「うっわぁ」
すっごい。
さっきまで畑ばっかりだったのに。
道は石畳だし家も石造りだ。
しかも2階建てとか3階建てばっかり。
お店とか露天も並んでるし、すごい活気。
「すごいね」
「うん、すごいな。世界遺産みたいだ」
どこだったっけ、ほら、名前出てこない。
「エディンバラ?」
「いや、わかんない」
「わかんないんだ。でも確かに似てるね」
やっぱり似てるのか。俺の記憶は正しかった。
「人口も多いみたいだし。中世っぽいのにね。やっぱり魔法があるからかな」
「難しいこと気にするよな、お前」
でも確かに人多いな。
しかもみんなこっち見るし。居心地悪い。おんぶされてるのも恥ずかしい。
こいつのせいで、ちょっと冷めちゃったんだもんなあ。
「気になる?」
「気になる。てか、俺が考えてることよくわかるな」
「そりゃわかるよ。ずっと一緒だったんだから」
「まあ、そりゃそうか」
けど、それだったら、もうちょっと気持ち良く調子に乗らせてほしかったけどな。
うう、恥ずかしい。圭の背中に顔くっつけとこ。
「ふふ、恥ずかしかったらそうしてて」
「うるせぇ」
「たぶんもうすぐ着くから」
「ほんとか!?」
あ、少しわき道に入るんだ。
あれかな?
女の人の横顔の看板。
「ここであってるよね?」
「じゃないか? 看板に"女神の後ろ髪"って書いてあるし」
見たこともない字で書いてあるけど読めるんだよな。
やっぱ異世界はこうじゃないと。
「入っていいのかな?」
「なんか入りづらいよな」
日本だと、入り口や壁なんかもガラスで、中が見えて入りやすく作ってるけど、ここはレンガの壁に分厚い木の扉なんだもん。
中なんて見えないし、すっげえ入りづらい。
「こうしてても仕方ないし、入ろうか」
「ん、そうだなって、あ」
何の躊躇もなく俺をおんぶしたまま入るんだな。
俺、ほんとに恥ずかしいんだぞ。
「誰もいないね」
「うん」
入ってすぐ食堂?
椅子とテーブルが置いてあって、カウンターがあって、そのむこうに厨房があって。
なんか宿屋っていうよりレストランみたい。
「すみません。誰かいませんか?」
「は~い」
子供の声? あ、カウンターのむこうに子供がいる。女の子?
「ママ~、お客さん~」
いっちゃった。左のほうに出入口があるのかな。
「グレッグさんの娘さんかな?」
「じゃないか? 奥さんのわけはないだろうし」
いくら異世界でもないよな。ママって言ってたし。
「は~い」
うわ、美人だ。けっこう若い。この人がグレッグさんの奥さんかな。
「いらっしゃい。あら、綺麗な子たちね」
うひ、女の人からも言われるんだ。なんか照れるな。
「すいません。グレッグさんの紹介で来たんですが……」
「主人の? あら、あの人の字ね」
グレッグさんの書いてくれた紹介状。
ここまでの道順とかも書いてくれてたりして、なんか気遣いのできる人って感じ。
「まぁ、お金がないの? 大変だったのね」
俺達のことは、魔法師の師匠に放り出されて無一文。後払いで泊めてやってくれ。って書いてくれてんだよな。
「魔法師は変わった人が多いって言うものね。部屋は空いてるから泊まっていって」
うわぁ、すっごい優しい。
「でも、僕達はお金を稼ぐあてもなくて。本当にいいんでしょうか」
「大丈夫よ。私の趣味でやってるような宿だから。それに、2人ともも魔法師なんでしょう? 魔法師なら仕事なんていくらでもあるんだから」
そうなんだ!? ん、でも俺、よくわかんない探知と、道案内しかできないんだけど……。
「本当ですか!? よかった。頑張って働いて支払います」
圭に養われることになんのかな。なんかそれやだなぁ。
あ、そうだ。
「ケイ。降ろしてください」
「あ、どうしたの?」
どうしたのって、ちゃんと挨拶しないとだろ。
よっと。
「背負われたままで申し訳ありませんでした。私はアキラと申します。」
「あら、声も綺麗ね。アキラちゃんみたいな綺麗な子、初めて見たわ。私はエマ。よろしくね」
そこまで言うんだ。お世辞、じゃないよな。ほんとに可愛いもん、俺。
「あ、ありがとうございます。ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします。エマさん」
お辞儀して。決まった! これで印象いいはず!
