ゆっさゆっさ。おっぱいもゆっさゆっさ。
いや、やっぱり見ちゃうよな。自分目線なのが微妙だけど。
なんかちょっと元気出てきた。
それにしても、この歳でおんぶかぁ。
どのくらいぶりだろ。小学生以来?
楽なのはいいけど、どのくらい歩くんだろ。
と言うか、歩かせるんだろ。
「なぁ、この道ってどこに続いてんだろうな」
「わからないけど、たぶん大きい道に続いてると思う」
「なんで?」
「ほら、この道って幅が広いでしょ」
「あー、確かに」
車がすれ違えるくらいは広いな。
「それに馬車が通ってた跡もある」
あっ。
「もしかしてその道のへこみって馬車の轍か?」
「うん、たぶんそうだと思う。そんな道だから歩いてれば必ずどこかに着くよ」
「そっか、ちょっと安心した」
この世界の人って凄いな。こんな森の中に道作って馬車通して。
生えてる木なんて凄いでっかいのに。
でも、元の世界でも昔はそうだったんだろうな。
……。
「なあ、俺たちどうなるのかな」
「どうって?」
「いや、元の世界に戻れるのかとかさ。あと町についてもお金とか、いろいろ」
「やっぱり元の世界に戻りたい?」
「そりゃ戻りたいだろ」
漫画読みたいし、アニメも見たいし。
それに、お父さんとお母さん、絶対心配してるし。
「お前は帰りたくないの?」
「そんなことないよ。帰りたい」
そうだよな。へんなこと聞いちゃった。
「でもね、晶と2人でこの世界を旅するのも楽しいなって思うんだ」
「あ~」
まあ、不安はあるけど、俺もちょっと楽しい。
「ごめんね。晶はさっき、死にそうになったばかりなのに」
「あれはあんまり現実感なかったからなあ」
まさか触手が殺しにくるなんて思わなかったしなあ。
あっという間に倒しちゃって、俺も怪我してないし。
「だから実感なくてさ、怖かったとかないんだよ」
「そっか、よかった」
「だいたいそれ言うならお前だろ」
「なにが?」
なにがって、少しは自分のこと気にしろよ!
「ケガだよ! それ……たぶん触手の時なんだろ?」
「け……あっ、いや、その、……ごめん」
「なんでお前が謝るんだよ!」
謝んないといけないのは俺の方だろ。
「まあとにかく、俺は大丈夫だから。せっかくだし帰れるまでこの世界を楽しむぞ」
「うん。ありがとう、晶」
そうだよ、せっかくチートありの異世界なんだから楽しまないと損だよな。
チートもってるのは俺じゃないけど。
ん?
あれ、なんだこれ。
「圭、ちょっと待て。なにかいる」
なんでだろう、気配とかそういうのじゃなくて、自然にわかる。
右手側、60メートルくらい先。大きな木の陰。
これは、人?
武器を持ってる。
弓矢を持ってる奴もいる。
数は4人。
これって、もしかして山賊かも。
「圭、向こうの木の陰。弓矢を持って隠れてるから山賊とかかもしれない」
「すごいね、そんなのわかるんだ」
「んー、なんとなくなんだけど。てか俺のチートってこれ!? 地味すぎだろ!」
もっとカッコいいのがよかった!
「十分すごいと思うよ? 念のため、矢避けの魔法使っておくね」
「いや、すごいなお前!」
おお、なんか周りを風が渦巻いてる感じがする。
いいな~。俺もそういうのがよかったなあ。
「とりあえずこのまま進むよ? 僕たちを警戒してるだけで、山賊とかじゃないかもしれないし」
「ん、わかっひぁっ!?」
矢が飛んできたあ! 地面に刺さってるし、びぃぃんって!
「射ってきたね」
「お前なんでそんな落ち着いてんの!?」
「当たらないよ?」
当たらないって言ったって矢だぞ矢!
当たったら痛いし下手したら死ぬんだぞ!
さっきの触手より、よっぽど生々しくて怖いわ!
――なに外してんだよ!
――いいじゃねえか!さっさと殺っちまおうぜ!
「あああっ! 出てきたぁ!」
強面のおっさん四人。
きたねえ格好だし! やっぱり山賊だよこれ!
「どうすんだよ、圭!」
「大丈夫。僕が晶を守るから」
大丈夫って、ううう、頼むぞ、圭。
「よお、いい女背負ってんな。兄ちゃん」
いい女?
って、あ、俺!? 俺が狙われてんの!?
「その女、置いてったら殺さねえでやってもいいぞ。ん?」
「俺達がたっぷり可愛がってやるからよぉ」
うああ、嫌だあ。
こんな奴らに捕まったらもう、最悪の未来しか見えない。
「おい、見ろよこのガキ! 女背負っておった……てぇ?」
は?
え?
