門番VS

あらゆる災厄から門を死守せよ!スーパー門番同棲ファンタジー!
ここのえ九護
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続・試験勉強する門番

公開日時: 2021年2月17日(水) 06:59
更新日時: 2021年2月17日(水) 07:27
文字数:2,580


 煌々と明かりの灯る黒姫邸。


 夜は更けていくが、広間でのヴァーサスたちの試験勉強はまだまだ続いていた――――。



【課題:歌唱試験 講師:フローレン・ダストベリー】


「うふふっ……こんばんはみなさん。こうしてまた会えて嬉しいです。今日は私と一緒に楽しく歌いましょうね」


「お、おお! ダストベリー嬢! こうして来てくれたこと、感謝する!」


「他ならぬヴァーサスさんの危機ですから……私の方こそ、貴方のお力になれて嬉しいですわ。うふふっ」


 

 歌唱試験の講師として現れたのは門番ランク3。聖女フローレン・ダストベリーである。


 現れたダストベリーは笑みを浮かべて挨拶すると、いくつかの羊皮紙を三人に配っていく。見れば、その羊皮紙には何曲かの曲目と歌詞や音符が書かれていた。



「では皆さん、そこに書かれているお歌の中から好きなものを一つお選びになってくださいね。そのお選びになった歌で練習していただきます」


「なるほど! ならば俺はこの【伝説の門番クルセイダスのマーチ】だ! これは俺も子供の頃良く歌っていた!」


「はうあっ!? ヴァ、ヴァーサスよ……まさかとは思うが、その歌はっ!?」


「く、黒姫さん……っ!」



 ヴァーサスが勢いよく選び取った曲のタイトルを聞いたリドルと黒姫が、何かに気づいた様子でおよよと目を見合わせ、なぜか涙ぐむ。



「うむ!? 二人もこの歌を知っているのか。有名な歌だからな! 門番ー! 門番ー! 守る! 守る! クルセイダスー♪ ハッハッハ! 久しぶりに歌うと気分が良いな!」


「ひ、ひえええ……やっぱりその歌じゃないですか……ううっ……少年ヴァーサス君……っ」


「くっ……涙をこらえきれぬ……っ! ううっ……少年ヴァーサス君……っ」



 過去の世界で小さなヴァーサスが最後に歌っていた曲を再び聴いてしまったリドルと黒姫は、それだけで胸を押さえて発作を起こしたように地面へと突っ伏した。せっかく昼間の状態から立ち直ったところだったが、こうなってはもはや戦闘続行不能である。



「なら俺はこいつだぁ! 【山より大きなギガンテス】! 俺の歌じゃねえか! ガッハッハ!」


「えっ!? ギガンテスさんってご自身のお歌発表してらっしゃったんですか!?」


「発表ってなんだぁ!?」


「うふふっ。そのお歌はとっても古い昔話を元にしたものなんですよ。きっと大昔の人たちが、ギガンテスさんの姿を見てお歌やおとぎ話を作ったんでしょうね」


「す、すごい……! ギガンテスさんってそんな昔からいらっしゃったんですね! 道理でとても大きいと思いましたっ!」


「ガハハハハ! 俺より大きい奴は見たことねぇぞ!」



 こうして大好きな門番の歌と、自分を題材として勝手に作られていた歌を選んだ二人はダストベリーの歌唱トレーニングをみっちりと受け、最低限の歌唱力を身につけた。だが黒姫は駄目だった。



【課題:学力試験 講師:シオン・クロスレイジ】



「学力の講師を担当するシオン・クロスレイジだ。宜しく頼む」


「シオンまで来てくれたのか! これは感謝してもしきれないな!」


「気にするな、リドルから報酬は貰っている。だが、実のところ俺も他人に教えられるほど頭に自信があるわけではない」


「なんと! ならばどうするのだ?」



 続いて三人の前に現れたのは門番ランク5。最強の魔導甲冑乗りシオン・クロスレイジである。シオンはヴァーサスからの問いに小さく頷くと、呟くように口を開く。



「心配するな。既に手は打ってある。アリス――」


「ええ。こっちの準備はできてる」


「な、なんとっ!?」


「なんじゃこりゃあ!?」



 シオンに促されて入室したのは、オレンジ色に近い栗色の髪を長く伸ばした白衣に眼鏡の小さな少女。シオンからアリスと呼ばれたその少女は、自らに続いて大きく開かれた扉から、巨大な椅子と頭にかぶせる円形のヘルメットのようなものが備えられた装置を室内へと運び込んだ。



「必要なデータの入力は完了してあるから、後は流し込めば済むはず。面倒だから、さっさとやっちゃって」


「わかった。お前たち、ここに座れ


「おお!? なんだかよくわからんが凄いな!」


「なんだぁ!? ピカピカしててかっけーな!」


「ちょ、ちょっとちょっとちょっと!? ちょっと待ってくださいよ!? なんで今から勉強するのにそんな変な装置に座るんですか!? どう考えてもおかしくないですか!? それどこからどう見ても頭かき混ぜてドカーンってなるやつじゃないですかっ!?」


「心配するな。ここに来る前に念のため猿で試したが問題なかった」


「もっと不安になるんですけどーーーーっ!?」



 リドルの悲痛な叫びも虚しく、戦線離脱した黒姫以外の脳筋二人は嬉々とした様子でその装置に乗り込んでいく。二人の頭部にヘルメットが被され、ドキドキワクワクにますますもって笑みを深めたヴァーサスとギガンテスの口元だけが装置から見える状態になっていた。



「では始めるぞ」



 シオンが装置のレバーを引く。すると二人の座る装置が閃光を発し、赤青緑黄色と、様々な色のランプが点滅を開始する。



「うむ!? う、うおおおおおお――!?」


「アバーーーーッ!?」



 青白い電流がヴァーサスとギガンテスの全身に走り、二人は椅子に繋がれたままガクガクと震えた。そして数秒後――。



「完了だ。ヴァーサス、東の帝国カイリの初代皇帝は?」


「――ピーガガー。ハイ、七紫武帝デス――」


「よし……どうやら成功したようだ」


「そうみたいね。一から教えるなんて非効率だし、やっぱりこの方法が一番手っ取り早い」


「別人だこれーーーーっ!? ちょっとちょっと! これは無しです! 早くヴァーサスを元に戻してくださいよ! こんなの明らかにヴァーサスじゃないですよ! ロボ! ロボですこれ!」


「そんなに慌てないで。三日くらいすれば自然に元に戻る。試験は二日後だから、十分なはずよ」


「三日もこんなロボヴァーサス見ないといけないとかなんの罰ゲームですかっ!?」


「リドル=サン。オ喉ガ、カワキマセンカ? イマ、オチャヲオモチシマス。ガガガ」


「ひええええ! ギガンテスさんまでっ!? どうしてくれるんですかこれ!? 早く! 早く戻してください! 今すぐに! いやーーーーっ!」



 未だに倒れ伏して涙を流す黒姫と、目の前で起こった現実を受け入れられず口をぱくぱくさせるミズハ。


 完璧な学力を身につけたが動作がカクカクするようになってしまったヴァーサスを前に、リドルの悲しみの叫びが夜の闇に木霊したのであった――――。




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