「ガアアアアアアアッ! チクショオオオオオ! なんなんだァあの女共はよぉ!? いきなり横から出てきやがって――――ッッ!」
「抑えろ、ゴウマ。後れを取ったのはお前の未熟故――――あのまま戦っていれば、お前はとうに骸となっていただろう」
「ぐっ――――くそ、があぁっ!」
幾つかの篝火が等間隔に並ぶ広大な板張りの室内。
煌々と輝く橙の灯に照らされ、その全身に傷を負ったゴウマが吠える。
駆け出し門番であるカーラを易々と打倒したはずのゴウマは、その後を引き継いだリドルと黒姫が持つ圧倒的門の力によって手も足も出せずに敗れ去っていた。
しかしその横に立つ優男には傷一つ無い。
「我らの大望を忘れるな――――トウゲンでの享楽など余興に過ぎぬ。この世から全ての門番を滅ぼす。それこそが我ら一門の目指す所なのだから」
「チッ……わぁってるよ……ッ!」
男はゴウマの圧倒的闘気すら涼しげに受け流しながら、篝火が並ぶ広間の中央でゴウマと共に広間の奥の闇を見据えていた。そして――――。
『門番が、現れたか――――』
篝火の導く広間の最奥。不気味な紫色の輝きがぼんやりと灯り、その先からしわがれた深い年輪を感じさせる声が響いた。その声の出現にゴウマも、もう一人の男も頭を深々と下げて平伏した。
「はい――――やはり師父のお言葉通りでした。門番共は現在、スイレンの屋敷に滞在しているようです」
「オヤジィッ! 今すぐ俺を行かせてくれッ! さっきのは油断しただけだッ! 次こそ門番共を皆殺しにして――――!」
『ならぬ――――門の使い手に遅れを取るオヌシでは、その門番たる次元超越者ヴァーサスには到底勝てぬ。今は控え、傷を癒やすがよい――――』
「うぐ……っ」
声は血気に逸るゴウマを威厳ある物言いで制すると、まるで呼吸をするようにその輝きをゆっくりと明滅させた。
『門の使い手の力――――オヌシはどう見た、キジンよ――――?』
「はっ――――森羅万象を司る門の主、確かに油断ならぬ相手――――ですが、所詮研鑽浅き女子供の児戯。我が剣の敵ではないかと――――」
「あ、兄貴だけじゃねぇ……! 俺だってもう一度やりゃあ……ッ!」
『うむ――――キジンは元より、ゴウマも更に研鑽を重ねよ。我らリンドウ一門、皆このワシが見出し才覚を秘めている。他の三人にもそう伝えよ――――』
キジンと呼ばれた青年は元より、ゴウマからもその声の主に対する深い信頼と敬意が見て取れる。
闇の奥から響く声は満足げに深く息をつくと、その輝きと深い闇のコントラストに人らしき影を覗かせる。
「しかし、門番共も然る者――――それほど間を置かず、我らの存在には気付きましょう」
『リンドウ一門に招集をかけよ――――我らリンドウが持つ刃を結集させ、スイレン最後の刃であるミズハ諸共、仇敵である門番共を根絶やしにする――――』
「てこたぁ……久しぶりに姐貴や大兄にも会えるってわけかッ!? こりゃあ、スイレンも門番も、まとめて皆殺しだなぁ……ッ!」
『トウゲンの国主はすでに我らの掌中。深淵が力を大きく減じている機に乗じ、この次元における我らの支配を盤石とする――――』
「はっ――――全て師父の言葉通りに」
「俺もやるぜ……ッ! 二度と無様は晒さねぇ……!」
響き渡る声の指示を受け、恭しく頭を下げるキジンとゴウマ。
それを見る声の主は浮かび上がる影のみで大きく頷く。
『グググ……待っていろ、門番ヴァーサス……! オヌシから与えられた屈辱。この地に集う強き魂と深淵の残骸を持って、必ずや晴らしてくれようぞ……ッ!』
篝火の強い光を受けても尚晴らすことが出来ぬ深い闇。
その闇の奥に鎮座する声の主は、強い怒りと憎悪を込めた声色でドス黒い心中を自らの言葉に乗せるのであった――――。
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