「カーラさんが戦ったあの方達は、私の父と兄を倒した武門の一派だったそうです……私の配信は世界中どこでも見れますから、きっとそれで私のことも目の敵にしているんだと思います――――」
「やっぱりあいつらが……ミズハさんのパパさんとアニさんをやった奴らだったッスか……っ!」
暫くして――――
ひとしきり自らの感情を吐き出したカーラが落ち着いたのを確認したミズハは、カーラが戦ったあの男達について語った。
「母の話では、私の父と兄は二ヶ月前にあのリンドウ一門に果たし合いを挑まれたそうです。事前の通告もなく、突然道場に乗り込まれたと――――」
「そ、そんなの闇討ちと同じじゃないッスか……! それで勝ったって、全然立派じゃないッスよ!」
「確かに、ナーリッジや大陸諸国ではそうだと思います。でもこの国では……トウゲンでは違います。武門たる者、いついかなる時に挑まれようとそれを受けて立ち、不覚を取ればそれ即ち自身の未熟であると――――なので、その果たし合いに関してはリンドウもスイレンも、トウゲンの作法に則って雌雄を決したということになるんです」
「そうなんッスか……!?」
ミズハの語るスイレンとリンドウという二つの武門による争い。
トウゲン独特の、恥と誉れを第一とする苛烈な思想にカーラは言葉を失う。
「でも……問題はその後だったらしいんです。トウゲンを治める国主様お付きの剣術指南役を務めていたスイレンを倒したリンドウの所業は、日に日に目に余る物になったと……カーラさんが目にした騒動が、きっとそうなんだと思います」
「そうっす……! あいつら……本当に好き勝手やってたッス! 完全にチンピラだったッス! でも……自分は、そんなチンピラ相手にボコボコにされてしまったッス……っ!」
「――――まあまあ、カーラさんはとても良く頑張ってらっしゃいましたよ。言動もやってることもチンピラですけど、私が見た感じ、アレはチンピラどころじゃない、もっと上の使い手です」
ミズハの話を聞き、再び自らの無様に奥歯を噛みしめるカーラ。
だがその時、綺麗に正座するミズハの背後の障子戸を開け、白いシャツに赤いネクタイを身につけたリドルと、いつも通りの黒ドレス姿の黒姫が現れる。
「フッ……カーラよ。貴様の泣きわめく声は外まで聞こえていた。貴様が今感じているその悔しさをどうするか――――ミズハの弟子というのなら、次は後れを取らぬようにするのだなッ!」
「しゃ、社長さんっ! 黒社長さんも……っ!」
「おはようございますカーラさん。お体は大丈夫ですか?」
「貴様が倒し損ねた狼藉者の事ならこの黒姫と白姫が引き継いだ。心配せずとも、あの場にいた一般人共も悪いようにはしていない」
「は、はい! たった今ミズハさんから聞きましたッス! 自分が不甲斐ないせいで……大変申し訳ないッス! そ、それで……あいつらはどうなったッスか!?」
「それがなんとですね……っ!」
カーラからの問いを受けたリドルは勿体つけた様子で意味深なポーズを取ると、たっぷり間を取ってその後の顛末をカーラに告げる。
「よゆーで私達の大勝利ですっ! 悪は滅びましたっ!(ドヤッ!)」
「クハハハハハ! その通りよッ! 地べたに額をこすりつけ、情けなく泣いて命乞いするまで衆人環視の前で徹底的に痛めつけてやったわッ! クッハハハハハハ!」
「えええええ!? そこまでやっちまったッスか!? さ、さすが社長さんと黒社長さんッス! マジリスペクトッスーーーーッ!」
「――――ってなってれば簡単で良かったんですけどねぇ。実のところ、あのチンピラ大男は確かに私が指先一つでフルボッコにしたのですが、もう一人の方に横やりを入れられてしまいまして…………」
「――――この意味がわかるか? 私と白姫が支配する領域に横やりを入れられる者など、宇宙全てを探してもそうはいない。ここにいるミズハかヴァーサス――――もしくはドレス。せいぜいこの三人だけであろう――――クックックッ!」
黒姫はそう言うと、その赤い眼光を鋭く細めて笑みを浮かべる。だが――――
「ん~~……多分ライトとエマちゃんもいけると思いますよ? あ、後この前復活されたマジカル☆ラカルムさんや、ルルとコンビになってるギガンテスさんもぶち抜いてきそうですし……メルトさんの歌バフかかったヘルズガルドさんとか、すっかり銀の門を使いこなしてるシトラリィさんもワンチャンありますっ!」
「や、やめんか白姫っ! 無理に探そうとするでないっ! 我ら二人の強さが大したことなさそうに聞こえてくるであろうが……ッ!?」
「で、でも……リドルさんと黒姫さんがそこまで仰るなんて……それ程の使い手がトウゲンに居たなんて知りませんでした……っ」
「ですですっ! そこなんですよミズハさんっ! ただ私達が気付いていなかっただけで、元からあのリンドウ一家の皆さんがとってもお強かったのか。それとも――――」
「なんらかのきっかけで、突然強大な力を手に入れたのか――――だな」
疑問を投げかけるミズハにリドルはビシリとその指を立て、すでに当たりはついているとばかりに笑みを浮かべた。
「ククッ……! 面白いな。どうやらこの一件、誘い込まれたのは我らの方だったのかもしれん。そしてカーラよ……恐らく此度の敵は、貴様が強くなるのを悠長に待ってはくれぬぞ――――!」
黒姫の射貫くような赤い瞳。黒姫の瞳に見つめられたカーラは、迫り来る戦いの予感にごくりとその喉を震わせた――――。
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