ヴァンパイア狂奏曲

吸血鬼連続殺人事件
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走れ!

公開日時: 2021年8月3日(火) 00:08
文字数:555

走れ、走れ



   走れ!



 マンションを出ると、そこは見たことのある景色だった。


 出前であちこち走り回って3年。

 この町をしっかりと知れていたことを今ほど感謝することはない。


 走れ、走れ、走れ!


 僕をこの町で一番愛してくれているのは?

 瞼の裏に、ちょっといかついけど、暖かい大将の顔。

 優しげに、大将の横で微笑んでいる女将さんの顔。

 惜しげもなく僕に笑顔を向ける二人の顔がちらついている。


 ああ、3日も眠り込んで・・・

 ああ、きっと心配してる。


 碌な挨拶もなく、慌てて飛び出した、あの日。


 ちゃんと出前用のスマホを持たないか、と声をかけてくれたのに。

 あれを持っていれば、少なくとも居場所は教えれた。

 僕に対していっぱい思っている人が、あの二人ならば、

 今一番危険なのはあの二人じゃないか!

   ああ、無事でいて。

 何を慌てて帰ってきたんだ、と、ガハハと笑ってください。


 若い女、そんなことに惑わされてた。

 奴にとってのごちそうは、僕への強い思い。


 丸山だって食ったんだ。

 ああ、無事でいて。

 なんで、なんで、僕の足はこんなに遅い?


 車を抜いて、電車を抜いて、僕は一直線に走る。

 どうか、神様、二人を守って。

 僕は、本当のおじいさん、ママのパパが祈った神へと祈りを捧げる。

 ハハハ、だめだな。おじいさんは救われなかったじゃないか・・・

 

 ああ、パパ、ママ、どうか二人を守って・・・

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