「では……! お父様、お母様。お兄様も。お姉様やトウヤお兄様にも、どうかよろしくお伝え下さいっ!」
「ミズハ……此度の事。我ら一同心から感謝しておる。ミズハを離縁した判断は、儂の世迷い言だった。我らは家族。それはこの先決して変わることはない」
「またいつでも戻ってくるのですよ。父も母も、この機会にミズハと会うことが適わなかった他の皆も、きっと喜びます」
「本当にありがとう、ミズハ……それに、他の皆さんも。皆さんのおかげで、剣の道を歩み続ける決心がつきました。ぜひ、また皆さんで遊びに来て下さい!」
輝くような朝日の下。ゲンガクやスズナ、そしてカズマに見送りを受けるヴァーサス達。
このトウゲンの国主にまでその力が伸びていた、名も無き神の野望は潰えた。
最終局面で参戦した門番皇帝ドレスの力により、トウゲン全域に巣くっていた深淵の力は今度こそ跡形もなく排除され、その脅威は去った。
「此度のことは、全てこのジュウギの不覚……スイレンのみならず、守るべきトウゲンの民に刃を向けたこと。いかように頭を下げても償いきれる物ではない……」
「いいや、ジュウギ殿。先日も言った通り、たとえ門番であろうと間違うことも、道を誤ることもある。貴殿には今も貴方を慕う大勢の弟子がいるではないか! 貴方は彼らの師匠として、過ちを犯した時にこそ初心に立ち返り、より武を磨くのだと言うことを伝える責務があるっ!」
「私も、そう思います。ジュウギ様が命を捨てて謝罪を示しても、それでは残されたお弟子さん達があまりにも不憫です……例え恥を晒しても、だからこそ皆さんに伝えられることがあるはずです……!」
「ヴァーサス殿……ミズハ殿……っ」
その見送りの列の中。リンドウの長であるジュウギはもはや何度目かもわからぬ程にヴァーサス達に頭を下げ、自らの行いを謝罪した。
だが二人はジュウギの思いを汲み取った上で、もう気にしていない等とは言わず、だからこそ出来ることがあると伝えた。
既に、ヴァーサスもミズハもよく知っている。
固い絆で結ばれた師弟とは、決して師が教えるだけの関係ではない。
互いに教え合い、気づき合い、そして支え合う。
それこそがあるべき師弟の姿なのだと言うことを。
「そうッスよ! 自分ももしミズハさんが何か失敗したって、一生ついていくッス! そんなことより、ずっと元気で一緒にいて欲しいッス!」
「ハッハッハ! 俺もそうだ! ミズハに居なくなられたら困る! 絶対に嫌だ! いつまでも共に立派な門番として頑張りたい!」
「ジュウギよ……我らスイレンとリンドウは、共にあってこそトウゲンの守護刀。自らの不覚を悟ったのは我らも同じ。どうか、また共に武を磨き、競い合っていこうぞ……」
「ゲンガク……かたじけない……っ」
目の敵として憎悪していた門番達に諭され、その頭を再び下げるジュウギ。
例え一度憎悪に囚われて道を誤ったとしても、彼らリンドウもまた、スイレンと共に再び一からその剣を磨き直していくのだろう。
「でもでも、私もトウゲンに来るのは初めてでしたけど、とっても気に入りましたよ! ぜひまた皆さんと遊びに来たいですね!」
「クックック……確かにな。トウゲン特有の料理もなかなかに美味だった。まあ、次は荒事に巻き込まれないよう、純粋なレクリエーションとして楽しみたいところだなッ!」
「ぜひ来て下さい! 俺達も大歓迎です! その……その時は、カーラさんもぜひ……!」
「えええっ!? 自分もまた来てもいいッスか!? ありがとうございますアニさんっ! その時はよろしくお願いしたいッスうううううっ!」
「はいっ!」
「きゅぴーん……! なんでしょう、きゅぴーんと来ましたよこれは……!? なにやら新たなフラグが立った音が聞こえました……っ!」
「奇遇だな白姫よ、この黒姫にも聞こえたぞ……ッ!」
