『クハハハハハッ! さあ、新たに進化した真のラスボス、そして主人公としての力――――貴様らゴミ共で試させて貰うぞッ!』
圧倒的領域とエゴの渦。
紅蓮と氷蒼――――二つの力が完全に混ざり合ったその力は、ヴァーサスや黒姫、反転者といった強者をしてその場にひれ伏すことに耐えなければならないほどのものだった。
「あわわわ……こ、これはまた胎教に悪そうなのがでてきましたねぇ……大丈夫そうですかヴァーサス?」
「わからん! やってみないことにはな! 黒リドルよ、すまないがリドルを頼む!」
「それは構わんが……この黒姫の力なしであの男を倒せるのか?」
「――――俺も行こう。どうやら、奴の主人格はかつての俺の物のようだからな」
黒姫にリドルの保護を頼んだヴァーサスに、離れた場所から反転者が声をかける。ヴァーサスは反転者の申し出に頷くと、さらに他の者にも目を向けた。
「クロガネは俺たちの戦いの余波がナーリッジに及ばないようにして欲しい。頼めるだろうか?」
「わかった。余裕があれば援護する。ラリィ、出来たらで構わないんだが、お前の力を俺に乗っけることはできそうか? 今さっきリバ男から聞いたんだ」
「僕の力をですか――――わかりました、やってみましょう」
クロガネはヴァーサスに対して軽く頷くと、隣のシトラリイに助力を依頼する。強い因果で結ばれているリドルと黒姫がヴァーサスに門の力を注ぐことができるように、実はシトラリイの門の力はクロガネに注ぐことが可能だった。
黄ヴァーサスとの戦いで苦戦するクロガネに、反転者はその事実を伝達していたのだ。
「あ、あのっ! 師匠、私はどうすればっ!?」
「ミズハは――――」
自分以外の全てのメンバーに役割が与えられた中、最後まで声をかけられなかったミズハがそわそわとした様子でヴァーサスに声をかけた。
ヴァーサスを見つめる銀色の瞳が決意と熱意の輝きを宿し、どんな役目であろうと全身全霊で応えてみせるという強い意志に満ちていた。
「――――ミズハは俺たちと共に奴の相手だ! 頼んだぞ、ミズハ!」
「――――はいっ!」
ヴァーサスはそんなミズハの銀色の瞳を熱い眼差しで見つめ返すと、力強い笑みを浮かべてその拳を握り締めた。
ともすれば過去最強もあり得る強敵との戦い。そんな決戦でついに師と共に並び立てる喜びにミズハの心は奮い立った。
「よし! では頼んだぞみんな! ――――待たせたなリヴァーサスよ! 話が終わるまで待ってくれたこと、感謝するっ!」
『フッ……俺はラスボスにして主人公だ。たとえ貴様らが完全な状態であっても正面から戦い、そして勝利する。不安ならばウォンや門番皇帝を呼んでも良いのだぞ? そうだとしても、勝つのは俺だがなッ!』
「ヴァーサスよ……ふざけた奴だが、こいつの言っていることは真実だ。油断せず、距離を取って戦え」
ヴァーサス達の役割分担が完全に完了するまで待っていたリヴァーサスに感謝を述べるヴァーサス。そんなヴァーサスに注意を促すと、反転者はローブをはためかせて自身の氷蒼の領域を展開した。
『さあ、来るが良いッ! 深淵すら越える真の幕引きを与えてやろう!』
「距離か! 反転者よ、忠告感謝する!」
「師匠! お供します!」
瞬間、ヴァーサスは自身の紅蓮の領域を激しく燃え上がらせる。そしてそれと同時、やや離れた位置のミズハもまたその白銀の領域を二刀へと集約し、辺りを飲み込むリヴァーサスの領域に抗った。
「行くぞ、リヴァーサス!」
ヴァーサスが叫ぶ。だがその音は完全にその場へと置き去りにされた。
一瞬で光速すら超越する速度へと到達したヴァーサスは、眼前のリヴァーサスめがけて進化した全殺しの槍を突き放つと、即座に閃光の剣戟を交えて交戦を開始する。
領域同士が激突し、弾け飛び、その勢いでヴァーサスとリヴァーサスはそのまま四次元空間を越えた高次元空間戦闘へと流れるように移行する。
周囲の景色が赤方偏移し、薄い膜の向こうのような、深い水の底へと沈むような浮遊感が全身を包む。
通常であれば足下すら定かならぬこの空間で戦闘行為を行うことなど不可能だが、すでに生物の測りすら越えた力を持つヴァーサス達にとっては、物理法則に縛られることなくその全力を発揮することのできるこれ以上ない戦闘空間だった。
『クッハハハハ! なんという凄まじい槍術! さすがは俺だな!』
「うおおおおおお! 俺はお前ほど髪が長くないぞっ!」
「――――たった今、俺が距離を取って戦えと言ったのを聞いていたのか?」
「すまん! 俺は接近戦の方が得意でなっ!」
「仕方ない、俺が合わせよう」
こともなげにヴァーサスの槍の連撃に応じてみせるリヴァーサス。
