「うぐ……っ。あれ……? 自分は……」
「カーラさん……っ! 目を覚ましたんですね、良かったです……」
見上げた夜空に輝く満天の星空。
ゴウマとの戦いで意識を失っていたカーラは、その全身に痛みを感じながら目を覚ます。見れば、そこにはカーラに背を向けたまま一振りの刀を構え、傷だらけになりながら今も立ち続けるカズマの姿があった。
「アニさん……? はっ……そういえばあいつは、戦いは……!?」
「クククッ……! ようやく起きたかちんちくりん一号よッ! 安心するが良い、既に有象無象のモブ共はこの黒姫が纏めて片付けた。マイナー武器を使う根暗男はそこのちんちくりん二号が。そしてあの木偶の坊も、貴様の一撃でリタイアよ……ッ!」
「そう、だったッスね…っ。いぎぎっっ……!?」
「まだ動いちゃダメです……っ! 恐らく、カーラさんは右拳以外にも何カ所か骨が折れてます。今は、そのままじっとしてて下さい!」
「フフ……それを言うならばお前だって傷だらけだろうに。おいカーラよ、カズマに感謝するのだな。こいつは意識を失ったお前を、今の今までずっと庇いながら戦っていたのだ」
「えっ……!? アニさんが、自分を……っ!」
「はは……俺だけじゃ、とてもカーラさんを守り切ることは出来なかったよ。父上と、黒姫さんが助けてくれたから……でも、本当に良かった……」
「アニさんっ!?」
驚くカーラの目の前。カーラが無事に目覚めたのを確認したカズマは、ついにその緊張の糸が切れたようにしてぱったりと膝を突いて倒れる。
見れば、カーラのすぐ横には傷ついたカズマの父ゲンガクも寝かせられていた。
黒姫の言う通り、カズマは確かに二人を守り切っていたのだ。
「アニさん……ありがとうッス……」
カーラは自らもふらふらの有様で倒れたカズマに身を寄せて支えると、安堵とやり遂げた達成感。そして自分と共に戦ってくれた仲間への感謝の込められた一息をついた――――。
「フ……さて、どうやらあちらも方が付いたようだな」
「はいはーい! さすが黒姫さんっ! ちょうど今終わったところですよ!」
「ハッハッハ! 久しぶりに途轍もなく卑怯な相手だったので驚いた! 俺もまだまだだな!」
「皆さんっ! ご無事ですかっ!?」
「し、師匠っ! 大師匠と社長さんも……っ!」
そしてそれとほぼ時を同じくして、戦場となった門の前に広がる大通りの向こうから、虚空を切り裂いてヴァーサスとリドル、そしてミズハが通常空間に帰還する。
見れば、ヴァーサスの両腕には気を失ったリンドウ一門の二人。ジュウギとロウガも抱きかかえられていた。
「お前達三人が出向いたにしては存外に手こずったな。そいつらの領域に紛れ込んでいた奴はどうなった?」
「ご心配なく! ご覧の通り、ミズハさんの剣でこの方達と切り離して頂いた後、ヴァーサスの力で跡形もなく吹っ飛ばして貰いました!」
「うむ! 実はたった今思い出したのだが、もしやあれは以前俺達が戦った――――」
「――――名も無き神、ですね。恐らく、今は皇帝さんと一緒に頑張ってるクータンさんと同じように、生き残っていた神様が今までトウゲンに潜んでいたんだと思いますよ!」
名も無き神。
既に打倒した後となって思い出されたその存在は、かつて門の向こう側を目指してヴァーサス達に戦いを挑み、滅びた神達のなれの果てだ。
強大な力を持ち、新しい次元すら創造できるヴァーサスと同様の特異点。
しかし名も無き神はその誕生から程なくしてヴァーサスとリドル、そして黒姫と言った強者達によって葬られた。
だが名も無き神の脅威はそれで終わったわけではなかった。
名も無き神はその後もこの宇宙に残る僅かな神の生き残りに自らのエゴを移し替え、その自我を乗っ取って生き存えた。かつて、デイガロス帝国を襲ったクータンも、名も無き神の残滓によって自我を奪われた犠牲者だった。
「じゃあ、リンドウの皆さんが突然強い力に目覚めたのも、私達門番に憎しみを抱いていたのも……」
「そうだ、名も無き神は門番との戦いで追い詰められ、絶望した神々の憎悪の集合体。リンドウ共も門番を良くは思っていなかったのだろうが、ここまで浅はかな暴挙に出たのは、名も無き神の浸食を受けたことが原因だろう」
「自我とか浸食って、よくわからないッスけど……つまりリンドウの皆さんは、その神様に操られてたってことッスか?」
「そうなりますねぇ。私が見た感じ、なんか黒姫さんみたいにラカルムさんの力も取り込んでたっぽいですし……カーラさんも気をつけて下さいよ? 確かヴァーサスとミズハさんは精神汚染完全耐性持ちですけど、見た感じカーラさんはそういうのまだぜんっぜん何にも持ってませんから! 目をつけられたあっというまにやられちゃいますよ!」
「ひえっ!? き、気をつけるッス……!」」
傷ついて倒れるカーラとカズマに回復用のポーションで応急手当をするリドル。
リドルの言葉通りまだ精神耐性や超常耐性を一切持ち合わせていないカーラは、リドルのその話に冷や汗をかいて縮こまった。
「でも、こうして皆さんが無事で良かったです……私や、私の家族のためにこんなに頑張って下さって……本当に、どうやって感謝すればいいのか……」
「なーに今更水くさいこと言ってるんですか。ミズハさんはもう私達にとっても大事な家族なんです。こうして無事に終わってなにより――――」
「む……? 待てリドル、どうやらまだ終わってはいないようだ――――!」
だがしかし。
張り詰めていた空気が弛緩し、その場にいる誰もが戦いの終わりを確信した。その時である――――
『オ、オオオオオオ――――! オボエ、マシタ――――! ワタシハ、モウ、前口上からは入らない――――!』
まるで地獄の底から響くような怨嗟の声。
隠れ蓑としていたジュウギの肉体を奪われ、そのむき出しの憎悪を形にしたような異形の赤子。名も無き神が、再びヴァーサス達の前に出現した――――。
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