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(ライト/三人称)
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ブラネルドの王都を出て半日。
ライトは勇者2人に魔王2人、そして幼なじみのソフィネの6人で魔の森の近くにやってきていた。
「意外と近かったな。魔の森のそばに堂々と王都をつくるとはさすが武の国ってところか」
が、フロルは「むしろ逆じゃない?」と肩をすくめる。
「逆?」
「魔の森の近くに王都を作ってしまったから、武力を磨くようになった。それが時代と共に武力を重んじる国民性へと変化した」
「なるほど」
確かにフロルのいうような流れである可能性もある。
なぜ魔の森の近くに王都を作るのかという疑問は湧くが、ブラネルド王国はアラバラン王国よりも圧倒的に山脈が多い。言い方を変えるならば平地が少ない。
魔の森以外の地政学的要因からあそこに王都を作らざるをえなかったのかもしれない。
(……ま、それもこれもあのクソゲームマスターがそう創ったんだろうけど)
……と、これは心の中にしまっておく。
この世界ができたのが勇者と魔王の誕生日だということは、未だに誰にも言えない。
と、ソフィネが改めて言う。
「結局、ランディは来なかったわね」
「そーだね」
アレルもうなずく。
魔王登場のショックで気絶したランディ。
さすがにいつまでもうなされていたわけではなく、ソフィネがいっしょにきてくれると約束してすぐに目を覚ました。
もろもろ説明すると、納得してもらうことは難しかったようだ。
さらに「とてもではないが、私はついて行けない!」と言われてしまった。
アレルはあっけらかんと言う。
「ま、しょーがないよ。無理強いはできないし」
「まあそうだが……」
「それに、勇者の試練はレベル99。きっとすごく難しいダンジョンだと思う。納得できないなら来ない方が良いよ。命がけだし」
勇者の試練のダンジョンレベルは99。
もっとも、これは勇者以外立ち入らないようにするための方便のレベル。
難易度はもっとずっと難しいかもしれない。
「確かに、ランディの実力じゃダンジョン攻略では足手まといだしな」
「力がどうこうっていうよりも、いやいや冒険に行ったっていいことなんてないもん」
(そりゃま、そうか)
ランディはクラリエ王女や父大臣から勇者に同行せよと命じられたらしい。
その命令に逆らうことになってしまう。
が、ライトにいわせれば王女に命じられようが、父親に命じられようが、どうしてもやりたくないこと、納得できないことはやらないほうがいい。
ライトは冒険者になると村を飛び出すような少年だ。人間は自分がやりたことをやるべきだという考え方の少年なのだ。
ソフィネがジト目をライトやアレルに向けながら言う。
「言っとくけど、私も完全に納得したわけじゃないわよ」
「でも、ついてきてくれたでしょ?」
アレルがそう言うと、ソフィネはため息1つ。
「そりゃね。パーティーメンバーとして最終的にはリーダーの判断に従うわよ」
冒険者パーティーとはそういうものだ。
異論反論反発はしても、最後はリーダーの判断を尊重する。それができないほどにリーダーと道をたがえなたらばパーティーから離脱するしかない。だからこそ、リーダーはパーティーメンバーの意見をきちんと聞かなければならない。
ライトが「あれ?」と首をひねる。
「そーいや、俺たちのリーダーって誰だっけ?」
今更のように、ショートが抜けた後のパーティーリーダーを正式に決めていなかったことを思い出した。
フロルが当たり前のように言う。
「そりゃ、私達は勇者のパーティーなんだから、勇者がリーダーでしょ。で、パーティリーダーは魔法使いよりも戦士が一般的」
魔法使いよりも戦士がリーダーと認められるが多いのは、戦闘においてもっとも命を張る職業だからだ。
もちろん、あえて後方から全員を見守れる魔法使いをリーダーとしているパーティだっているのだが。
