弱小領地の生存戦略!

俺の領地が何度繰り返しても滅亡するんだけど。これ、どうしたら助かりますか?
征夷冬将軍ヤマシタ
征夷冬将軍ヤマシタ

26回目 反省を活かして

公開日時: 2021年5月7日(金) 16:31
文字数:2,412



「お疲れ様です、閣下」

「ああ、そっちもな。……どうだった?」

「見どころがある者は何名かおりました」

「そうか」


 涼し気な顔でそう言うブリュンヒルデの足元には、兵どもが転がっていた。

 王国が誇る近衛騎士で、しかも王子の側近まで務めるブリュンヒルデはやはり、並の者では相手にならないらしい。


 もちろんランドルフ他、数名ほど対抗できそうなものはいるが。

 やはり大半はアテにならないと確信しつつ、クレインは指示を出す。


「じゃあ合格者のリストアップを頼む。まずは小隊長くらいの扱いで始めよう」

「承知致しました」


 辺りは死屍累々だ。

 白目を剥いた参加者がその辺に転がっているような場でも、二人は通常運転だった。


 クレインは人死にを何度も見てきたどころか、己が何十回も死んでいる。

 ブリュンヒルデは殺人に抵抗が無いどころか、善行と思っている節がある。


 多少の怪我や気絶くらい、何てことのないメンタルをしていたのだ。

 淡々と雇う予定の人物に声をかけて回れば――


「お、女だからと油断しただけだ! もう一度お手合わせ願おうか!」

「次は本気でやるぞ! 再戦しろ!」


 今度は不合格となった者から不満が飛んできた。

 が、しかし。ブリュンヒルデの態度はどこ吹く風である。


「衛兵のポストはもう少ないので、今回の試験では護衛官の適正を見ました」

「……だから、何だと言うのだ」

「先ほどの発言ですが。暗殺者が女性だった場合、貴方は気を抜いてしまうということなので……不適格です」


 相手が美人だからと、鼻の下を伸ばしている間にノックアウトされた者も何名かはいるらしい。

 この中から護衛の選抜をしようとしているクレインにとって。


「女の暗殺者など、そうそうおるまい!」

「そうだ! 油断させるなど卑怯だ!」


 そんな発言をする人間は大幅減点だった。

 言うまでもなく、彼が死ぬとすれば大抵は女性の・・・暗殺者・・・に殺られるからだ。


「うん、そうだな。相手が女性だからと油断してかかるような人物に、背中は任せられない」

「し、子爵様……」

「ですが我々は……!」


 あまり評判が良くなり過ぎても問題だが、悪評が立つのはもっと問題だ。

 不合格の逆恨みに、あらぬ噂をバラ撒く者がいる可能性もある。


 だからクレインは止めに入ったついでに、不合格者たちへ提案した。


「実力を発揮しきれず不合格になった者は、今月末の武闘トーナメントに参加するといい! 敗者復活戦だ。そこで失敗したなら実力不足と知れ!」


 とはいえ今回は、優勝賞金がそこまで高くない。

 精々が引っ越し代くらいであり、入賞者には副賞として仕官の権利があるところだけは一緒の催しだ。


「武闘トーナメント?」

「あ、そう言えば、街でそれらしい張り紙を見たな」


 正直に言えばもう武官が余りつつある。

 しかし今回は民衆へ娯楽を提供するつもりで開催するので、祭りの必要経費として割り切ることにしていた。

 真面目にやって強い者が出てくれば、それはそれでプラスでもある。


「興味がある者は参加してくれ。話は以上だ、解散!」


 子爵から話を打ち切ってきた以上、話はこれで終わりだ。

 帰って行く仕官希望者たちを前に――クレインは過去の失敗を思い出していた。


 以前は不作で先行きが不安な時に、大盤振る舞いの賞金を出して反感を買った。

 それが原因で反乱が起きる程度には、失策だったと言える。


 しかし今回は不作を乗り切り、しかも開発ラッシュで先は明るい。

 賞金も少額で、アースガルド領へ来たいのなら補助を出す。くらいのものだ。



「トーナメントですか。考えましたね、閣下」

「女に負けるのは武人のプライドが許さん。とかいう奴もいるんだろ? なら武人同士で決着を着ければ文句は無いはずだ。祭りにも丁度いいしな」

「ええ、良き案かと」


 これ以上腕自慢を雇う意味が薄いとして、この大会を開くデメリットはほぼ無い。

 しかしメリットならいくらかある。


「試験に落とされた恨みを参加者同士に向けることができるし、移民関係のトラブルでストレスを抱えた住民たちへのガス抜きもできる」


 娯楽が少ない時代にはコロッセオなどが流行るものだが。

 クレインは現代風に言うと、格闘技の興業のようなものを行うつもりでいた。


 単純な殴り合いは野蛮でも、決闘や競技ならそれは立派な祭典だ。

 冬の間は農閑期で出稼ぎに来る村民も増えるので、村へ帰った時の土産話にでもしてもらえばそれでいいと考えていたらしい。


「何にせよ話題にはなるだろうし、領民たちに娯楽を提供するのも領主の務めだ」


 楽しみを領内全域で分かち合えれば、領民たちの距離も縮まるだろう。

 という目論見もあった。


「領内の融和もしていきたいからな、祭りごとで領地全体の結束を高めるのも大事になるだろ?」

「収穫祭は村ごとですからね。交流行事として定期開催しても良いかと存じます」

「ああ。将来的にはこれをアースガルド領名物にして、観光客を呼べるようになれば万々歳だ」


 クレインも、失敗したことへの原因と対策は常に考えてきた。

 今回は過去に考えた対策で上手い方向に転がりそうだと踏んだから、トーナメント開催を決断したのだ。


 仕官希望者たちに不満を抱かせないこと。

 領民に楽しんでもらうこと。

 ついでに、背水の陣で臨む武芸者たちの中から、取りこぼした人材を拾えること。


 少ない開催資金でこれだけの利点を生めるのだから、やらない理由がなかった。



「トレックの奴なんかは出店で儲ける気満々だったが……まあ、たまには楽しんでもいいだろ」


 もしかすれば。前回の献策大会に来なかった人材で、事情が変わって参加してくる者がいるかもしれない。

 できればランドルフ級の人材が出てきてくれないかなと期待しつつ、クレインは未来に思いを馳せる。



 食糧事情以外の内政面が安定してきた頃だが。人材のスカウトも、予想より遥かに順調だ。

 ここ最近では死んでもおらず、変な謀略を仕掛けられた形跡も無い。


 ヘルメス商会や北候、東伯など、気を付けるべき勢力は大勢いるものの。クレインは全てが好転しているように感じていた。



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