「あ、すいません! 僕はケイです。よろしくお願いします」
「はい。ケイくんもかっこいい子ね。それじゃあ、お茶いれるから、話を聞かせてくれる? そこ座って」
お茶かぁ、こっち来てからなんも飲んでなかったな。嬉しいなぁ。
「晶、椅子たかいけど大丈夫?」
「ん、大丈夫。です」
流石に子供じゃないんだから。あ、ほんとに高いな。
よいしょ。座れた。はぁ。
「アキラちゃん、どこか悪いの?」
「いえ、少し歩きすぎてしまって。あまり歩く機会がなかったものですから……」
これでいいんだよな、圭。
なんで驚いた顔してんだよ!
「あら。でも、そうね、確かに日に当たったこともなさそうな肌だもの」
んんん、これは褒められてるの?
「アキラの魔法は特殊で、あまり外に出ることを許されてなかったんです」
「魔法師は大変なのね」
また嘘が重なっていく。お前ほんとに、ほどほどにしとけよ。
まぁ、あとの話は圭に任せよう。俺が話すとボロが出そうだし。
それにしても、やっぱり雰囲気あるな。壁は石レンガだけど床とか天井は木なんだ。
「まぁ、いきなり森の中にほうりだされたの? 荷物も持たずに?」
ランプ下がってる。電気ないもんな。油かな。魔法で光らせたりするのかな。
「名前も? よほどの人だったのね。お師匠様は」
あ、食堂の方にも扉がある。左の方が、グレッグさんたちの生活スペースなのかな。
「山賊!? 大丈夫だった、アキラちゃん。何もされなかった?」
「え? あ、はい。圭が守ってくれましたから」
びっくりした。やっぱ山賊って聞いたらそうなるんだ。
「そう、壊滅させたの。山賊団を……。やっぱり魔法師は強いのね。はい、お茶。熱いから気をつけてね」
「ありがとうございます」
あ、香ばしい。いい匂い。美味しいなぁ。なんのお茶だろ。
ん? 食堂側の扉が開いてる。
あ、さっきの女の子だ。幼稚園くらいかな。
んふふ。子供ってかわいいな。
「こんにちは」
「……こんにちは」
「わたしはアキラです。あなたのお名前は?」
「アーシャ」
ありゃ、逃げちゃった。嫌われたかな。
「あら、珍しい。あの子が人見知りするなんて」
「あ、そうなんですか……」
え~、ちょっとショックだ。子供にはけっこう好かれるのに。
「可愛い子だね」
うん。仲良くなれるかな。
親戚の子供とか、よく遊んであげてたけど、みんな大きくなっちゃったんだよなあ。寂しい。
あ、戻ってきた。
「アキラお姉ちゃん。おかし。食べて」
うわあああ、持ってきてくれたんだ! かわいいなあ!
「ありがとう、アーシャちゃん。一緒に食べましょう?」
「おひざ、のっていい?」
うっわあ、かわいい!
「いいですよ。さ、どうぞ」
うぐ、けっこう重い。
「まぁ。綺麗なお姉さんだから緊張してたのね。よかったわね、アーシャ」
「うん!」
「僕はケイ。よろしくね。アーシャちゃん」
「ケイお兄ちゃん? うん! よろしくね!」
素直でいい子だなぁ。いつか、こんな子供がほしいなぁ。
「ふふっ、アキラちゃんは、いいお母さんになれそうね」
お母さん?
え、お母さん!? 俺がお母さんになるの!?
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