門番VS

あらゆる災厄から門を死守せよ!スーパー門番同棲ファンタジー!
ここのえ九護
ここのえ九護

泣いた門番

公開日時: 2021年1月12日(火) 22:28
更新日時: 2021年1月28日(木) 17:09
文字数:1,344

 

「う……っ」



 果たしてどれほどの時間が経ったのだろう。


 目を覚ましたヴァーサス。

 ヴァーサスの目に、柔らかなオレンジ色の光に照らされた室内が飛び込んでくる。



「あ、気づきましたか?」


「くっ……門は、門はどうなった?」


「ご心配なく。門は無事です。あなたのおかげですよ」



 ずっと介抱してくれていたのだろうか。

 リドルは濡れたタオルをヴァーサスの打撲痕に当てながら微笑んだ。



「そうか……良かった」


「とはいえ酷い怪我です。しばらくは休んでくださいね」


「いや、そういうわけにはいかない。動けるようになればすぐに――ぐっ!」


「ほらほら、無理しないでください。生きてるのが不思議なくらいなんですから」



 全身を貫くような痛みに悶えるヴァーサス。

 並の人間なら軽く百回は死んでいるような怪我である。


 リドルはそんなヴァーサスの様子に苦笑いを浮かべながらも、手当を続けた。



「……私の門番を引き受けたこと、後悔してます? まさかあんなのが来るなんて思ってなかったんじゃないですか? きっと……これからもあんなのが来ます。私の門は……そういう場所なんです」



 申し訳なさそうに、しかし真剣な眼差しでヴァーサスを見つめるリドル。

 だがヴァーサスは、リドルの視線を正面から受け止めて笑った。



「後悔などするものか。むしろ俺は今も嬉しくてたまらない。こうして夢だった門番としての仕事ができるのも、全て君のおかげだ。リドルには何度感謝してもしきれない……本当にありがとう」


「……きっとこれから凄く大変だと思いますよ? でも、そうですね。あの時あなたに声をかけたこと、間違いではなかったです」



 ヴァーサスのその笑みは、心の底から嬉しそうだった。

 彼の瞳は充実感に溢れ、死にそうな怪我だというのに生気に満ちている。

 

 リドルはやれやれといった様子で一つ息をつき、微笑んだ。



「そうとも! これからも大船に乗ったつもりで俺に任せると良い! ハッハッハ!」


「はいはい。わかりましたから、大声出したら傷が開きますよ。ちゃんと安静にしてください」


 

 今にも起き上がらんばかりのヴァーサスを両手で制するリドル。

 ヴァーサスは未だにその目をキラキラと輝かせながらも、大人しく静かになった。



「……しっかり休んで、またよろしくお願いしますね。あなたは、私の大切な門番様なんですから」



●    ●    ●



 もう空が赤くなることはない。

 枯れたはずの森の木々が、何事もなかったように風に揺れている。



 いつもと変わらない満天の星空の下、門の横にある小屋の灯が消えた。



(……やった……俺はやったんだ……! 門番として強敵から門を守り切った……!)



 暗くなり、窓から射し込む月明かりだけが室内を照らす。


 ヴァーサスはベッドの中で横になりながら、一人涙を流していた。


 それは喜びの涙だった。


 体は限界まで傷ついていた。


 だがその心は門番としての仕事を終えた喜びで打ち震え、溢れ出る涙は止まることがなかった。


 部屋の反対側に置かれたベッドから、そんなヴァーサスの様子を伺うリドル。


 リドルは震えて泣くヴァーサスの様子に困ったような、好ましいと思うような微妙な表情を浮かべながら、彼の邪魔をしないようにと静かに瞳を閉じた。



 ヴァーサスの門番としての仕事は、こうして無事完了したのである。




『門番VS神 ○門番 ●天空神ヴァルナ 決まり手:全殺しの槍キルゼムオール特攻』 




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