え、異世界転移? いやなんで女の子になってんの!?

黒丸
黒丸

第4話 定番の山賊狩り。別に酷いことはされないからな!

公開日時: 2021年8月14日(土) 22:38
更新日時: 2021年8月15日(日) 23:34
文字数:5,059

 ゆっさゆっさ。おっぱいもゆっさゆっさ。


 いや、やっぱり見ちゃうよな。自分目線なのが微妙だけど。


 なんかちょっと元気出てきた。


 それにしても、この歳でおんぶかぁ。


 どのくらいぶりだろ。小学生以来?


 楽なのはいいけど、どのくらい歩くんだろ。


 と言うか、歩かせるんだろ。


「なぁ、この道ってどこに続いてんだろうな」


「わからないけど、たぶん大きい道に続いてると思う」


「なんで?」


「ほら、この道って幅が広いでしょ」


「あー、確かに」


 車がすれ違えるくらいは広いな。


「それに馬車が通ってた跡もある」


 あっ。


「もしかしてその道のへこみって馬車のわだちか?」


「うん、たぶんそうだと思う。そんな道だから歩いてれば必ずどこかに着くよ」


「そっか、ちょっと安心した」


 この世界の人って凄いな。こんな森の中に道作って馬車通して。


 生えてる木なんて凄いでっかいのに。


 でも、元の世界でも昔はそうだったんだろうな。


 ……。


「なあ、俺たちどうなるのかな」


「どうって?」


「いや、元の世界に戻れるのかとかさ。あと町についてもお金とか、いろいろ」


「やっぱり元の世界に戻りたい?」


「そりゃ戻りたいだろ」


 漫画読みたいし、アニメも見たいし。


 それに、お父さんとお母さん、絶対心配してるし。


「お前は帰りたくないの?」


「そんなことないよ。帰りたい」


 そうだよな。へんなこと聞いちゃった。


「でもね、晶と2人でこの世界を旅するのも楽しいなって思うんだ」


「あ~」


 まあ、不安はあるけど、俺もちょっと楽しい。


「ごめんね。晶はさっき、死にそうになったばかりなのに」


「あれはあんまり現実感なかったからなあ」


 まさか触手が殺しにくるなんて思わなかったしなあ。


 あっという間に倒しちゃって、俺も怪我してないし。


「だから実感なくてさ、怖かったとかないんだよ」


「そっか、よかった」


「だいたいそれ言うならお前だろ」


「なにが?」


 なにがって、少しは自分のこと気にしろよ!


「ケガだよ! それ……たぶん触手の時なんだろ?」


「け……あっ、いや、その、……ごめん」


「なんでお前が謝るんだよ!」


 謝んないといけないのは俺の方だろ。


「まあとにかく、俺は大丈夫だから。せっかくだし帰れるまでこの世界を楽しむぞ」


「うん。ありがとう、晶」


 そうだよ、せっかくチートありの異世界なんだから楽しまないと損だよな。


 チートもってるのは俺じゃないけど。


 ん?


 あれ、なんだこれ。


「圭、ちょっと待て。なにかいる」


 なんでだろう、気配とかそういうのじゃなくて、自然にわかる。


 右手側、60メートルくらい先。大きな木の陰。


 これは、人?


 武器を持ってる。


 弓矢を持ってる奴もいる。


 数は4人。


 これって、もしかして山賊かも。


「圭、向こうの木の陰。弓矢を持って隠れてるから山賊とかかもしれない」


「すごいね、そんなのわかるんだ」


「んー、なんとなくなんだけど。てか俺のチートってこれ!? 地味すぎだろ!」


 もっとカッコいいのがよかった!


「十分すごいと思うよ? 念のため、矢避けの魔法使っておくね」


「いや、すごいなお前!」


 おお、なんか周りを風が渦巻いてる感じがする。


 いいな~。俺もそういうのがよかったなあ。


「とりあえずこのまま進むよ? 僕たちを警戒してるだけで、山賊とかじゃないかもしれないし」


「ん、わかっひぁっ!?」


 矢が飛んできたあ! 地面に刺さってるし、びぃぃんって!


「射ってきたね」


「お前なんでそんな落ち着いてんの!?」


「当たらないよ?」


 当たらないって言ったって矢だぞ矢!


 当たったら痛いし下手したら死ぬんだぞ!


 さっきの触手より、よっぽど生々しくて怖いわ!



 ――なに外してんだよ!


 ――いいじゃねえか!さっさと殺っちまおうぜ!



「あああっ! 出てきたぁ!」


 強面のおっさん四人。


 きたねえ格好だし! やっぱり山賊だよこれ!


「どうすんだよ、圭!」


「大丈夫。僕が晶を守るから」


 大丈夫って、ううう、頼むぞ、圭。


「よお、いい女背負ってんな。兄ちゃん」


 いい女?


 って、あ、俺!? 俺が狙われてんの!?


