うわあい、HR終わったぁ!
帰る! すぐ帰る! 一分でも一秒でも早く帰る!
「おい一条! 廊下走んな!」
「はい! すいません!」
うああ、怒られた。
「あと近衛、お前も後ろに付いていくなら注意しろよ」
「あはは、すみません」
「ん?」
近衛、近衛圭一郎。
こいつ付いてきてたのか。全然気づかなかった。
「圭、お前なにやってんの?」
「一緒に帰ろう、晶」
んんん、さわやかに笑いやがって。
ほんと幼馴染とはいえ、なんでこんなイケメンが俺に絡んでくんのかなぁ。
「いいけど、本屋寄るぞ」
「知ってる。今日発売だもんね。ほんと好きだよね、あの漫画」
「うん、好き。すっごい好き」
特典目当てでもう1冊買おうかなって思うくらいにな!
もうどれほど最新刊の発売を待ち望んでたと思ってんだよ。今までの分も、なんど読み返したことか。
んで、なんど読んでも、うああああってなるんだよ。
はぁ、尊い。
お小遣いが厳しいから買えないけど。
「じゃあ、ついでに駅前の本屋も寄ろう? 僕も買うから」
「え、そうなの!?」
「うん、特典はあげるよ。欲しかったでしょ」
「うあああ! お前いいやつだなあ!」
特典がかぶらないようにする配慮とか、おまえどんだけ俺のこと好きなんだよ!
ほんと、こうやって俺の趣味にも付き合ってくるし。
もてるのに彼女も作んないし。変な奴だよな。
「うん、いいよ。はい、靴」
なんか当たり前のように靴出してくれるし。
確かに俺の身長だと下駄箱の位置が高いんだけどさ。
「お前さぁ、ちょっと俺のこと甘やかしすぎじゃない?」
「そう?」
そして当たり前のように俺の上履きも戻してくれる。
お前は俺のお母さんか。俺は幼児か。
「よし、おっけえ。じゃあ、近い方からでいいか?」
「うん、いいよ」
あれ、校庭あるいてんの、俺と圭しかいないな。そんなに早く出てきたっけ、俺達。
「あ、そうだ。コンビニも寄っていい? なんか食べながら読もうよ」
「お前、当たり前のように一緒に読むつもりだよな」
俺が一人で読みたい派って知ってるくせに。
「そうだよ。特典、欲しいでしょ」
「汚い!」
「あはは。ごめんごめん。読み終わるまで邪魔しないから」
ほんとにこいつは。
「わかったよもう。じゃあ、近所のコンビニでいいよな」
「うん。そういえば今日、おじさんとおばさん遅いんじゃなかったっけ。晩ご飯も買っとく?」
「ん~、別にいい。あるもの食べるし」
「そう言って絶対食べないよね。後でなんか持ってくから」
世話焼きだよなあ。家が隣で親同士も仲いいからこそなんだけど。
なんでこいつ男なんだろう。女だったらよかったのに。
そしたら夢の可愛い幼なじみが……。
いや、でも女だったら俺なんて相手にしない可能性もあるのか。
くそお。一度でいいからもててみたい。
「晶」
「ん?」
え、どうした? そんな怖い顔して。
「何か、おかしい」
なにかって何が?
え、ちょ、なんで手握ってくんの!? 気持ち悪いんだけど!
「音がしない」
「音って……」
そういえば、車の音がしない。すぐ正面が大きな道路なのに。
他の人の声も、俺と、圭の声しか。
「お、おかしいどころじゃなくないか、これ……」
「うん、手、離さないで」
言われなくても離すか!
男同士で情けないけど。
校庭には、やっぱり俺達しかいない。時間的に他の生徒が出てこないわけがない。
校舎の中は……、人の姿も、気配もない。
下校時間なのに。
そんなことあるわけがない。
「これ、圭、どうしようっ」
「大丈夫。僕がいるから」
「うぅ……」
こうなると手を握ってくれてるのが心強い。
気持ち悪いとか思ってごめん。
でも、でもな、なんで、なんで。
「なんで恋人繋ぎにすんだよぉ」
お前ほんとばかじゃないの!
――ごめんなさい。
「え?」
――本当に、ごめんなさい。
「ひっ、なんだこの声っ!」
「晶! 落ち着いて!」
――どうか……
なんて言った? この声。どこから。どこ……から……。
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