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(ライト/一人称)
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国王と謁見したアレルとフロルがやってきて。
その結果を聞いた俺は一言。
「どうしてそうなった?」
頭を抱えつつそう言うしかなかった。
ソフィネも俺と同じく頭を抱えているし、ランディに至っては真っ青になってオロオロしている。
そのくらい、とんでもない話だったのだ。
「今説明したとおりだけど」
フロルがそう言うが、説明されたって分からん。
なんでいきなり、この国の兵士と――いや、軍隊と決闘なんて話になるんだ!?
ありえねーだろ!
この場にショートがいたら、きっと泡を吹いてぶっ倒れたと思うぞ。
そのくらいわけがわからん。
あ、っていうか、ランディがぶったおれたわ。
頭を抱えたままの俺に変わり、ソフィネが言う。
「経緯は分かったわよ。でもなんでそんな風に話をもっていったのよ? 和平に賛同してもらうはずが、自分たちがケンカを売るとか」
その通りだ。
俺は気を失ったランディをソファに寝かしつつフロルとアレルの返事を待つ。
フロルが答える。
「まあ、私もそう思うけどね。でも、武の国に言うことを聞かせるなら、それよりも強いと示すのが一番じゃない」
「そりゃ、わからなくはないけどさぁ……」
クラリエ王女曰く、脳筋の国。
別の言い方をすれば武の国。
ならば、より強い武力を持って和平に賛同させる。
そういうことか。
確かに手っ取り早くはあるが……
が。
アレルがびっくりしたような顔で言う。
「フロル、そんなこと考えていたの?」
本当に驚いたという表情だ。
これには逆にフロルが驚く。
「え? あんた、そのつもりで挑発したんじゃないの?」
「僕はチョーハツなんてしてないもん」
「いや、していたでしょ!」
「うーん、そうかなぁ。ただ、王様に理解して欲しかっただけなんだけど」
「何をよ?」
「自分たちよりも強い相手もいるってことを」
確かにさっき聞いた経緯からすると、アレルが言っていたのはそういうことなのだろうが。
「それを挑発っていうんじゃないのか?」
「違うもん」
いや、違わないだろ。
いきなりやってきて『あんたら弱いよ』って王様にいうとか。
挑発じゃなきゃ宣戦布告だ。
「僕は、フロルが言うみたいに、強い人が弱い人に命令できるなんて思わないもん」
「どういうこと?」
「だって、僕はライトよりつよいかもしれないけど、ライトよりえらくなんてないでしょ? 僕がこの国の兵士より強くても、王様より偉いなんてことないし、王様に命令することもできないよ」
まあ、そりゃそうだわな。
だが、それなら……
俺と同じ疑問をフロルももったらしい。
「じゃあ、アレルは結局なにがしたかったわけ?」
「王様にムボーなことをしないようにしてもらいたいの。自分は強いって思い込んで、もっと強い相手と戦うと、きっといつか不幸になるから。王様だけじゃなくて、この国のに人たちがみんな……」
あ。
それは、ひょっとして……
フロルが言う。
「もしかして、セルアレニと戦ったときのこと?」
あの時。
バーツ達を助けるために、俺たちは無謀なことをした。
結果、みんなが死んでもおかしくない状況に陥った。
自分たちの力を過信したがために。
アレルはそのことを思い出して。
もしも国王が自分たちの力を過信して魔族や魔王に戦いを挑んだら大変だと思ったのか。
「それだけじゃないけどね。王様は自分たちが魔族や魔王に勝てて当然みたいに言っていたからさ。それは間違っているよって言いたかったんだ」
なるほど。
アレルの気持ちは理解できた。
確かに重要なことだろう。
言葉足らずなうえに、手順無視で無礼極まりないせいで、おじゃんっぽいが。
「だから、僕らが力を見せてあげれば、きっと王様も理解してくれるかなぁって」
なんというか。
まさしく子どもの発想だ。
呆れるしかない。
だが、こうなった以上、決闘は避けられないのだろう。
ならば、勝つしかないと、頭を切り替えるか。
「決闘は誰が出るんだ?」
「え、そりゃあ、僕らだけど?」
「いや、だからその僕らっていうのは……」
「僕と、フロルと、ライトと、ソフィネ」
やっぱりそうなるのかよ。
ま、俺は覚悟を決めたが。
ソフィネはどうなんだろう。
レンジャーやアーチャーはこういう戦いに向いていないと思うんだが。
「……あと、ランディもかな」
「は?」
「だって、ランディも僕らの仲間になるんだから」
いやいやいや。
確かにそういう話になったのかもしれないが。
それは無謀というか何というか。
などと話していると。
当のランディが起き上がった。
元々、頭を打ったわけでもないので、すぐに回復したのだろう。
「……あの、勇者様、先ほどの話は本当のことなんですか?」
「うん、僕らはこの国と決闘を……」
「いえ、そのことではなくて!!」
「うん?」
「私がクラリエ様の側付をはずされたという話です!」
え、ぶっ倒れたショックの原因ってそっち!?
その問いに、フロルが答える。
「ええ、タリアからそう聞かされたわ。クラリエ様も否定しなかったし」
「そんな……私がなにをしたと……」
うわぁ。
泣き出したよ、コイツ。
しかもかなり本格的に『オイオイ』と。
自分と同じ歳くらいの男が大泣きしているのって、情けないというかなんというか。
「別に何もしてねーだろ。クラリエ王女は結婚する。そうなったらランディは必要ないってことだろ?」
「必要ないって、そんなぁ」
うわぁ、さらに嘆きが大きくなってるよ。
どうしたもんかね。
フロルがため息交じりに言う。
「あのね、ランディ」
「なんですか?」
「クラリエ王女とあなたは幼なじみ。しかも年齢も近い異性よ」
「はい」
「そんな2人が、結婚間近になってもなお一緒に行動していたら、一般に何を疑われると思う?」
「……さあ」
ガチで分かっていないらしい。
俺でも分かるんだが。
「不義密通」
「え……私とクラリエ様がですか!? そんなわけありません!」
「事実があろうがなかろうが、そう疑われるだけでクラリエ王女に不利でしょ。現に、タリアにそういう探り入れがあったそうよ?」
つーか、ランディは6歳児になんちゅう説教をされているんだか。
フロルが天才児だと理解していても、ビジュアル的には苦笑するしかない。
ソフィネが「なるほどねぇ」とうなずく。
「確かに、フロルの言う通りね。婚姻前――それも国と国との間の政略結婚の前にそれはまずいわよ」
「ううぅ……でも、それじゃあ、私はこれからどうしたら……」
「だから、私たち……アレルとフロルといった勇者の助けになりなさいっていうのが、お父さんとアラバラン王家の意向でしょ。断るかどうかは知らないけど。クラリエ王女がそれに反対しなかったってことは、王女の意向でもあると思うわよ」
その言葉に、ランディがどう思ったかは分からない。
だが、俺の心はすでにランディの処遇よりも、来る決闘に向いているのだった。
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