ふあぁ。明るい。洞窟の中って息が詰まるな。死体だらけになってたし。
まぁ、ずっとおんぶされてるだけだし文句は言えないけどさ。
「異世界って怖いね。食料庫なのに食べれそうなものがないとか」
「ほんとな」
なんか全部、カビが生えてたり腐りかけてたりしてんだもん。俺達の基準だと、あれ食べ物じゃないから。
「でも塩とチーズがあったのはよかったね」
「な~、あんなでっかいチーズ初めて見た」
よくテレビなんかでは見たけど。でーんって丸いでっかいやつ。
「これで、しばらくは野宿でもなんとかなるよ」
「野宿かあ。森の中で焚火を囲んで、交代で寝るんだよな」
さっきのチーズを炙って食べたりとか。
「嬉しそうだね」
「やってみたかったんだよ。キャンプとかも行ったことないだろ」
バーベキューくらいなら圭の家と一緒に行ってたけど。
「そういえば行ってないね。じゃあ、キャンプ気分で野宿しようか」
「だな。あ、それよりさ、あんな便利な魔法も使えるんだな」
「ん? 収納のこと?」
「そうそう」
チーズとか塩の塊とかが、圭がさわると消えるからびっくりしたよ。
「鞄やバッグしまってたから、もう気づいてると思ってた。異世界ものの定番だし」
「しょうがないだろ、使えないんだから!」
察しが悪くて悪かったな!
「ごめんごめん。ところでさ、馬で半日ってどのくらいかわかる?」
「たしか、20キロか30キロくらい。昔、ネットで見た」
ファンタジー世界を検証するみたい奴。昔だから曖昧だけど。
「そっか、結構あるね」
そうだよなぁ。歩いてどのくらいだろ、時速5キロとして……うわ、4時間から6時間。
「なあ、そろそろ俺も歩いたほうがよくないか?」
「駄目。ぜったい転ぶし怪我するから」
「転ばないし! それに疲れるだろ、お前」
「晶は軽いから大丈夫。歩かせるほうが心配で疲れるよ」
「ひっどいな!」
いや、この身体でガボガボの靴だし、こけないとは言えないけど。
たぶんこけるけど。
「でもさ、下手したら6時間だぞ。いくらなんでもきついだろ」
「じゃあ、早く着けばいいんだね」
「ん?」
どういうこと?
「身体強化と矢避けを応用して風除けにして、騒ぎになるといけないから認識阻害を強めにかければ……」
なに言ってんのこいつ。
「うん、いけそう。1時間で着くから」
「いや、待って! それって速すぎだろ!」
俺を背負って時速30キロで1時間!? 本気で言ってんの!?
「振り落とされないように、しっかりつかまってて」
こいつ本気だ。しっかりしがみついとこ。
「……。よし! 行くよ!」
うわっ、うわっ、うわわわわっ!
加速すごっ!
「はっやぁあああああ!」
山賊追いかけた時より、ずっと速い!!
あれ、なんかあんまり、おっぱい揺れない。
「圭! もしかして揺れないようにしてくれてるのか!?」
「うん! 痛いって聞いたから!」
こいつ良い奴だなぁ。
でもこれ、すごい速さで景色が流れてるな。風圧すごいし。これってほんとに時速30キロ? 体感速度がすごいだけ?
「圭! これって時速何キロくらい出てんだ!?」
「ごめん、わからない! 身体に負担が来ない範囲ギリギリで調整してるから!」
えっと……、怖い。
転んだだけで俺、死ぬんじゃない?
あ、森ぬけそうかも?
やっぱり。森が切れてる。
抜けた!
「うわああああああ!」
すっごお! 見渡す限りの草原だ!
「すごいな圭! 地平線だ!」
「うん! 生で初めて見た!」
「ほら! 馬車走ってる! あれって街道か!?」
「みたいだね! 馬車ってけっこう遅いんだ!」
うわぁ! テンション上がるなあ!
女の子になっちゃって帰れるかもわかんないけど、これはこれで悪くないな!
「馬車と同じ方向でいいかな!?」
「たぶん大丈夫だろ! 馬車が向かってるならどっかに着くって!」
1人だったらこうはいかなかったよ。
山賊にクルクルされてどっかに売られてたかも。
圭にはほんとに感謝しないと。
「ほら、川だ! でっかい! 船もいるぞ!」
「ほんとだ! 荷物積んでるね!」
「すっごいなあ!」
うっわぁ、どうしよう。すっごい楽しい!
不安なんて吹っ飛んじゃった。
「晶! なにか見えてきた!」
はあ!?
「速すぎじゃないか!?」
「時速100キロくらい出てるのかも!」
「こわっ!」
なんか速すぎるって思ったんだよ!
「お前、ぜったい転ぶなよ! ぶつかるなよ! 人はねるなよ! ぜったい俺おとすなよ!」
「なにがあっても晶は絶対、落とさないから! 心配しないで!」
「信じるぞ! あれ街だな! でっかい!」
「けっこう高い建物あるね!」
「な! でも城郭都市じゃないんだな!」
「やっぱり思った!?」
なんか、城郭都市じゃないとダメなイメージあったもん。普通に考えたら、都市ごとにそんなもん作ってられないよな。
高い建物はなんだろう。教会とかかな。
「晶! あの高いの時計塔っぽいよ!」
「時計塔!?」
時計があるの!?
あ、俺にも見えてきた。ほんとに時計塔だ。
「文化水準どうなってるんだろうね! この世界!」
「ちょっと楽しみだな!」
「うん! そろそろ減速するよ!」
「わかった!」
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