え、異世界転移? いやなんで女の子になってんの!?

黒丸
黒丸

第6話 息するみたいに嘘つくなよ! 怖いよ!

公開日時: 2021年8月17日(火) 22:13
文字数:3,494

あ、遅くなってきた。なんか変な感じだな。ふわふわする。


「ふぅ、やっと普通に喋れるな」


 叫びっぱなしだったから疲れた。ちょっと喉痛い。


「ごめんね、風除けは最小限にしてたから」


「そんなに俺に歩かせたくなかったのか……」


「うん。転ばないにしても足がマメだらけになってたよ?」


 あ~、それはやだな。痛そう。


「これ、麦畑だね」


「あ、これ麦なのか。のどかだなぁ」


 街の周りは畑で囲まれてるんだ。まだ実がついてないのに、よく麦ってわかったな。


 馬車がカポカポ歩いてて、普通に歩いてる人もいて、農家っぽい人もいて、鎧着てる人もいるし、けっこうカオスだなぁ。


「認識阻害もとくね」


「ん。ん? それって周りには、いきなり現れたように見えたりしないか?」


「大丈夫みたいだよ。ほら、誰も驚かないでしょ」


 お~、ほんとだ。魔法ってすごい。


「とりあえず、衛兵を探そうか。山賊のこと言っておきたいし」


「ん。わかった」


 いや、でもなんかすれ違う人に、すごい見られるぞ。


 魔法がとけたから?


 じゃなくて、おんぶされてるからかな。恥ずかしくなってきた。


「どうしたの。急に顔くっつけて」


「なんか見られるから恥ずかしくなってきた。おんぶ。降りたい」


「もうここまで来たんだから我慢して。それにたぶん、おんぶしてるからじゃないと思う」


 どういうこと?


「あ、ほら、あの畑が切れるあたりにいる人。あれって衛兵かな?」


「ん?」


 あ、ほんとだ。それっぽい。2人揃って同じ茶色の皮鎧で槍もってて。異世界だなあ。


「みたいだな。いかにもって感じだ」


「じゃあ、僕が話すから晶は黙って笑ってて」


「なんだよそれ!」


 別に話したい訳じゃないけど、そう言われるのはなんかやなんだけど!


「いま女の子なんだから、その喋り方だとドン引きされるよ?」


 ああ、そういう。そういや俺って美少女になってたんだった。


「わかった。黙っとく」


 お、衛兵がこっち見てる。あ、俺を見てるのか。


 ああ! もしかして、おんぶされてるからじゃなくて、俺がかわいいから見られてたの!?


「すいません。ちょっといいでしょうか」


 1人は30前後くらいかな。もう1人は俺達と、そんな変わらないかも。


 若いほうの、もしかして俺に見蕩れてる?


 うわ、ちょっと気分いいな。よしよしいっぱい見てもいいぞ。おさわりはダメだからな。


「ん、おお、大丈夫だ。ずいぶんと綺麗な子だな。どこか悪いのか?」


 綺麗な子だって! 綺麗な子! うはは、そんなん言うんだ!


「いえ、少し歩かせすぎたので背負ってるんです」


 まったく歩いてないぞ。さらっと嘘つくなよ。


「そういうことか。それで、どうかしたのか? 見たところ学生みたいだが」


 学生!? 学生とかあるの? 制服とか?


「あ、この服って学生みたいなんですか? すいません。僕たちは2人で旅を始めたばかりで、世間に疎いんです」


 うわぁ、自然にとぼけた。


「そうか。よほど田舎から出てきたんだな」


「はい、それで山賊のことで相談したくて。どこに行けばいいでしょうか」


「山賊? それは――」


「なっ!? お嬢さん、大丈夫でしたか!? 何もされませんでしたか!?」


 うわあ! 急に喋りだした!


「あ、はい。大丈夫です。ご心配ありがとうございます」


 にこってしてればいいかな。にこっ。


「あぁ……、綺麗な声だあ……」


 ええ、なにこの人。きもい。


「お前、いい加減にしろ! すまない。このあたりでなにかあったのか?」


「はい。森から街道に出るところで襲われたんです。師から授かった魔法があるので壊滅させることはできたんですが……。きちんと報告した方がいいと思って」


「壊滅!? 山賊をか!?」


 待て待て待て。師って誰だよ。流れるように嘘つきやがって。


「はい。数は20人。ここから馬で半日かからないほどの場所に根城がありました。奪われていたものには手はつけてません」


 チーズと塩はもらったけど。山賊が食べたことになるよね。なるよね?