首とれた。
なにこれ、噴水みたいになってんだけど。
「死ね」
「いやもう死んでるだろ!?」
殺した後に言うなよ!
「なっ、なにしやがったてっ……ひゅ」
うあ、また首がとんだ。魔法?
あ、矢避けのお陰で返り血こない。
「ひっ! ひぃぃっ!」
あ、逃げた!
「圭、2人逃げたぞ!?」
「うん、2人はいらないね」
あ、3人目の首も飛んだ。
すごいなこいつ。躊躇なしか。
「なあ、あいつ逃がしていいの?」
どんどん遠くに行ってんだけど。
「うん、もう少しかな」
もう少し?
あ、見えなくなった。
「よし。追いかけるから。しっかりつかまってて」
「え、追いかけるって、えええぇえ!?」
はやっ!
はやい!
なにこれ、走ってんの!?
ちょっと待って、揺れる! 揺れるって!
うああああ! おっぱい痛いよぉ! ちぎれるぅ!
んぐう! はぁ、押し付けたらましになった
「っ!? ど、どうしたの晶!」
「おっぱい揺れて痛い」
「え! あ、ごめん! 気づかなかった!」
「いいって。こうしてると大丈夫だから」
ちょっと潰れて苦しいけど。
「いや、でもこれだと僕が……」
「あ、さっきの奴に追いついたぞ!」
体力切れでよたよた走ってやがる。ざまあ!
「あ~……、本当だね。根城まで案内してもらおうと思ったんだけど、ちょっと速すぎたかな」
それで1人逃がしたのか。
ん?
あ、わかった。
「圭、根城わかるぞ」
「すごいね。かなり便利じゃない? その能力」
かなぁ。なんなんだろうな、これ。
「いわゆる探知系なのかな。凄いんだろうけど、やっぱ地味だよな」
「そんなことないよ。僕と2人でバランスいいし」
「確かにそうなんだけどさぁ」
そういう問題じゃないんだよなあ。
せめてこう回復魔法とか補助魔法とかさ。
頑張って魔法おぼえよ。
「それなら、あれはもういいね」
「あれ?」
あ、首が飛んだ。うわ、胴体が転がってる。海外のゲームみたい。
「これでよし。じゃあスピード落とすね」
これでもうおっぱい押しつけなくていいな。
はぁ、苦しかった。
「あっ」
「えっ、どうした?」
「あっ、いや、次から走るときには言うね」
「頼むな。ほんと痛いから」
あとなんか怖い。ばるんばるんして吹っ飛びそう。
「あ、そうだ、山賊の根城な、こっから500メートル先くらい。数は、えっと、けっこういるな。16人。外で見張ってるのが2人、かな?」
「やっぱりすごいよ、それ」
「かなあ?」
俺はやっぱり納得いかない。
うわっ、死体だ!
まだ血出てるし、やっぱりグロいな。
「なあ、こんなポンポン殺していいの?」
「あ、嫌だった?」
「そういうんじゃないけどさ」
別に俺をやる気マンマンだった山賊ころしてもいんだけどさ。
「あとで問題になったりしないか? 過剰防衛みたいな」
「大丈夫だと思うよ。こんなのが出る世界で法整備なんてされてないだろうし」
あ~、そういうもの、かな?
「もしかしたら偉い人の私的な略奪団って可能性もあるけど、その時は僕がなんとかするから」
「けっこう行き当たりばったりじゃねえか!」
力技かよ! いろいろ考えてるって信じてたのに!
「あはは、確かに勢いでやってるところはあるね」
「勢いありすぎだろ!」
勢いだけで4人も殺すなよ! サイコパスか!
「それに、晶を狙ってたっていうのが一番許せない」
「ほんと過保護すぎだろ」
どんだけ俺のこと好きなんだよ。
「あ、ほら、見えたよ」
あ、ほんとだ。
「洞窟かあ。定番だな」
ん?
「いやちょっと待って、なんであいつら気づいてないの?」
俺たち普通に話しながら歩いてたんだけど。
「魔法で音を消してるし認識もごまかしてるから」
「なんかもう何でも有りだな」
「この距離だと、もう気づくだろうけどね。じゃあ行くよ」
「ん、わかった」
ぽんぽ~んと。人の首ってこんな簡単に飛んでいいんだろうか。
「なんか感覚が狂いそう」
ついさっきまで平和な日本にいたのになあ。
「倫理観を無くしちゃ駄目だよ?」
「お前に言われたくねえから!」
殺してるのお前だろ!? 俺、背負われてるだけだからな!
