門番VS

あらゆる災厄から門を死守せよ!スーパー門番同棲ファンタジー!
ここのえ九護
ここのえ九護

さよならの門番

公開日時: 2021年4月6日(火) 18:58
更新日時: 2021年4月7日(水) 05:43
文字数:3,737


 暖かな日差しが降り注ぐ門の傍。


 二階建てになったリドルとヴァーサスの家の前で浮遊する、巨大な次元航行船。


 今、その船の下には大勢の人々が集まり、この世界から旅立つ仲間達を見送りにやってきていた。


「もう一人の俺殿! この度のこと、大変世話になった!」


「お前もな、ヴァーサス――――しかし、こうして実際に自分と話してみると、そこにいるリドル・パーペチュアルカレンダーと黒姫の気持ちがわかるな。お前と話すときは反転者リバーサーのままでいるか……」


「ヴァーサスにヴァーサスと呼ばれるのが混乱するというのであれば、ファスティパーマネントと呼んで貰うのも手。貴方ももうただのヴァーサスではない。エントロピーの総量ではそっちのヴァーサスと互角の筈」


 かつて身につけていた船団の指揮官としての服装となった反転者リバーサーが、眉を顰めながらヴァーサスと握手を交わす。


 反転する意志による復讐の旅は終わった。


 反転者リバーサーは本来のヴァーサスへと戻り、ロコの持つファスティパーマネント姓を名乗るようになっていた。ヴァーサス・ファスティパーマネントである。


「クククッ! その通りだ! 何度世界がリセットされようと、どこへ行こうと! ヴァーサスは我らパーペチュアルカレンダーとファスティパーマネントからは逃れられぬ! 最後には我らが因果に取り込まれる運命よッ! クハハハハハッ!」


「いやはや……まあその、私どもとしては特にそういうつもりはなかったのですが、結果的にどうもそうみたいですねっ! なんともかんとも!」


「向こうの世界に行ったら、私がヴァーサスをもっと増やしていく。ヴァーサスのエントロピーは強いけど儚い。しっかり増やさないと心配」


「あ! それ私もそう思ってたんですっ!」


「なんだと!? ならば私もだッ!」


 固い握手をするヴァーサスと反転者リバーサーのすぐ隣で、ワイワイと大騒ぎする三人の同位存在。リドルと黒姫、そしてロコはマーキナーとの決戦の後から今日までの期間ですっかり打ち解け、仲良し同位存在三人組になっていた。


 反転者リバーサーがファスティパーマネントになった――――つまり周囲も自身も認める形で互いを伴侶としたのも、全てこの三人が結託した結果だった。やはりヴァーサスという存在は、一度見つかってしまえばリドル同位体からは逃れられないのだ――――!


「はっはっは! どうやらこれからも退屈しなさそうだな! 向こうへ行って落ち着いたらまた来てくれ! いつでも歓迎する!」


「そうだな。そのときは俺も何か土産を持ってこよう。手ぶらでは申し訳ないのでな」


「ああ! 楽しみにしている!」


 そう言って握っていた手を離し、改めて笑みを浮かべる反転者リバーサー。彼らはこれから、マーキナーが解放することに成功した最後の門の向こう側へと向かうのだ。


「でも、もうこの世界に時間切れはなくなったんだろう? もう別の狭間に向かう必要はないんじゃないのかい?」


「私もそう思います――――黒姫さんやロコさんに聞きました。あの門の向こうの世界は、私たちでも想像できないような世界が広がっているかも知れないって。もしかしたらすごく危険なんじゃ――――」


 そんな旅立ちを控えた反転者リバーサーに、ラフな格好に身を包んで見送りに訪れていたドレスとミズハが声をかける。


 二人の言う通り、最後の門の向こう側に広がる別の狭間が、ヴァーサス達が住んでいるこの世界と同じとは限らない。ともすれば全ての物理法則から世界を構成しているルールまで、なにもかもが違う可能性すらあるのだ。


 次元喰いという終末をもたらす存在が消えた以上、反転者リバーサー達がその門の向こう側を目指す理由はないように思えた。しかし――――。


「危険だからこそだ。もしあの門の向こうに得体の知れない存在が蠢いていたらどうする。お前たちがせっかく守った世界だ。誰かが行って、確かめる必要がある」


「アハハッ! こんなこと言ってますけど、団長はただ知らない場所に行きたいだけなんですよっ! 全部自分の好奇心からですっ!」


「勇者たるもの、世界の平和を守るためには率先して危険に飛び込まねばな! そのために隊長と共に旅立てること――――俺は誇りに思っている!」


「この世界のヴァーサス殿、そしてその奥方よ。我々はこうして旅立つが、後のことは宜しく頼みます。クロガネも、ここでようやく幸せを手に入れたようですので」


「ゼロツーは不満ッス! 最後の戦いで全然リバさんのお役に立てなかったッス! あっちの世界で強化改造してもらって、次は絶対お役に立つッス!」


 気付けば、いつの間にか反転する意志のメンバーもその場へとやってきていた。

 もちろん彼らだけでは無い。船を航行するための船員たちも、その殆どが反転者リバーサーと共に門の向こうへと旅立つことを決めていた。


 反転者リバーサーの言う通り、今まで何兆年、何京年にもわたって閉じていた門は開かれてしまった。ドレスが最終決戦で行ったように一時的な封鎖は可能だったが、一度開かれた最後の門を再び閉じる方法は未だに見つかっていない。