「隊長、それって最近、荷馬車を襲ってた奴らじゃ……」


「たぶんそれだ。詳しい場所を教えてもらえるか?」


「場所、ですか。どう説明したらいいのか……」


 そうだった、目印とか確認してないもんな。


 ん~。


 なんかできる気がする。いや、できる。俺の能力で伝えられる。


「あの、それでしたら私の魔法でお伝えすることができます。手袋を取って、手を、握っていただけますか?」


 ふふふ、こんな喋り方だとそれっぽいよな。ほら、美少女の手を握る権利をやろう。


「魔法で? あ、じゃあ、失礼……」


 めっちゃ優しく握るなぁ。


 いい人なんだろうな、この人。


 よし、いくぞ。


 集中して、俺の感じてる感覚をおくるようなイメージで……。


「これは……、すごいな。わかる。こんな場所に洞窟があったのか」


「よかった。上手くいったみたいですね」


 えっと、手、離してほしい。


「あ、すまない! いつまでも握ったままで」


「いえ、構いません」


 にこっ。


 なんか楽しくなってきた。


「あの! 俺も! 俺もお願いします!」


 やだよ。手袋とんなよ。なんかきもい。


「ジェフ、いい加減にしろ! お前は手が空いてる奴を20くらい集めてこい」


「そんなあ!」


「さっさと行け!」


「はっ、はい!」


 おお、速い速い。あいつジェフっていうのか。うん、忘れよう。


「部下がすまない。君たちは、しばらく滞在するのか? 確認ができたら礼金が出るんだが」


 礼金でるんだ! やったあ!


「そのつもりです。それに、礼金をいただけるのは助かります。僕達、お金をもっていないので」


「無一文なのか!? いままでどうしてたんだ!」


「師から、自分が死んだら旅に出るよう言い付かっていたんですが、今朝、師が亡くなる直前に、森の中の廃村に転移させられてしまって……」


 師匠むごいな。そんなことすんのか。準備くらいさせろよ。


「ああ、あの廃村か。たしかに洞窟から近いな。しかし、転移魔法か……。よければ、師の名前を聞いてもいいか?」


「師は決して自分の名前を明かしませんでした。名前には秘めたる叡智が宿ると言って」


 なんだよその設定! 名前くらい教えろよ師匠! 頭おかしいんじゃねえの!?


「そうか。隠遁した魔法師なら、そのくらいはしそうだ。」


 するの!? 魔法師って滅茶苦茶だな!


「だから僕達は、師の名前も、どこに住んでいたのかもわからないんです。物心ついたときには師の元にいましたから」


「わかった。じゃあ君たちの名前も聞かないほうがいいかな?」


「いえ。師は、決して自分のようにはなるなと言っていましたから。僕はケイといいます」


 お、自己紹介するんだ。確かにこの人は仲良くしといた方がよさそうだよな。


「わたしは、アキラと申します」


「ケイに、アキラか。俺はグレッグだ。この街で中隊長をやっている」


 中隊長?


 中隊長ってけっこう偉くない? なんでこんなとこにいたんだろ。


「よし、ちょっと待ってくれ」


 お? なにかくれるのかな。


 メモ紙?


 あ、紙とか使うんだこの世界って。


 それとペン? じゃないな、木炭だ。さすがにペンは無いんだ。


「これを持って、女神の後ろ髪って宿に行くといい。後払いで泊めるように書いておいた」


 ええええ! いいの!?


 あ、でも野宿したかったなあ。


「そんな、いいんですか?」


「ああ。俺の妻がやってる宿なんだ。だから気にしなくていい」


 あ、既婚者なんだ。なんか大人の余裕みたいなのあるもんな。


「すみません。ありがとうございます」


「ありがとうございます」


 やっぱ、いい人だな。グレッグさん。


 俺達みたいな素性のわからないのに良くしてくれるとか。


「いいんだ。2人には恩を売っといたほうがよさそうだからな。いつか返してくれよ」


「はい。必ず返します」


 うん、俺もがんばる。


「じゃあ、わからないことがあったら妻に聞いてくれ。俺はそろそろ行かないといけない」


「はい。ありがとうございます」


「グレッグさん。いってらっしゃい」


「お、アキラみたいな綺麗な子に見送られると、やる気がでるな」


 うふふ。既婚者がデレデレすんな。


 まぁ、俺、可愛いもんなあ。しかたないよなあ。


「いい人だったね。しばらくは野宿だと思ってたよ」


「ほんとな。でもちょっと野宿したかったけど」


「これからいくらでもできるよ。今日は宿で休ませてもらおう」


「そっか、そうだな」


 この世界の宿ってどんななんだろ。お風呂あるかな。


 やっぱり日本人としては、お風呂はいりたいよなあ。


 あ、そうだ。


「ところでさ、お前、あの設定ってずっと考えてたの?」


「ううん、いま思いついた」


 こっわ。なんであんなスラスラ出てくるの? どっかおかしいんじゃないの?


「晶も、しっかりキャラ作ってたね。ちょっとびっくりした」


「んふふ。可愛かったろ」


「うん。昔から好きだもんね、あんな喋りのキャラ」


 ほっとけ!


 なんだよもー、せっかく調子のってたのにー。

 

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