「その女、置いてったら殺さねえでやってもいいぞ。ん?」


「俺達がたっぷり可愛がってやるからよぉ」


 うああ、嫌だあ。


 こんな奴らに捕まったらもう、最悪の未来しか見えない。


「おい、見ろよこのガキ! 女背負っておった……てぇ?」


 は?


 え?


 首とれた。


 なにこれ、噴水みたいになってんだけど。


「死ね」


「いやもう死んでるだろ!?」


 殺した後に言うなよ! 


「なっ、なにしやがったてっ……ひゅ」


 うあ、また首がとんだ。魔法?


 あ、矢避けのお陰で返り血こない。


「ひっ! ひぃぃっ!」


 あ、逃げた!


「圭、2人逃げたぞ!?」


「うん、2人はいらないね」


 あ、3人目の首も飛んだ。


 すごいなこいつ。躊躇なしか。


「なあ、あいつ逃がしていいの?」


 どんどん遠くに行ってんだけど。


「うん、もう少しかな」


 もう少し?


 あ、見えなくなった。


「よし。追いかけるから。しっかりつかまってて」


「え、追いかけるって、えええぇえ!?」


 はやっ!


 はやい!


 なにこれ、走ってんの!?


 ちょっと待って、揺れる! 揺れるって!


 うああああ! おっぱい痛いよぉ! ちぎれるぅ!


 んぐう! はぁ、押し付けたらましになった


「っ!? ど、どうしたの晶!」


「おっぱい揺れて痛い」


「え! あ、ごめん! 気づかなかった!」


「いいって。こうしてると大丈夫だから」


 ちょっと潰れて苦しいけど。


「いや、でもこれだと僕が……」


「あ、さっきの奴に追いついたぞ!」


 体力切れでよたよた走ってやがる。ざまあ!


「あ~……、本当だね。根城まで案内してもらおうと思ったんだけど、ちょっと速すぎたかな」


 それで1人逃がしたのか。


 ん?


 あ、わかった。


「圭、根城わかるぞ」


「すごいね。かなり便利じゃない? その能力」


 かなぁ。なんなんだろうな、これ。


「いわゆる探知系なのかな。凄いんだろうけど、やっぱ地味だよな」


「そんなことないよ。僕と2人でバランスいいし」


「確かにそうなんだけどさぁ」


 そういう問題じゃないんだよなあ。


 せめてこう回復魔法とか補助魔法とかさ。


 頑張って魔法おぼえよ。


「それなら、あれはもういいね」


「あれ?」


 あ、首が飛んだ。うわ、胴体が転がってる。海外のゲームみたい。


「これでよし。じゃあスピード落とすね」


 これでもうおっぱい押しつけなくていいな。


 はぁ、苦しかった。


「あっ」


「えっ、どうした?」


「あっ、いや、次から走るときには言うね」


「頼むな。ほんと痛いから」


 あとなんか怖い。ばるんばるんして吹っ飛びそう。


「あ、そうだ、山賊の根城な、こっから500メートル先くらい。数は、えっと、けっこういるな。16人。外で見張ってるのが2人、かな?」


「やっぱりすごいよ、それ」


「かなあ?」


 俺はやっぱり納得いかない。


 うわっ、死体だ!


 まだ血出てるし、やっぱりグロいな。


「なあ、こんなポンポン殺していいの?」


「あ、嫌だった?」


「そういうんじゃないけどさ」


 別に俺をやる気マンマンだった山賊ころしてもいんだけどさ。


「あとで問題になったりしないか? 過剰防衛みたいな」


「大丈夫だと思うよ。こんなのが出る世界で法整備なんてされてないだろうし」


 あ~、そういうもの、かな?


「もしかしたら偉い人の私的な略奪団って可能性もあるけど、その時は僕がなんとかするから」


「けっこう行き当たりばったりじゃねえか!」


 力技かよ! いろいろ考えてるって信じてたのに!


「あはは、確かに勢いでやってるところはあるね」


「勢いありすぎだろ!」


 勢いだけで4人も殺すなよ! サイコパスか!


「それに、晶を狙ってたっていうのが一番許せない」


「ほんと過保護すぎだろ」


 どんだけ俺のこと好きなんだよ。


「あ、ほら、見えたよ」


 あ、ほんとだ。


「洞窟かあ。定番だな」


 ん?


「いやちょっと待って、なんであいつら気づいてないの?」


 俺たち普通に話しながら歩いてたんだけど。


「魔法で音を消してるし認識もごまかしてるから」


「なんかもう何でも有りだな」


「この距離だと、もう気づくだろうけどね。じゃあ行くよ」


「ん、わかった」


 ぽんぽ~んと。人の首ってこんな簡単に飛んでいいんだろうか。


「なんか感覚が狂いそう」


 ついさっきまで平和な日本にいたのになあ。


「倫理観を無くしちゃ駄目だよ?」


「お前に言われたくねえから!」


 殺してるのお前だろ!? 俺、背負われてるだけだからな!


