門番VS

あらゆる災厄から門を死守せよ!スーパー門番同棲ファンタジー!
ここのえ九護
ここのえ九護

三角関係の門番

公開日時: 2021年1月23日(土) 08:28
文字数:2,093

『クハハッ! どうした……? もう抵抗は終わりか? 大きな口を叩いていたが、こうなってしまえば情けないもの……』


「くっ! まさか……もう一人のリドルの力が、これほどとは……っ!」


「ヴァーサスっ!? もう止めてくださいっ!」


『そぉら! これでトドメを刺してくれよう!』


「ぐわあああああ!」


「やめてーーーー!」



 悲痛な叫び声と共に、リドルは目の前で椅子に座るもう一人の自分――黒リドルの腕を掴むと、同じ椅子の上で艶めかしくその肢体に絡め取られていたヴァーサスを自らの腕の中に引きはがした。


 黒リドルから名状し辛いあれやこれの攻撃を受けたヴァーサスはぐるぐると目を回し、すでに虫の息になっている。


 ここは門の外。

 リドルとヴァーサスが暮らす小屋の中である。



『チッ! 私の邪魔をするつもりか!? 私とはいえ許さんぞ貴様!』


「なーに言ってるんですか! ヴァーサスは私の門番様なんですから! 貴方のじゃありませんので! わかったらさっさと料理食べて帰って下さい!」


『それは出来ん相談だな……。この黒姫、一度我が物とすると決めたものを諦めたことはない……! そう! そこなヴァーサスとやら! 貴様はもはや我が手の内よ!』



 一度は手中に収めたはずのヴァーサスを手の内から掠め取られた黒リドルは、禍々しい邪気と共にゆらりと立ち上がる。


 そして真似するのも難しい独特すぎるポーズを取ってヴァーサスを手招きした。



「くっ……あれほど体に負荷のかかる体勢を平然と維持するとは……! あのリドルに一体何が……!?」


「あ、あんなの恥ずかしいからやらないだけで、私だってやろうと思えばできますから!」


『ククク……どうやら互いの力量差を理解したようだな……? ならば、我が伴侶は頂いていくぞ……』


「駄目です。ほら、料理できましたよ!」


『ほほう……?』



 リドルはヴァーサスを立たせて椅子に座らせると、珍妙なポーズのままの黒リドルの前に暖かな湯気が立ちのぼるスープと、爽やかな辛みが食欲をそそるペペロンチーノをてきぱきと置いた。



『この黒姫へのもてなしにはいささか物足りぬが……まあよい、食してやろうではないか……! はむはむ』


「はいはい。ヴァーサスもどうぞ」


「う、うむ。すまないリドル、いただきます……!」



 元々二人用の小さなテーブルで、食卓を囲む三人。


 普段着のリドルとヴァーサスはともかく、黒リドルは料理を食べている間もその漆黒の法衣からは凄まじい邪気がたれ流されている。


 禍々しいオーラを周囲に放ちながら、小さな椅子とテーブルに身をかがめてふうふうとパスタを食べる漆黒の女王――。


 その光景はあまりにも異様だった。

 

 しかし当の黒リドルはそんなことに構いもせず、一心不乱にリドルの料理を食べ続け、あっというまに全て平らげてしまった。



『ク……クククッ! クハハハハッ! 見事だ! 褒めてやるぞこの次元の私よ! すぐにおかわりを持ってくるがいい!』


「ないですよ……まさかそんなに食べるなんて思いませんでしたから」


『な、なんだと!? 貴様……そんなことが許されると思っているのか!?』



 口の端に小さなパスタの切れ端をつけたまま不敵な笑みを浮かべる黒リドル。

 黒リドルは意気揚々と追加のパスタを要求したが、リドルはその要求を無慈悲につっぱねた。



「うむぅ……見た目はかなり違うが、やはり黒くなってもリドルなのだなという気がしないでもないな……こちらのリドルと同じような可憐さを感じる……」



 料理の追加を拒絶され、絶望のどん底に叩き落されたような表情となる黒リドル。

 ヴァーサスはそんな黒リドルに困惑しながらもやれやれというような微笑みを浮かべた。



「か、可憐? ヴァーサスってやっぱり普段からそんな風に思ってくれてたんですか? たははは……照れますね……」


『可憐……この私が、可憐だと……? ああ……っ! ヴァーサス! 好きだ! 絶対に私の城に連れて帰りたいー!』


「ぐ、ぐわー!?」



 再び凄まじい勢いでヴァーサスへと抱きつく黒リドル。


 黒リドルはくんかくんかと押し当てたヴァーサスの胸の香りをいっぱいに吸い込み、陶酔したような笑みでうっとりと頬をこすりつけている。



「だーかーら! ヴァーサスは私のですー! 大体さっきまで『この次元も破壊してくれるわ! クハハハハ!』って息巻いてたじゃないですか! 闘うんじゃないんですか!? 次元の破壊者の威厳はどこいったんですかー!」


『そんなもの私にもわからぬわ! これほどの胸の高鳴り! 一目ヴァーサスの姿を見たとき、私のなにかが射貫かれてしまった! こんな気持ちは初めてだ! 一瞬たりとも離れたくないのだー!』



 黒リドルが門に出現してから二時間。


 それから三人は延々とこのやりとりを繰り返し、やんややんやとくっついては離れ、くっついては離れの無限ループに陥っていた。


 それほどまでに、黒リドルのヴァーサスに対する求愛は真剣だったのだ。



『――私は永遠に続く夢と闇の中でずっと貴方たちを見ていた。しかし、貴方たちはこんなにも強く惹かれ合っているにもかかわらず、今まで決して出会うことはなかった



 かつて二人の前に現れた万祖ラカルムの発した言葉――。


 奇しくもこの状況は、ラカルムの言葉を裏付けることになっていた――。



 



 

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