(つまり、アレルがリーダーか》
幼児がリーダーでいいのかと思うが、フロル曰く「不足ヶ所は私が補うから」だそうだ。
フロルのも6歳児だが、彼女の頭の良さは折り紙付だ。
「……と、勝手に思っていたけど、魔王がいっしょとなると少し話が変わってくるか」
魔王組の意思を確認するフロル。
「オイラはアレルがリーダーでいいよ」
「ここは北大陸。魔王よりも勇者の意見が優先されるのはおかしくないかな」
どうやら、魔王達もアレルがリーダーでいいということらしい。
そんなことを話しているうちに、魔の森との境界線へとやってくる。
ライト、アレル、フロル、ソフィネの4人は身構える。
ここから先はモンスターの住む場所。
油断はできない。
――が。
「だいじょーぶだよ、オイラが一緒だもん」
そういって、ワイレスはトコトコと魔の森へ突入。
警戒心なんて全くない。
ちなみに、彼自身は戦う力を全く持っていないという。
ソフィネどころか、冒険者レベル0の大人にも劣る。というか、一般的な6歳児相当。
……あるいは、6歳児の中でも弱虫で泣き虫かもしれないとはタイレスの評だ。
「おい、ワイルス、危ないぞ!」
ライトはあわてて追いかける。
案の定、枝の上からモンスターが降りてきた。
「エルモンキ!」
ライトからすれば弱いモンスターだが、一関係上ワイルスが襲われたら『俊足』をつかっても間に合わないかも……
あわてて駆けつけようとするライトとアレル。
が、ワイルスはエルモンキに近づき右手を差し出した。
「キミ、かわいいね。木の上に住んでいるの?」
そうワイルスが言うと、エルモンキは『キャキャ』とはしゃぎ、ワイルスの右手をペロペロとなめ始めた。
「マジかよ……本当にモンスターを操れるんだな」
話には聞いていたが実際に目の前にすると驚く。
アレルもちょっと興奮気味。
「ワイルスすごいねー」
だが、タイレスによれば「別に操ってないわよ」だそうだ。
いまワイレスが行っているのはエルモンキに餌である魔素与える作業。
いわば餌やりにすぎない。
「ワイレスが命令すれば言うことを聞くと思うけど、あの子はあんまりモンスターに命令したりしないから」
「そうなのか?」
「ええ、ワイレスにとってモンスターは仲間。奴隷じゃないってね」
「なるほど。でも、スラピーだのイダくんだのには命令しているんだろ?」
「それは命令じゃなくてお願いだそうよ」
「何が違うんだ?」
「さあ、私にもさっぱり」
どうやらタイレスにもワイルスの能力は測りかねる部分があるらしい。
いずれにせよ、あっという間にエルモンキはワイルスに懐いてしまった。
――仲間か。
これまで、ライトもアレルもフロルも、モンスターをたくさん退治してきた。
ワイルスはそのことについてどう思っているのだろうか?
聞いてみたいと思う一方、余計なことをいって魔王との関係悪化は避けたいとも思う。
一方、ワイルスは大きな声でここに来た目的の相手を呼び出そうとする
「おーい、イダく~ん。戻ったよ~~、でてきてよぉ~」
そう。
わざわざ魔の森に来たのは、イダくんを迎えるため。
ワイルスによればライト達6人を運ばせることが可能だという。
普通の馬なら1匹の背中に6人も乗るのは無理だと思うのだが。
6匹か、あるいは3匹かくらいいるのだろうか。
だが、『イダくん』というのは単数につかう呼びかけにも思える。
ワイルスの呼びかけに答えて、木陰からのそっと現れたイダくんは確かに馬のようなモンスターだった。
色は白。馬と違って牙が目立つが、ワイルスにはよく懐いているようだ。
そして――
「長っ!?」
イダくんの胴体は無茶苦茶長かった。
ショートの世界で言えば、足の名がダックスフントのような体格の馬といったところか。
確かに無理すれば6人乗れそうだ。
「これがイダくんだよ。ほら、イダくん、みんなにご挨拶」
ワイルスが言うと、イダくんは『ブビィヒヒヒーン』と一声大きくいななくのだった。:
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