あ、遅くなってきた。なんか変な感じだな。ふわふわする。
「ふぅ、やっと普通に喋れるな」
叫びっぱなしだったから疲れた。ちょっと喉痛い。
「ごめんね、風除けは最小限にしてたから」
「そんなに俺に歩かせたくなかったのか……」
「うん。転ばないにしても足がマメだらけになってたよ?」
あ~、それはやだな。痛そう。
「これ、麦畑だね」
「あ、これ麦なのか。のどかだなぁ」
街の周りは畑で囲まれてるんだ。まだ実がついてないのに、よく麦ってわかったな。
馬車がカポカポ歩いてて、普通に歩いてる人もいて、農家っぽい人もいて、鎧着てる人もいるし、けっこうカオスだなぁ。
「認識阻害もとくね」
「ん。ん? それって周りには、いきなり現れたように見えたりしないか?」
「大丈夫みたいだよ。ほら、誰も驚かないでしょ」
お~、ほんとだ。魔法ってすごい。
「とりあえず、衛兵を探そうか。山賊のこと言っておきたいし」
「ん。わかった」
いや、でもなんかすれ違う人に、すごい見られるぞ。
魔法がとけたから?
じゃなくて、おんぶされてるからかな。恥ずかしくなってきた。
「どうしたの。急に顔くっつけて」
「なんか見られるから恥ずかしくなってきた。おんぶ。降りたい」
「もうここまで来たんだから我慢して。それにたぶん、おんぶしてるからじゃないと思う」
どういうこと?
「あ、ほら、あの畑が切れるあたりにいる人。あれって衛兵かな?」
「ん?」
あ、ほんとだ。それっぽい。2人揃って同じ茶色の皮鎧で槍もってて。異世界だなあ。
「みたいだな。いかにもって感じだ」
「じゃあ、僕が話すから晶は黙って笑ってて」
「なんだよそれ!」
別に話したい訳じゃないけど、そう言われるのはなんかやなんだけど!
「いま女の子なんだから、その喋り方だとドン引きされるよ?」
ああ、そういう。そういや俺って美少女になってたんだった。
「わかった。黙っとく」
お、衛兵がこっち見てる。あ、俺を見てるのか。
ああ! もしかして、おんぶされてるからじゃなくて、俺がかわいいから見られてたの!?
「すいません。ちょっといいでしょうか」
1人は30前後くらいかな。もう1人は俺達と、そんな変わらないかも。
若いほうの、もしかして俺に見蕩れてる?
うわ、ちょっと気分いいな。よしよしいっぱい見てもいいぞ。おさわりはダメだからな。
「ん、おお、大丈夫だ。ずいぶんと綺麗な子だな。どこか悪いのか?」
綺麗な子だって! 綺麗な子! うはは、そんなん言うんだ!
「いえ、少し歩かせすぎたので背負ってるんです」
まったく歩いてないぞ。さらっと嘘つくなよ。
「そういうことか。それで、どうかしたのか? 見たところ学生みたいだが」
学生!? 学生とかあるの? 制服とか?
「あ、この服って学生みたいなんですか? すいません。僕たちは2人で旅を始めたばかりで、世間に疎いんです」
うわぁ、自然にとぼけた。
「そうか。よほど田舎から出てきたんだな」
「はい、それで山賊のことで相談したくて。どこに行けばいいでしょうか」
「山賊? それは――」
「なっ!? お嬢さん、大丈夫でしたか!? 何もされませんでしたか!?」
うわあ! 急に喋りだした!
「あ、はい。大丈夫です。ご心配ありがとうございます」
にこってしてればいいかな。にこっ。
「あぁ……、綺麗な声だあ……」
ええ、なにこの人。きもい。
「お前、いい加減にしろ! すまない。このあたりでなにかあったのか?」
「はい。森から街道に出るところで襲われたんです。師から授かった魔法があるので壊滅させることはできたんですが……。きちんと報告した方がいいと思って」
「壊滅!? 山賊をか!?」
待て待て待て。師って誰だよ。流れるように嘘つきやがって。
「はい。数は20人。ここから馬で半日かからないほどの場所に根城がありました。奪われていたものには手はつけてません」
チーズと塩はもらったけど。山賊が食べたことになるよね。なるよね?
