走れ、走れ
走れ!
マンションを出ると、そこは見たことのある景色だった。
出前であちこち走り回って3年。
この町をしっかりと知れていたことを今ほど感謝することはない。
走れ、走れ、走れ!
僕をこの町で一番愛してくれているのは?
瞼の裏に、ちょっといかついけど、暖かい大将の顔。
優しげに、大将の横で微笑んでいる女将さんの顔。
惜しげもなく僕に笑顔を向ける二人の顔がちらついている。
ああ、3日も眠り込んで・・・
ああ、きっと心配してる。
碌な挨拶もなく、慌てて飛び出した、あの日。
ちゃんと出前用のスマホを持たないか、と声をかけてくれたのに。
あれを持っていれば、少なくとも居場所は教えれた。
僕に対していっぱい思っている人が、あの二人ならば、
今一番危険なのはあの二人じゃないか!
ああ、無事でいて。
何を慌てて帰ってきたんだ、と、ガハハと笑ってください。
若い女、そんなことに惑わされてた。
奴にとってのごちそうは、僕への強い思い。
丸山だって食ったんだ。
ああ、無事でいて。
なんで、なんで、僕の足はこんなに遅い?
車を抜いて、電車を抜いて、僕は一直線に走る。
どうか、神様、二人を守って。
僕は、本当のおじいさん、ママのパパが祈った神へと祈りを捧げる。
ハハハ、だめだな。おじいさんは救われなかったじゃないか・・・
ああ、パパ、ママ、どうか二人を守って・・・
読み終わったら、ポイントを付けましょう!