激動の戦いと真実が待っていたアランバラン王都。
俺たちがそこに滞在して、早10日が経過していた。
今日、俺たちは次なる国、ブラネルド王国へと旅立つ。
……のだが。
王都の入り口、アラバ門にて俺たちはとある人物と待ち合わせ中。
フロルがぶつくさ。
「なんで、あの王女様がいっしょなのよ」
「しょうがないだろ、国王陛下から是非にって頼まれたら」
「意味が分からないわよ、なんで私達が王女の護衛なのよ」
そう。
俺たちが待っている相手はクラリエ王女。
彼女がブラネルド王国へと嫁ぐにあたっての護衛役を依頼されたのだ。
依頼主は国王陛下直々。
一応、ギルドへの指名依頼ということになってはいるが。
ライトも釈然としない様子。
「実際さ、王女様の護衛っていうなら近衛兵なりの仕事だろ。俺たちに押しつけるなと言うか、そもそも俺たちをそこまで信頼するってのがおかしいだろ」
その通りではある。
王女様の旅、それも他国への輿入れなどという話であれば、当然自国の兵や付き人を使うのが当たり前。
いくらアレルとフロルが勇者だからって、俺たちに任せるのは意味が分からない。
適材適所とかいう以前の問題である。
「一応、私は国王陛下直属ですけど」
稔――いや、ミノルがそういうが。
俺はジト目でつっこむ。
「間者だの門番だのは王女様のお輿入れのお供にふさわしい役職なのかよ?」
「まあ、そういわれてしまいますと返す言葉もありませんが。
現実問題として、王都の復興に予想以上の手がかかるようなんですよ」
「だからってさぁ」
「兵を使うとなれば、最低でも10人以上は必要。ですが、近衛兵なんてもともと人数が限られていますからね。王都復興に手が回らなくなります。
なので、どうせなら目的地も、平和という共通理念も同じ勇者様にお任せしようと、こうなったらしいです」
何度聞いても理不尽だ。
「クラリエ王女の輿入れという名目があれば、ブラネルド国王に皆さんが面会することも可能です。もちろん、ブラネルド国王も勇者様に会わないとは言わないでしょうが、王太子の婚姻となると、いかに勇者様の話とはいえ後回しにされかねません。
期限も区切られていることですし、クラリエ王女のご婚礼を利用するのも一興かと」
それもわからんではないんだが。
しかしなぁ。
「本音を言いますとね。本来クラリエ王女の護衛はマララン大将が行う予定だったんです。ですが、王都の復興には彼の存在が欠かせません。王女の護衛が務まるほどの実力者を他に探そうとなったときに、じゃあ、勇者様にと」
いくら理屈を並べられても納得いかない。
「もし、王女様に何かあったら俺たちの責任になるよな」
「なにもなければいいんですよ。勇者様のお力ならたとえドラゴンに襲われても問題ないでしょう?」
ドラゴンはもう勘弁してほしいが。
そもそも、俺が心配しているのはそんなことではない。
「あの王女様が俺たちから逃げ出すとかしないかが心配なんだが」
クラリエ王女はあぶなっかしすぎる。
とても面倒見切れないというのが本音だ。
ただでさえ、アレルにフロルとお子様がいる上に、ライトやソフィネだって大人じゃないパーティなのだ。
この上、王女様の面倒まで見れるかと思える。
まさか、目的地まで縛り上げて逃がさないようにするわけにもいかないし。
「ま、そこは……」
などと言っていると。
俺たちの元に3人の人物が。
1人はクラリエ王女その人。
目立たないよう、一般的な旅人の姿だ。
その後ろにいるのはランディくんだ。
そして、もう1人、20代とみえる女性。
彼女は馬車をひいている。
クラリエ王女は大いばりで俺たちに言う。
「ふんっ、来てやったわよ!
そのチビ女にいわれっぱなしじゃ悔しいもんね」
チビ女と呼ばれたフロルはふくれっ面。
「政略結婚はお嫌だったんじゃないんですか?」
「嫌だ嫌だじゃ確かにワガママだからね。まずは相手を見てやるわっ! 話はそれからよ」
……少なくとも逃げ出すつもりはないのかな?
ランディが後ろからおずおずと。
「クラリエ王女、サリナス殿下には一昨年の新年会でお会いしたじゃないですか」
話の流れからすると、サリナスというのがクラリエ王女の婚約者たる王太子なのか?