「ふふっ、なら今度もまたカーラさんと一緒に来ますね! お兄様も、どうか息災で!」
なにやら頬を染めてカーラを見つめるカズマの様子に、何かを感じ取るリドルと黒姫。そういったセンサーを未だに一切持っていないミズハはにこにこと微笑み、カズマとの再会を約束した。
「では俺達も家に帰るとしよう! 父上殿、母上殿、兄上殿。そしてジュウギ殿! また会おう!」
「私も、絶対にまた戻ってきます……! お父様、お母様、お兄様! 皆、お体に気をつけて!」
「自分もとっても楽しかったッスーーーーー! 絶対にまた来るッス! 絶対ッス! 約束するッスーーーーー!」
「はいはい! では行きますよ皆さん! 色々とありがとうございました!」
「さらばだッ! クハハハハハハッ!」
「ありがとう! 本当にありがとうございましたっ! 俺……もっと強くなりますっ!」
別れを惜しみつつも、やがて時が来たヴァーサス達はスイレンの門前から一瞬にしてナーリッジへと帰還する。
その場に残されたカズマ達は、今回の出来事で学んだこと。そして新たに目指す武と守護者としての頂きを見据え、その決意を新たにしたのだった――――。
――――――
――――
――
「不思議です。私が残した欠片の音。貴方の中から聞こえます――――」
「あ、あの……! その、すみません……! もしかしたらそれ……私が勝手に使ってしまったかもで……っ」
「わあ! 本当だ! 確かに君の中に深淵の力と似たエントロピーを感じるね! でも大丈夫。ボクが見たところ、その力はもうすっかり君のエントロピーと混ざり合ってる! 深淵とは別の力だよ!」
「とても、興味深いです。貴方と一つになれば、私にも理解できるでしょうか?」
「ひえっ……!? あ、あの……そういうのはこの前ので懲りたので……できればご遠慮したい……です……はわわ……っ」
「おお!? コトノハ殿もすっかりマーキナーやラカルム殿と仲良くなったようだ! やはり賑やかなのが一番だな!」
「いやはや……このペースで我が家に住む人が増えていくと、本当にここに新しい街が出来ちゃうんじゃないですかっ? そうなったらそうなったでまた新しいビジネスチャンスでけどもっ!」
そしてこちらは久方ぶりの我が家へと戻ったヴァーサス達。
そこには一足先にこちらへとやってきていた新たな仲間。
ミズハに良く似た小柄な少女――――コトノハと、黒の中に星を宿したドレスを身に纏う金髪の少女、マジカル☆ラカルム。そしてかつて最後の門から全ての宇宙を支配していた機械仕掛けの神、マーキナーが仲良く会話に花を咲かせていた。
「クハハハハッ! いいではないか白姫よ、人手は多いに超したことはない。どうせお前達二人の子供もまだまだ増えるのだ! 子育て要員の拡充が求められるのでなっ!」
「ちょ……! ま、まだわかりませんよっ!? まあ……毎回レゴスさんが完璧に産後の体を治して下さるので、私としてはまだまだ幾らでもヴァーサスの子供は欲しいですけど……?(テレテレ)」
「はっはっは! ならばまた家も広げなければな! さあ、俺も早速今日の門番活動を始めるとしよう!」
「私もお供しますっ! 師匠っ!」
「うおーーーー! じゃあ自分もお二人と一緒に門に立つッスーーーー! 門番カーラッスううううっ!」
「うむ! ならば今日はトリプル門番だな! ハッハッハッハ!」
戻ってきて早々だというのに、門番としての使命に燃える門番師弟三人組は、すぐさま目の前のリドルの門めがけて駆けだしていく。
リドルと黒姫はそんな三人の師弟の姿をやれやれと見つめ、穏やかな笑みを浮かべるのであった――――。
門番VS里帰り ○門番 ●里帰り 決まり手:仲間がまた増えた
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