「ハハッ! 今回もお手柄だったねヴァーサス! それに皆も、本当にお疲れ様!」
「ハッハッハ! 俺は何もしていない! 全てミズハやリドル、黒リドルやカーラもだな! とにかく皆の頑張りがあってこそだ!」
「ふ、ふおおおおおおおお!? ほ、本物!? 本物の皇帝陛下が!? 自分の目の前にいるッスウウウウウウウ!?」
晴れやかな青空が広がるトウゲンの町並み。町外れの小さな菓子茶屋の軒下に並べられた幾つかの長椅子の上に座るヴァーサスが、満面の笑みを浮かべて溌剌とした声を上げていた。
そしてそのヴァーサスの隣に座るのは、流麗な銀髪をなびかせた褐色の肌を持つ見目麗しい青年。シンプルな銀色のネックレスに白いシャツと黒いパンツというラフな出で立ちながら、その身から溢れる神々しいオーラを隠すことは出来ない。
門番皇帝ドレス・ゲートキーパー。
押しも押されぬ不動の門番ランク1にして大陸一の大国、デイガロス帝国の皇帝その人が、このトウゲンの地に現れていたのだ。
「いやはや……気付いた時にはどうなることか思いましたが、本当に助かりましたよ。皇帝さんのおかげで、本当の意味でなんの被害も出さずに済みました。ありがとうございます」
「そんなことないよ。僕だってヴァーサスとミズハさんがあの力をなんとかしてくれなきゃ、どうしようもなかったんだ。それに、トウゲンで僕が表立って何かするのは外交問題に発展しかねなかったからね」
「それでもとっても助かりましたっ! まさか、私と師匠が斬った方だけでなく、他のリンドウの皆さんにもラカルムさんの力が根付いてたなんて……」
「確かにな。あの時は我らも目の前のことに気取られすぎていたが、考えれば当たり前のことだ。リンドウ共は皆、名も無き神から力を与えられていたのだからな」
そう言って同じく椅子の上に座り、口々に安堵の声を漏らすヴァーサス達。
あの名も無き神を依代として発現した次元喰いとの戦いは、見事ヴァーサスとミズハの勝利に終わった。
ミズハは見事、その究極を越えた刃で終焉の結末を切り裂いた。
そして世界と切り離された虚無めがけ、ヴァーサスはすかさずヴァーニングファイナル門番ヴァーサス・パーペチュアルカレンダーの力を解放。
全ての闇を自らの因果生滅の炎で焼き尽くし、その上でその中に取り込まれていた名も無き神の因果のみを再生することに成功したのだ。
『ヴァーサス――――なぜ、どうして、貴方達を傷つけ続けたワタシを――――』
『君が門の通行許可を得るためにやってきたのならば、君はもう俺の敵ではない。門番は、門から見える全てを守る――――その守るべき存在の中に、君も含まれているのだ』
『っ……はい……覚え、ました…………私は、今度こそ……絶対に忘れません…………』
『ああ! そうしてくれ!』
ヴァーサスによってその自我を取り戻した名も無き神。
本来の彼はこの宇宙を創造したとされる上位神の集合体だ。
それがリドルの門を通ることに固執し、ただの人間である筈のヴァーサスによって消滅の危機に瀕した際に新たなる存在に進化した。
本来であれば、彼らもまたあのように憎悪と怒りに狂い続けることなどない、理性的な意識も持ち合わせた立派な神だったのだ。
「名も無き神さんはそれでなんとかなったッスけど、外に出たら他の皆さんまであの黒い力に侵食されててビビったッス! でも、そこで皇帝陛下がやってきて全部なんとかしてくれたッスーーー!」
「あんな大量のモブに取り憑いた次元喰い共を一つ一つ潰していくなど面倒極まりない作業になるところだったが……ドレスよ、どうやら貴様も暫く見ぬ内に腕を上げたではないかッ!」
「ハハッ! ありがとう黒姫さん。まだ僕の皇帝領域だけじゃ次元喰いそのものを抑えることはできないよ。だけど、ああやって散り散りになったその名残程度なら、簡単に支配できる――――それに、二年前と違って今はこのトウゲン全域くらいは全て皇帝領域に取り込めるようになったしね」
「ひえええ……っ!? 皇帝さんのチートパワー、今はそんなことになってるんですかっ!? いくらなんでもチートすぎやしませんかそれは!?」
「うむ! たとえどのような力であろうと、ドレスならばその使い方を誤ることはない! こうして今もドレスと友であれること、嬉しく思う!」
「ああ、僕もだよヴァーサス!」
「ドレス!」
そう言うと、結局ドレスとヴァーサスは互いにその領域を輝かせながらガッシと固く抱き合ってその友情を確かめ合う。これもまた、いつも通りの二人のやりとりである。
「いやはや、二人とも相変わらず仲の良いことで……そ、それでですね? 一つ気になってたんですけど、ヴァーサスとミズハさんはあの神様を助けた後、あの方のお願いを聞いたんですよね? 私と黒姫さんは必死で全然分からなかったのですけど、そこの所を詳しく教えて頂けませんか?」
「あ、はい! それが、あの方は私達に――――」
熱い友情を確かめ合うヴァーサスとドレスを尻目に、その手で風をパタパタと仰ぎながらリドルがミズハに尋ねる。
ミズハはその手に持った湯飲みを自身のすぐ横に置くと、にっこりと笑みを浮かべてリドルに頷いた――――。
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