だがその瞬間、ちょうどヴァーサスと共に挟撃する形でリヴァーサスの背後に反転者が現れ、そのローブをはためかせて両手を自身の中央で重ねた。
「あの女が複製した俺の武器をさらに俺がコピーした。効果は同じだ」
反転者の周囲に、ドレスが持つ全防御の盾が一斉に出現する。その数はざっと数十を数え、無数の剣戟を交わすヴァーサスとリヴァーサスの周囲にあらゆる因果を止める絶対防御の壁を出現させた。
「これでいいだろう――――やれ、ヴァーサス」
「なるほど!? よくわからんが――――全殺しの槍よ!」
ヴァーサスとリヴァーサスを包囲するように出現した絶対防御の壁。その構築を見た反転者は、即座にヴァーサスへと指示を出した。
その指示はただ『やれ』と言われただけだったが、ヴァーサスは何事かを察したのか即座に進化した全殺しの槍の出力を最大まで解放し、なんの躊躇もなく眼前のリヴァーサスへと叩きつけた。
『おおっと! 今のは危なかったぞ! 直撃していれば俺とて死んでいた!』
「チッ……これは厄介だな。因果律兵器の進化形態まで使いこなしているとは」
進化した全殺しの槍がもたらす破滅的な因果崩壊の一撃。しかし確かにそれを受けたはずのリヴァーサスは領域崩壊の渦から無傷で出現する。
みれば、リヴァーサスの周囲には紅蓮と氷蒼、二つの輝きを持つ七枚の結晶――――進化した全反射の盾が、リヴァーサスを守護するように浮遊していた。そして――――。
「ぬあああ!? なんだこれは!?」
『ハッハッハッハ! どうやら貴様の盾と俺の盾の因果がせめぎ合っているな! 今の俺と互角とは、さすがは主人公だ!』
なんと、先ほどヴァーサスが放った全殺しの槍による破壊の渦はそのまま消えずに残っていた。ヴァーサスを守護する全反射の盾と、リヴァーサスを守護する全反射の盾。互いが互いに降りかかる災厄を無限に反射し合い、永遠に続く反射合戦となって停滞していたのだ。
「ヴァーサス! その力を止めろ! そのままではいずれ因果崩壊に達してこの狭間ごとなにもかも吹き飛ぶぞ!」
「ぬわーーーー! 止めたことがないのでわからんのだ! 盾に聞いても跳ね返すので忙しいらしい! どうしたものか!?」
『クククッ! 貴様らに使える物は当然俺にも使える。先ほどのガラクタ共はエントロピーが不完全だったが、今の俺は奴らが集めた最新の情報を元に生み出されているのだッ!』
無限に跳ね返される破滅の因果。
次第にその力は輝きを増していき、かつてドレスとヴァーサスが戦った際に発生した次元震を辺り一帯に響かせ始める。慌てふためくヴァーサスをよそに、リヴァーサスは高笑いを上げ、自らが持つ全殺しの槍をゆうゆうと進化した両手槍の形態へと変化させた。だが――――。
「睡蓮双花流――――終の太刀!」
だがその瞬間、決意に満ちた凜とした声が高次空間に響いた。
全てを断ち切る因果断裂の一閃がヴァーサスの周囲に煌めき、終わりなき反射の因果を一刃の元に斬り捨てたのだ。
「大丈夫ですか師匠っ!? 今のは斬っても良かったんですよね!?」
「ミズハ、助けられたな……感謝する!」
その銀閃の主はミズハ。ヴァーサス達に追いつくために若干息を荒げているものの、因果すら断ち切るまでに成長したミズハの刃は確かにヴァーサスの危機を救ったのだ。
『はっはっは! 多少はやるようだが、主人公でもラスボスでもない貴様が加わったところでなんの意味もない! このまま高次空間の藻屑としてくれる!』
出現したミズハに若干驚いたような表情を見せるリヴァーサスだったが、すぐにその領域の程度を見切り、狂気の笑みを浮かべた。
ミズハの領域は確かにヴァーサスや反転者に比べればまだ弱く、不安定だった。しかし、たとえそうだとしても――――。
「師匠! なんでも言ってください! たとえどんなことでも、私は絶対にやり遂げて見せますっ!」
「ああ! 頼りにしているぞ、ミズハ!」
「この場に紛れた俺たち以外の研ぎ澄まされた領域――――ミズハ・スイレンが因果すら断ち切るというのであれば――――」
ヴァーサスとミズハの力強いやりとりを見る反転者が何事かに気づいた。すると反転者はそのまま自身の周囲に今度は全殺しの剣を無数に出現させる。
「――――リヴァーサスよ、次はこちらから行くぞ」
『どこからでも来るが良い! 俺はどんな挑戦でも受けて立とうではないか! クハハハハハ!』
反転者はそう言って眼前のリヴァーサスに対峙しつつも、その裏でヴァーサスとミズハに向け、密かに何事かを伝達するのであった――――。
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