え、異世界転移? いやなんで女の子になってんの!?

黒丸
黒丸

第1話 ありきたりな異世界転移。いや無いだろ!?

公開日時: 2021年8月13日(金) 12:38
文字数:1,552

 うわあい、HR終わったぁ!


 帰る! すぐ帰る! 一分でも一秒でも早く帰る!


 「おい一条いちじょう! 廊下走んな!」


 「はい! すいません!」


 うああ、怒られた。


 「あと近衛このえ、お前も後ろに付いていくなら注意しろよ」


 「あはは、すみません」


 「ん?」


 近衛このえ近衛圭一郎このえけいいちろう


 こいつ付いてきてたのか。全然気づかなかった。


 「けい、お前なにやってんの?」


 「一緒に帰ろう、あきら


 んんん、さわやかに笑いやがって。


 ほんと幼馴染とはいえ、なんでこんなイケメンが俺に絡んでくんのかなぁ。


 「いいけど、本屋寄るぞ」


 「知ってる。今日発売だもんね。ほんと好きだよね、あの漫画」


 「うん、好き。すっごい好き」


 特典目当てでもう1冊買おうかなって思うくらいにな!


 もうどれほど最新刊の発売を待ち望んでたと思ってんだよ。今までの分も、なんど読み返したことか。


 んで、なんど読んでも、うああああってなるんだよ。


 はぁ、尊い。


 お小遣いが厳しいから買えないけど。


 「じゃあ、ついでに駅前の本屋も寄ろう? 僕も買うから」


 「え、そうなの!?」


 「うん、特典はあげるよ。欲しかったでしょ」


 「うあああ! お前いいやつだなあ!」


 特典がかぶらないようにする配慮とか、おまえどんだけ俺のこと好きなんだよ!


 ほんと、こうやって俺の趣味にも付き合ってくるし。


 もてるのに彼女も作んないし。変な奴だよな。


 「うん、いいよ。はい、靴」


 なんか当たり前のように靴出してくれるし。


 確かに俺の身長だと下駄箱の位置が高いんだけどさ。


 「お前さぁ、ちょっと俺のこと甘やかしすぎじゃない?」


 「そう?」


 そして当たり前のように俺の上履きも戻してくれる。


 お前は俺のお母さんか。俺は幼児か。


 「よし、おっけえ。じゃあ、近い方からでいいか?」


 「うん、いいよ」


 あれ、校庭あるいてんの、俺と圭しかいないな。そんなに早く出てきたっけ、俺達。


 「あ、そうだ。コンビニも寄っていい? なんか食べながら読もうよ」


 「お前、当たり前のように一緒に読むつもりだよな」


 俺が一人で読みたい派って知ってるくせに。


 「そうだよ。特典、欲しいでしょ」


 「汚い!」


 「あはは。ごめんごめん。読み終わるまで邪魔しないから」


 ほんとにこいつは。


 「わかったよもう。じゃあ、近所のコンビニでいいよな」


 「うん。そういえば今日、おじさんとおばさん遅いんじゃなかったっけ。晩ご飯も買っとく?」


 「ん~、別にいい。あるもの食べるし」


 「そう言って絶対食べないよね。後でなんか持ってくから」


 世話焼きだよなあ。家が隣で親同士も仲いいからこそなんだけど。


 なんでこいつ男なんだろう。女だったらよかったのに。


 そしたら夢の可愛い幼なじみが……。


 いや、でも女だったら俺なんて相手にしない可能性もあるのか。


 くそお。一度でいいからもててみたい。


 「晶」


 「ん?」


 え、どうした? そんな怖い顔して。


 「何か、おかしい」


 なにかって何が?


 え、ちょ、なんで手握ってくんの!? 気持ち悪いんだけど!


 「音がしない」


 「音って……」


 そういえば、車の音がしない。すぐ正面が大きな道路なのに。


 他の人の声も、俺と、圭の声しか。


 「お、おかしいどころじゃなくないか、これ……」


 「うん、手、離さないで」


 言われなくても離すか!


 男同士で情けないけど。


 校庭には、やっぱり俺達しかいない。時間的に他の生徒が出てこないわけがない。


 校舎の中は……、人の姿も、気配もない。


 下校時間なのに。


 そんなことあるわけがない。


 「これ、圭、どうしようっ」


 「大丈夫。僕がいるから」


 「うぅ……」


 こうなると手を握ってくれてるのが心強い。


 気持ち悪いとか思ってごめん。


 でも、でもな、なんで、なんで。


 「なんで恋人繋ぎにすんだよぉ」


 お前ほんとばかじゃないの!


――ごめんなさい。


 「え?」


――本当に、ごめんなさい。


 「ひっ、なんだこの声っ!」


 「晶! 落ち着いて!」


――どうか……


 なんて言った? この声。どこから。どこ……から……。





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