 それが一体何を意味するのか。そして門の向こうには何があるのか。それを確認することは、間違いなく重要な任務だった。


「悪いな――――全部お前たちに任せちまって。聞いた感じだと、俺の力は結構そっちでも役に立ちそうな気はするんだが」


「それはどうかわかりませんよ。アツマさんの力はあくまで僕たちの世界の物理法則の上に成り立っている力です。もしそちらのヴァーサスさんが言うように、門の向こう側の物理法則が異なるのであれば、なんのお役にも立てないことだってあり得ます」


 中折れ帽のつばに手を添え、申し訳ないとばかりに渋い表情を浮かべるクロガネ。しかし隣に立つシトラリイが言う通り、クロガネの力はどのような世界かによって有効無効が明確な力だ。不明領域の探索にはあまり向いておらず、なにより――――。


「ワハハハ! お前はなにも心配せず、こちらでシトラリイ殿と暮らしていろ! 危険な任務は勇者の役目だ!」


「もしクロガネさんの力が必要ならすぐに戻ってきて拉致しますっ! って言いたいところですけど――――」


「――――クロガネよ、お前は解雇だ。有給休暇利用のバカンスが長すぎるのでな。これからは、本職に専念しろ」


「……わかった。戻ってきたら顔くらい見せろよ――――ヴァーサス


「ああ。そうしよう――――」


 全ての別れを済ませ、最後にクロガネに解雇通知を手渡す反転者リバーサー

 肩をすくめてその紙を受け取ったクロガネは、反転者リバーサーの肩を力強く抱き、友の旅立ちを見送った――――。



「――――では、この世界のことを頼んだぞ。たとえどこに行こうと、俺たちの故郷もこの世界であることに変わりは無い。必ず、またここに帰ってくる」


「皆さん、どうか息災でっ!」


「ありがとうミズハ。次は私も子連れで来るから」


「たはは……ロコさんが言うなら絶対にそうなんでしょうね。おっきくなったライトちゃんにも、ぜひ会いに来て下さいね!」


「今回この世界を守ることが出来たのは、間違いなく君たちのおかげだよ。僕らと君たちの間にも色々あったけど――――今こうして君たちを見送ることができて、僕はとても嬉しい。君たちの旅の無事を祈っているよ」


 笑みを浮かべ、手を振って次元航行船の中へと消えていく仲間達。その場に残る仲間達もまた大きく手を振って声を張り上げ、彼らの旅の成功を祈った。そして――――。


「――――そうだヴァーサスよ。最後にこれを確認しておこうと思っていたのだ。また殺されてはたまらんからな」


「――――? 確認とは?」


 全てのメンバーが乗り込み、後は出発するだけとなった次元航行船の下。反転者リバーサーは足を止め、思い出したように振り返ってヴァーサスへと声をかけた。


「――――お前はあの門の門番だ。門番であるお前に、最後の門の通行許可を貰えると助かるのだがな?」


 そう言って反転者リバーサーは今まで見せた中で最も穏やかな、そして信頼に満ちた笑みをヴァーサス達の前で浮かべた。


 かつて、マーキナーによってラスボスとして導かれたヴァーサス。


 最後の門の前で反転者リバーサーと対峙した際のヴァーサスは、ラスボスとしての使命を記憶を失ったマーキナーによって強制的に遂行させられてしまっていた。


 しかし今は違う――――。


 今のヴァーサスは、自身にかけられた反転者リバーサーのその言葉に、やはり最高の笑みを浮かべると、その場にいる全ての人々に聞こえる程の大声で宣言した――――。



「――――ああ! ヴァーサス・ファスティパーマネントとそのかけがえのない仲間達よ! 最後の門を守る門番、ヴァーサス・パーペチュアルカレンダーの名において、君たちは門の通行を許可されている! これから先も、いつでも自由に門を使ってくれ――――っ!」



 ヴァーサスの発したその声は、彼の持つ暖かな領域に乗り、宇宙を超え、狭間の果てにある解放された最後の門にまで届いた――――。


 反転者リバーサー達を乗せた次元航行船のエンジンが唸りを上げて起動し、辺りの草木を揺らしながら、どこまでも広がる青空に吸い込まれるようにして上昇していく。


 そしてその光景をヴァーサスとリドル、そしてライトの三人を中心とした仲間達はいつまでも見送っていた。


 いつか、きっとまた再会するその時を想いながら――――。 




 門番 VS デウス・エクス・マキナ


 門番○ デウス・エクス・マキナ●  決まり手:全次元収束の一撃





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