「隊長、それって最近、荷馬車を襲ってた奴らじゃ……」
「たぶんそれだ。詳しい場所を教えてもらえるか?」
「場所、ですか。どう説明したらいいのか……」
そうだった、目印とか確認してないもんな。
ん~。
なんかできる気がする。いや、できる。俺の能力で伝えられる。
「あの、それでしたら私の魔法でお伝えすることができます。手袋を取って、手を、握っていただけますか?」
ふふふ、こんな喋り方だとそれっぽいよな。ほら、美少女の手を握る権利をやろう。
「魔法で? あ、じゃあ、失礼……」
めっちゃ優しく握るなぁ。
いい人なんだろうな、この人。
よし、いくぞ。
集中して、俺の感じてる感覚をおくるようなイメージで……。
「これは……、すごいな。わかる。こんな場所に洞窟があったのか」
「よかった。上手くいったみたいですね」
えっと、手、離してほしい。
「あ、すまない! いつまでも握ったままで」
「いえ、構いません」
にこっ。
なんか楽しくなってきた。
「あの! 俺も! 俺もお願いします!」
やだよ。手袋とんなよ。なんかきもい。
「ジェフ、いい加減にしろ! お前は手が空いてる奴を20くらい集めてこい」
「そんなあ!」
「さっさと行け!」
「はっ、はい!」
おお、速い速い。あいつジェフっていうのか。うん、忘れよう。
「部下がすまない。君たちは、しばらく滞在するのか? 確認ができたら礼金が出るんだが」
礼金でるんだ! やったあ!
「そのつもりです。それに、礼金をいただけるのは助かります。僕達、お金をもっていないので」
「無一文なのか!? いままでどうしてたんだ!」
「師から、自分が死んだら旅に出るよう言い付かっていたんですが、今朝、師が亡くなる直前に、森の中の廃村に転移させられてしまって……」
師匠むごいな。そんなことすんのか。準備くらいさせろよ。
「ああ、あの廃村か。たしかに洞窟から近いな。しかし、転移魔法か……。よければ、師の名前を聞いてもいいか?」
「師は決して自分の名前を明かしませんでした。名前には秘めたる叡智が宿ると言って」
なんだよその設定! 名前くらい教えろよ師匠! 頭おかしいんじゃねえの!?
「そうか。隠遁した魔法師なら、そのくらいはしそうだ。」
するの!? 魔法師って滅茶苦茶だな!
「だから僕達は、師の名前も、どこに住んでいたのかもわからないんです。物心ついたときには師の元にいましたから」
「わかった。じゃあ君たちの名前も聞かないほうがいいかな?」
「いえ。師は、決して自分のようにはなるなと言っていましたから。僕はケイといいます」
お、自己紹介するんだ。確かにこの人は仲良くしといた方がよさそうだよな。
「わたしは、アキラと申します」
「ケイに、アキラか。俺はグレッグだ。この街で中隊長をやっている」
中隊長?
中隊長ってけっこう偉くない? なんでこんなとこにいたんだろ。
「よし、ちょっと待ってくれ」
お? なにかくれるのかな。
メモ紙?
あ、紙とか使うんだこの世界って。
それとペン? じゃないな、木炭だ。さすがにペンは無いんだ。
「これを持って、女神の後ろ髪って宿に行くといい。後払いで泊めるように書いておいた」
ええええ! いいの!?
あ、でも野宿したかったなあ。
「そんな、いいんですか?」
「ああ。俺の妻がやってる宿なんだ。だから気にしなくていい」
あ、既婚者なんだ。なんか大人の余裕みたいなのあるもんな。
「すみません。ありがとうございます」
「ありがとうございます」
やっぱ、いい人だな。グレッグさん。
俺達みたいな素性のわからないのに良くしてくれるとか。
「いいんだ。2人には恩を売っといたほうがよさそうだからな。いつか返してくれよ」
「はい。必ず返します」
うん、俺もがんばる。
「じゃあ、わからないことがあったら妻に聞いてくれ。俺はそろそろ行かないといけない」
「はい。ありがとうございます」
「グレッグさん。いってらっしゃい」
「お、アキラみたいな綺麗な子に見送られると、やる気がでるな」
うふふ。既婚者がデレデレすんな。
まぁ、俺、可愛いもんなあ。しかたないよなあ。
「いい人だったね。しばらくは野宿だと思ってたよ」
「ほんとな。でもちょっと野宿したかったけど」
「これからいくらでもできるよ。今日は宿で休ませてもらおう」
「そっか、そうだな」
この世界の宿ってどんななんだろ。お風呂あるかな。
やっぱり日本人としては、お風呂はいりたいよなあ。
あ、そうだ。
「ところでさ、お前、あの設定ってずっと考えてたの?」
「ううん、いま思いついた」
こっわ。なんであんなスラスラ出てくるの? どっかおかしいんじゃないの?
「晶も、しっかりキャラ作ってたね。ちょっとびっくりした」
「んふふ。可愛かったろ」
「うん。昔から好きだもんね、あんな喋りのキャラ」
ほっとけ!
なんだよもー、せっかく調子のってたのにー。
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