「覚えてないわよ!」
「他国の王族、しかも婚約者の名前くらい覚えてください!」
「うるさい」
ドガ、ズガ、ドガ!
何の音かは今更言うまでも無いだろう。
顔面に3発グーパンをもらって倒れるランディ。
「ランディのくせに生意気よ!」
いや、本当、よけようよ、ランディくん……
「ところで、そちらの女性は?」
倒れたランディもちょっと気になるが、もう1人の女性の正体が先だ。
「私はタリアと申します。クラリエ殿下のお世話をさせていただきます」
王女直属のメイドさんってところか?
なら、もう少しこの暴走王女様を教育してほしいものだが。
「えっと、まだ聞いていなかったんですけど、ランディはどういう立場なんでしょう?」
今更ながらに俺が聞く。
「私の子分よ」
いや、王女様には聞いていません。
「彼はザスラル・アラブラル大臣のご子息にあたります」
ザスラルっていうと……
そうそう、国務大臣の子か。
「私の身分では国王陛下からブラネルド国王へ親書を届けるには不足。かといって、王女殿下や勇者様に親書をとどけさせるわけにもいきません。
大臣の子たるランディ・アラブラル様の同行がないと格好がつかないのです」
おいおい。
王女様だけじゃなく、メイドさんや大臣の子供まで護衛するのか?
俺のうんざりした顔に、タリアは「ご心配なく」と笑う。
「お二人の護衛は私が主に行いますから」
「いや、護衛っていいますけど……」
メイドさんでしょ?
無理だと言いかけた俺に、タリアは懐からカードを取り出す。
「これって……」
「私の冒険者カードです」
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氏名:タリア
職業:冒険者(戦士 レベル4 剣士 レベル3 レンジャーレベル1)
HP:118/118 MP:0/0 力:123 素早さ:99
装備:旅人の服/鋼の剣/鉄の脇差し
魔法:なし
スキル:見切り Lv8/俊足 Lv3/気合い Lv1/威圧 Lv1/連撃 Lv7
===========
俺たちは同時に叫ぶ。
『強っ!?』
もちろん、アレルやライトほどではない。
だが、普通に強い。
魔の森に向かったときのミリスより総合的に上じゃないのか?
なるほど。
確かに普通の状況下であれば彼女は十分護衛になる。
ランディの魔法も含めれば、2人だけでもそこそこのパーティだろう。
「問題なのは、一般的な冒険者では対処できない状況です」
「そんなことが想定されるんですか?」
「魔族の動向も分かりませんし、他にも気になることがあります」
「気になること?」
「そこは道中で詳しく」
ふむぅ。
一般的な戦士ではなく、勇者でなければ対応できない事態か。
そりゃ、またドラゴンやらセルアレニやらが現れればタリアでは勝てないだろうが……
「ただ、言えることは私と同レベルの兵士を引き連れて歩くよりは、少数精鋭で勇者様方やミノル様に護衛をお願いした方が安全だということです」
確かに、兵士を引き連れて歩くというのは、重要人物がいますよーとお知らせするようなものだ。
その点、知らない人から見ればウチのパーティはお子様ばっかりである。
むしろお子様冒険者として奇異にうつるかもしれないが。
「勇者だからこそ狙われることもありますよ」
念のためそう言うが。
「勇者様を狙う敵は、王女殿下を狙いはしないでしょう?」
おい。
アレル達をおとりに使うつもりか!?
そう言いたくもなるが、グッとこらえる。
ここで言い争ってもらちがあかない。
要は、王女様を無事届ければ良いのだ。
ランディとタリアが面倒を見てくれるというなら、王女様の暴走も防げる……かもしれないし。
「いずれにせよ、ここで話し込むのは時間の無駄。出発いたしましょう」
タリアはそういって馬車の御者席に座り、手綱を手に取る。
王女様とランディが馬車に乗る。
ええーっと。
俺たちは歩きかな?
戸惑っていると、クラリエ王女が俺たちに言った。
「何しているのよ、乗るの? 乗らないの?」
あ、どうやら俺たちも乗せてくれるらしい。
俺とミノル、それにフロルはいそいそと馬車に乗り込んだ。
が。
「俺はいいよ。護衛するから」
「アレルも護衛するぅー」
少年戦士2人はそう言った。
さらにソフィネも。
「私も馬車は遠慮するわ」
まあ、3人が護衛してくれると安心だけど。
「では、出発いたしましょう」
タリアがそういって、手綱を一振り。
馬車はゆっくりと動き出したのだった。
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