「はぁ、もういいよ、入ろ」


「うん」


 洞窟に入るのって初めてだ。うわ、暗っ。


「圭、見えるか?」


「うん。夜目の魔法があるから。晶にもかけようか?」


「いや、ん~」


 なんだろ、なんか……うん。見えないけどわかるな。


「いらないっぽい。なんかわかるんだよな。構造とか」


「やっぱり凄いよ、それ。捕まってる人がいるかとかわかる?」


 ん~。


「たぶん、いない。あと14人。ぜんぶ山賊だな」


「わかるんだ」


 わかるんだよなぁ。ゲームのミニマップ? でもマップが出るわけじゃなくて感覚的にわかるんだけど。


 それにもう目が慣れてきたし。


「あ、圭、その光が漏れてる扉」


「うん」


「その向こうに3人」


 残りは、寝てるのかな。別の部屋に固まってる。


「了解。入るから、しっかりつかまってて」


「ん?」


 降りなくていいの?


 人質にされるとまずいってこと?


 まあいいや、しっかりくっついてよ。


「っ! ふぅぅ……」


「どした?」


 やっぱ緊張すんの?


「なんでもない。扉、開けるよ」


「ん」


 お、いたいた。ぷっ、驚いて固まってるし。


 昼間から酒飲んでたのか、こいつら。いい生活してんなあ。


「なっ、なんだてめえら!ぐっ、かっ……くぇぇ……」


 うわ、なんか奇声あげてぶっ倒れた。


「おい! あっ、起こしてこい! っぶ……ぐっ……」


 おお、また。


「ひっ! ひぃっ! 起きろ! 2人やられた!」


 やっぱり他のは寝てるのか。なんで昼に寝てんだろ。


「なにしたんだ? いまの」


「なんか息の根を止める魔法だって。あんまり汚したくなかったから」


「へぇ。使い勝手いいんだな」


「ゲームだと使えないのにね」


 ほんとな。俺、使ったことない。


 あ、なんか奥が騒がしくなってきた。


「出てくるかな?」


「出てくんじゃね、うひっ!」


 また矢が飛んできたあ。


「当たらないから大丈夫なのに」


「わかってても怖いんだよ!」


 なんでお前は落ち着いてんだよ、そんなに!


「てめえら、冒険者か!?」


 あ、冒険者とかあるんだ。てか、こっちこないのかよ!


「冒険者か、だって」


「違うもんなあ、ひぅっ!?」


 うわっ、わっ! また矢が、怖いよぉ……。


「……いい」


「あっ、おまえ笑うなぁ!」


 ほんとに怖いんだからな!


「よし、じゃあ、終わらせようか」


「もう早くしてくれよお」


 矢がバンバン飛んできてるよぉ。


「僕達は冒険者じゃないよ」


「あっ、ああ!? じゃあ、なにしに来やがったんだよ!」


「晶に手を出そうとしたから」


 そういこと言う!?


「なっ! なにを!」


「死ね」


 うわああ、奥で、ばたばた死んでる。


「静かになったね。行こうか」


 いや、ちょっと怖いぞ、お前。


「なあ、そんな魔法使って大丈夫なのか?」


「うん、大丈夫。まだかなり余裕あるみたい」


 そうなの?


「でも触手の時、使いすぎたって言ってなかったか?」


 また辛いの隠してんじゃないだろうな。


「あっ、いや、あの時は初めてだったし。それに調子に乗って高度な魔法使ったから……」


「あ~、確かにすごかったもんな、あれ」


 正直かっこよかった。


 あ、生き残りだ。座り込んじゃって、ちょっと哀れだなぁ。


「なんなんだお前……なんなんだよ……」


 うわぁ、ぼっきり折れてる。


 まぁ、折れるよなぁ。一瞬で自分以外全滅だもんな。


「このあたりに大きな街はある?」


「はっ……は?」


「答えて」


 だから怖いって、圭。


「あ、ある、あるぞ! 馬で半日くらいだ!」


 馬で半日ってどのくらいだっけ、たしか20キロか30キロくらい?


「食料を分けてほしいんだけど、どこに置いてる?」


「むこうだ! むこうの倉庫に、あ、いくらでも持ってってくれ、へへっ、へっ」


「晶、わかる?」


 ん~? あ、あっちの奥か。


「うん、わかるぞ」


「うん。じゃ、もういいよ」


「へ? ぅぶっ……げぁ……」


 おお……。


「なぁ、お前って元々そんなだっけ?」


「そうだよ。あんまり晶に見せる機会がなかっただけで」


 う~ん、言われてみれば、そんなとこあったなぁ。ドライというか酷薄というか。


「嫌いになった?」


「なんねえよ」


 そんな浅い付き合いじゃないだろ?


 まあ、言わないけど親友だと思ってるし。


 絶対いわないけど。


「……よかった。じゃあ、食料貰ってこようか。倉庫ってどっち?」


「ん、たぶんこっち」


 なんかコツがわかってきた、かな。


「そういえばさ、初めて人を殺して感想とかねえの?」


「特にないかな。山賊だし。晶は?」


 俺は殺してないし。でもまあ。


「特にないな。山賊だもん」


「そんなものだよね」


 そんなもんだよ。


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