「はぁ、もういいよ、入ろ」
「うん」
洞窟に入るのって初めてだ。うわ、暗っ。
「圭、見えるか?」
「うん。夜目の魔法があるから。晶にもかけようか?」
「いや、ん~」
なんだろ、なんか……うん。見えないけどわかるな。
「いらないっぽい。なんかわかるんだよな。構造とか」
「やっぱり凄いよ、それ。捕まってる人がいるかとかわかる?」
ん~。
「たぶん、いない。あと14人。ぜんぶ山賊だな」
「わかるんだ」
わかるんだよなぁ。ゲームのミニマップ? でもマップが出るわけじゃなくて感覚的にわかるんだけど。
それにもう目が慣れてきたし。
「あ、圭、その光が漏れてる扉」
「うん」
「その向こうに3人」
残りは、寝てるのかな。別の部屋に固まってる。
「了解。入るから、しっかりつかまってて」
「ん?」
降りなくていいの?
人質にされるとまずいってこと?
まあいいや、しっかりくっついてよ。
「っ! ふぅぅ……」
「どした?」
やっぱ緊張すんの?
「なんでもない。扉、開けるよ」
「ん」
お、いたいた。ぷっ、驚いて固まってるし。
昼間から酒飲んでたのか、こいつら。いい生活してんなあ。
「なっ、なんだてめえら!ぐっ、かっ……くぇぇ……」
うわ、なんか奇声あげてぶっ倒れた。
「おい! あっ、起こしてこい! っぶ……ぐっ……」
おお、また。
「ひっ! ひぃっ! 起きろ! 2人やられた!」
やっぱり他のは寝てるのか。なんで昼に寝てんだろ。
「なにしたんだ? いまの」
「なんか息の根を止める魔法だって。あんまり汚したくなかったから」
「へぇ。使い勝手いいんだな」
「ゲームだと使えないのにね」
ほんとな。俺、使ったことない。
あ、なんか奥が騒がしくなってきた。
「出てくるかな?」
「出てくんじゃね、うひっ!」
また矢が飛んできたあ。
「当たらないから大丈夫なのに」
「わかってても怖いんだよ!」
なんでお前は落ち着いてんだよ、そんなに!
「てめえら、冒険者か!?」
あ、冒険者とかあるんだ。てか、こっちこないのかよ!
「冒険者か、だって」
「違うもんなあ、ひぅっ!?」
うわっ、わっ! また矢が、怖いよぉ……。
「……いい」
「あっ、おまえ笑うなぁ!」
ほんとに怖いんだからな!
「よし、じゃあ、終わらせようか」
「もう早くしてくれよお」
矢がバンバン飛んできてるよぉ。
「僕達は冒険者じゃないよ」
「あっ、ああ!? じゃあ、なにしに来やがったんだよ!」
「晶に手を出そうとしたから」
そういこと言う!?
「なっ! なにを!」
「死ね」
うわああ、奥で、ばたばた死んでる。
「静かになったね。行こうか」
いや、ちょっと怖いぞ、お前。
「なあ、そんな魔法使って大丈夫なのか?」
「うん、大丈夫。まだかなり余裕あるみたい」
そうなの?
「でも触手の時、使いすぎたって言ってなかったか?」
また辛いの隠してんじゃないだろうな。
「あっ、いや、あの時は初めてだったし。それに調子に乗って高度な魔法使ったから……」
「あ~、確かにすごかったもんな、あれ」
正直かっこよかった。
あ、生き残りだ。座り込んじゃって、ちょっと哀れだなぁ。
「なんなんだお前……なんなんだよ……」
うわぁ、ぼっきり折れてる。
まぁ、折れるよなぁ。一瞬で自分以外全滅だもんな。
「このあたりに大きな街はある?」
「はっ……は?」
「答えて」
だから怖いって、圭。
「あ、ある、あるぞ! 馬で半日くらいだ!」
馬で半日ってどのくらいだっけ、たしか20キロか30キロくらい?
「食料を分けてほしいんだけど、どこに置いてる?」
「むこうだ! むこうの倉庫に、あ、いくらでも持ってってくれ、へへっ、へっ」
「晶、わかる?」
ん~? あ、あっちの奥か。
「うん、わかるぞ」
「うん。じゃ、もういいよ」
「へ? ぅぶっ……げぁ……」
おお……。
「なぁ、お前って元々そんなだっけ?」
「そうだよ。あんまり晶に見せる機会がなかっただけで」
う~ん、言われてみれば、そんなとこあったなぁ。ドライというか酷薄というか。
「嫌いになった?」
「なんねえよ」
そんな浅い付き合いじゃないだろ?
まあ、言わないけど親友だと思ってるし。
絶対いわないけど。
「……よかった。じゃあ、食料貰ってこようか。倉庫ってどっち?」
「ん、たぶんこっち」
なんかコツがわかってきた、かな。
「そういえばさ、初めて人を殺して感想とかねえの?」
「特にないかな。山賊だし。晶は?」
俺は殺してないし。でもまあ。
「特にないな。山賊だもん」
「そんなものだよね」
そんなもんだよ。
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