「……残念ながら」


 通常であれば事前に話し合いが行われて。


 戦場をどこにするか。

 何日に開戦するか。

 どこで手打ちにするか。


 と、ある程度の台本を用意するのだ。


 味方が本気で殺し合えばシャレにならないので、ほとんどは小競り合いで終わるし。

 民間人を逃がす時間だってもらえるはずなのだが。


 宣戦布告の手紙を受け取ってから、まだ十分も経っていない。


 順当に考えれば「使者の到着が遅れた」と見るべきだが、ここまで準備万端ならば意図的だろうか。


 クレインはぼんやりと、そんなことを考えていたが。

 敵はもう動き出している。



「防戦は無理です! すぐにお逃げください!」

「使者は――送ったところで無駄だろうな。……ここは逃げるしかないか」


 もう軍事行動を起こしているのだから、今さら平和的な話合いなど無理だ。

 そう判断したクレインは、馬を繋いである厩舎へ向けて走り出した。


「冗談じゃないぞ、くそっ!」


 ラグナ侯爵家は戦争の決まり事を無視しており、違法な戦争を仕掛けている。

 大した理由も無く味方に軍を送るなど、場合によってはお家取り潰しになるレベルの大罪なのだが。


 しかし。被害者が全員・・亡くなっていれば、深く追及はされないだろう。


『開戦の通知は送ったのに、相手が防衛の準備をしていなかったんです。だから勢い余ってから滅ぼしてしまいました』


 そんな弁明をしたとして。

 反論する相手が墓の下なら、王宮に罰金を払って終わりになるはずだ。



 ――死人に口なし。



 その状況を作るため。

 少なくともこの街の人間は、一人残らず抹殺されるだろう。


 クレインにも、そんな展開は予想がついたのだが。



「そんなの……アリかよ」



 呆然とする彼らの前に、雪崩のように押し寄せて来る敵軍。


 それは平和な街を蹂躙して、あっという間に全てを呑み込んでいった。






 王国歴503年3月30日。


 この日アースガルド領は、ルール無用の奇襲戦争によって滅びた。





―――――――――――――――――――――――


 絶望の幕開けではありますが。


 各話の下に☆が付いていますので。

 その話の出来を都度、評価していただければ幸いです。



読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート