門番VS

あらゆる災厄から門を死守せよ!スーパー門番同棲ファンタジー!
ここのえ九護
ここのえ九護

その憎悪を受け止める門番

公開日時: 2021年11月5日(金) 12:46
更新日時: 2021年11月5日(金) 13:22
文字数:3,492


 スイレン邸門前での戦闘が一応の決着を見る僅かに前。


 開戦と同時に敵中へと飛び込んだヴァーサスとミズハ。


 本来であれば、リンドウの高弟四人を同時に相手にしようと苦戦する筈のない二人だが、敵は既に幾重にも策を巡らせていた――――。


「行け、キジン、ゴウマ、センギ――――あの二人はこのロウガと師父の力によって押さえ込もうぞ」


「は……筆頭の指示通りに」


「む……!? 気をつけるのだミズハ! どうやら仕掛けてくるぞ!」


「はい師匠っ! 貴方達の相手は私が――――!」


 眼前に立つ四人の動きに警戒を強めるヴァーサスとミズハ。


 しかし二人がその槍と刃を振るうよりも早く、二人が存在する空間が突如として抉り取られ、全く違う別領域へと隔離される。


「っ!? 領域ごと飛ばされた……!?」


「この力、どうも覚えがある気がするのだが……」


「次元超越者ヴァーサス。そして門番ランク2、ミズハ・スイレン。我らリンドウは決して貴様達を侮りはしない。まともに正面から戦えば、我ら全ての力をもってしても貴様達に勝利する事はできないであろうからな――――」


 そこは、無限に沈み込むような漆黒の沼。

 明確に落ちていくという肌感覚と、下方から上方へと流れていくエネルギーの風。


 足下定かならぬ不定の領域へと飛ばされたヴァーサスとミズハは、しかしそれでも即座に眼前に残る一人の男――――リンドウ一門筆頭、ロウガの姿を鋭く見据えた。


「憎き門番共。我らが師父が――――そして我らトウゲンの武門が味わった屈辱と憎悪の刃。今こそその身をもって受けるが良い!」


「なるほど! どうやら貴殿らは相当に門番に恨みがあるようだが、何故そのように門番を目の敵にする!? まさか、ミズハの父上殿や兄上殿を傷つけたのも門番への恨みからだとでも言うのか!?」


『グググ……そのまさかよ。オヌシら門番共をこの世から根絶やしにする。それこそ、我が悲願。そして、それは今を始まりにして動き出す……!』


「貴方は……!?」


 そしてそれと同時。無限に落ち続ける特異空間の中で、二人の目の前にもう一人の人影が現れる。


 その影は隣に立つロウガと比べれば小さく、すでに年老いた老人のように見えた。

 だが老人の眼光は未だ鋭く、更にはその瞳の奥に渦巻く深淵のような異質な力すら覗かせている。


『我が名はジュウギ・リンドウ。リンドウ一門の師にして長。憎き門番共よ……我が大望のため、ここで潰えるが良い!』


「来るか――――っ!」


 ジュウギと名乗った老人の出現と同時。二者は自らの領域に幽閉したヴァーサスとミズハに対して恐るべき速度の踏み込みと加速をもって斬りかかる。


『滅びよ、門番共! オヌシらが大陸で守護の要として名を上げたことで、古来よりトウゲンの守護を司ってきたリンドウの名誉は地に墜ちた――――! そしてそれだけではないッ! 憎きスイレンは離縁などと言って最も才に恵まれた末娘のミズハを大陸へと送り込み、スイレンに門番の名声を取り込むことに成功しおった――――!』


「そんな……っ! お父様は、一言も私に門番になれなんて言ってません……っ!」


「どうやら、逆恨みの果てに正気を失ったか――――!」


『黙れ黙れ……! 口惜しや門番! 許さぬぞスイレンッ! そこの小娘が門番の上位へと上り詰め、日々配信石から流れる貴様の歌い踊る様を見る者共の数はこのトウゲンでも留まるところを知らぬ! いかに離縁していようとも、貴様がこのトウゲンに生まれ、スイレンの剣を扱うことはもはやトウゲン全てに知れ渡っておるわッ!』


 その眼光を狂気に輝かせたジュウギが、怒りのままにミズハへと迫る。


 しかしミズハはその一撃を正面から捌くと、まるで舞を舞うかのようにくるりとその小さな身を縦回転させ、ジュウギの背面へとしたたかに鋭い蹴りを叩き込む。


「なんて憎悪の剣……っ! でも、そのように曇った太刀筋では、私には届きませんっ!」


「黙れ門番……我らの憎しみを受けよ……!」


 だがその隙を狙ってもう一人のリンドウ。ロウガがミズハへと迫る。

 だがミズハはロウガの攻撃を躱そうとも、受けようともしない。なぜなら――――!


「そうはさせんっ! 貴殿らほどの腕を持つ武人が、そのような些事でここまでの暴挙に出るとは!」


「黙れ門番……! 貴様ら門番の台頭が、いかに我ら武門の格を下げ、苦渋を舐めさせられたことか……! 師父から賜ったこの力が無ければ、今頃トウゲンもサムライではなく門番を守護として用いる国に変わり果てていただろうッ!」


守るべき人々を傷つける武に正義はないッ! それは門番だろうとサムライだろうと同じ事だッ!」


 ミズハの隙を狙って飛びかかったロウガの光速の刃。それは割って入ったヴァーサスの盾によって防がれる。


 ヴァーサスの放つ灼熱の領域がロウガの鈍色の領域と拮抗。ヴァーサスは即座に盾をロウガめがけて押し出すと、自身の斜め後方へと受け流しつつ、槍の石突き部分で叩き払う。


「師匠の言う通りです――――っ! たとえどんな立場であっても、トウゲンに住む大勢の人々を傷つけて良い理由なんてどこにもありませんっ! お二人がその憎しみのままに、暴力を振るい続けるというのなら――――!」


 刹那。ミズハの纏う白銀の領域が一瞬にして収束。それはミズハが持つ双蓮華の刃に宿り、その刀身を閃光で包む。そして――――!


「その憎悪――――私が断ち斬るッ! 睡蓮双花流、絶技――――!」


「っ!? 待つのだミズハ!」


「えっ!?」


『グググ……! 気付いたか……!』


 だがしかし、ミズハの刃が闇の中に翻ることはなかった。

 何事かに気付いたヴァーサスが、制止の声を上げたのだ。


「そんな……!? これって……!?」


「馬鹿な! その魂まで地に落ちたか!」


 ジュウギがその顔を狂気に歪めて笑う。


 先ほどから落下を続けていた周囲の空間。


 何事かに気付いたヴァーサスに促されたミズハがその周囲を見回すと、なんとそこにはトウゲンの町並みがまるで絵画のように辺り一面に張り付き、描き出されていたのだ。


『ググググ! その刃を止めたのは見事なり……! しかしどうだ? 気付いたならば最早戦えまい……! このトウゲンの民、その全ての命を盾とする我らとはなぁ!』


「この空間に浮かぶトウゲンの光景は決して幻などではない。貴様らがこの空間でその力を思うままに発揮すれば、その力は直接その場へと届き、何もかもを破壊し尽くすだろう。貴様らが磨き上げた強大な力、それこそが貴様らの首を絞めるのだ……!」


「なんと卑劣な! あまりにも卑怯すぎてびっくりしたぞ!」


「っ! どうして……! どうしてそこまでして……!? かつての皆さんは、決してそのようなことはしなかった筈なのに……!」


 自身の展開した領域とトウゲンの町をあえて接続し、トウゲンそのものを人質に取るジュウギ。最早完全に常軌を逸したその行動に、ミズハは必死の思いで声を上げる。すると――――


『グググ……! そうだ、儂は門番が憎い……! 門番が……! オヌシらが儂に、門番が憎いということを、儂は覚えた――――それを教えたのは、貴方達――――今度は、私からアナタ達に、オシエマショウ――――』


「……!? この物言い、どこかで……?」


 放たれたミズハの問い。その問いに答えようとするジュウギの領域が醜く歪む。

 そしてその領域の向こうに、ヴァーサスはどこか見覚えのある気配を感じる。


「――――はいっととっ! 大変お待たせしましたっ! ヴァーサス、ミズハさん! いつでもどこでも一発配送! 世界一頼れる宅配業者の私が助けに来ましたよっ!」


「おお、リドル! 来てくれたのか!」


「リドルさんっ!」


 だがその時。何もない空間から突如として白いシャツに赤いネクタイ姿のリドルがその場に転移してくる。現れたリドルはそのままヴァーサスとミズハの隣に駆け寄ると、最愛の夫であるヴァーサスに向かってにっこりと笑みを浮かべた。


「いやはや……この私としたことが、ここまで来るのに結構手こずってしまいました。外にいるモブの方の領域を解析してなかったら無理だったかもしれません。でも――――」


『ググ……オオオ……門、白き門……! 憎い、欲しい……! 門の、力……!』


「ふむふむ……! どうもこれは私の予想的中と言ったところでしょうか! そういうことなら二人とも、ここは私に合わせて下さい! このリドル・パーペチュアルカレンダーが、上手いこと収めて見せますよっ!」


 リドルはそう言ってヴァーサスとミズハの間に立つと、赤く透き通った双眸を輝かせて自身の持つ白き門をその場に顕現させる。


 ゆっくりとその扉を開く巨大な白き門の先。眩く輝く平行世界の果てから、膨大なエントロピーを乗せた風がその場に吹き荒れた――――。


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