僕は車を下ろされると、スマホを持って、店に戻った。
今からでも仕事をするつもりだったけど、店は臨時休業をしていた。
なんで?
僕は閉まっていた鍵を開けて、中に入る。
店は閉まっていたけど、上に上がると、大将と女将さんが、居間でくつろいでいた。
「おう、帰ったか。」
「ご飯はまだでしょ?」
僕は、二人に
「ただいま。ご飯はまだ 食べてない。」
と言った。
「どうだった?」
「うーん、怪しい人が見つかった。」
「ほー、それはすごいじゃねぇか。」
僕も座って、預かってきた写真を見せる。
「おや、こいつは。」
「知ってるの?」
「2度ほど見たな。ナルと魚市場に行ったときと、正雲寺に行ったときだ。」
「え、気づいてたの。」
「まぁ、いやぁな目でおまえをみてたからなぁ。」
「全然知らなかった。」
「そりゃ、マリア様の加護があるからな?」
「マリア様の加護?」
「我が子が悪意にさらされませんように、幸せに愛されますように、と、産まれたナルに加護を願ったと聞いてるよ。悪意から遠ざけて、ナルが笑って過ごせるように我々がいるんだからな。」
「マリア様って僕のお母さん?」
「ああ、キリシタンには多い名だけどな。」
「・・・そっか。あの人の言ってたとおりだな。」
「あの人?」
「桜宮っていう弁護士。幸徳井の顧問弁護士だって。」
「ああ、あれか。桜宮って言えば、幸徳井の分家筋の一つだな。きっとそれは守人だろう。」
「守人?」
「本家の人間には、産まれた時にその子の少し上の子供達が守人としてつくらしい。まぁ世話係みたいなもんだな。将来的には、一人に絞られ、一生補佐として仕えると聞く。」
「なんか、前時代的だねぇ。」
「まあ、古い家だしな。」
「本家の子が成人するまでは、各有力な分家から一人ずつつくはずだ。成人と同時に、一人を選ぶ。まぁ成人と言っても15歳かなんかだから、今もくっついてるんなら、その生涯の右腕、というところだろう。」
「なんか、わかんない世界だね。」
「ああ。それで、その桜宮はなんと言っていたんだ。」
「僕は、術かなんかで、視線をスルーするようになってるかも、て。」
「さすがは幸徳井、簡単に見破るか。」
「感心してていいの。」
「まぁ、どうしようもないしな。それで、ナルはどうするか決まったのか。今後の身の振り方だが。」
「うん。」
「幸徳井の下に行くのか?」
「ううん。なんかやっぱりあの人達にはついて行けない気がして。僕は、一度山に戻ろうと思ってるんだ。」
「山?しかしあそこは・・・」
「危ないかも、とは思うよ。でももう100年以上も前の話だし。おじいちゃんがどうなったか知りたい。もしかしたらお母さん達もふらっと寄るかもしれないし。」
「ついていこうか。」
「それはダメ。ハハ。大体大将の足じゃ、あの山は登れないよ。」
「フン、人を年寄り扱いししやがって。」
「ハハハ。今までありがと。まだもうちょっとお世話になるけど、本当に今までよくしてもらって。」
「それが生きがいだからな。まぁ、一度出国して、また戻ってこい。何百年でもおまえさんの受け入れは準備しておいてやる。」
「・・・」
僕は、何も言葉に出来なくて、黙って頭を下げた。
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