「タラリラランっと、シルシルちゃん登場じゃ!」
今回は空中でフィギュアダンスっぽい動きをしながら現れるシルシル。バックに流れるはバイオリンの音楽。
「お前……普通に出てくることはできんのか」
教会の礼拝室、時間が止まった空間で、俺はシルシルに言った。
「この世にはユーモアが必要じゃ!」
そうですか。
まあ、いいか。この幼女神様の気分に付き合っていたら日が暮れてしまう。いや、時間止まっているけどっ。
「双子のことで聞きたいことがる」
「ふむ、なんじゃな?」
「あの2人が合体した」
そう。何度考えてもそうとしか思えない。
光の戦士の正体はアレルとフロルの合体した姿だろう。
それこそ、まさに勇者。完璧なる戦士にて魔法使いってことだ。
だが。
シルシルは顔を赤らめる。
「ショートってば、男と女が合体だなんてイヤンなのじゃ。そもそも2人は5歳で双子じゃぞ。どういう性教育をしているんじゃ」
おい。
「そーゆー意味の合体じゃねーよっ!! ガチで合体。文字通り! 2人が合体して光の戦士になったのっ!!」
俺の言葉に、今度はシルシルが顔をしかめる。
「なにを言っておるんじゃ? 幼子が合体して光の戦士になった? お主の世界のアニメとやらの見過ぎか?」
「いや、そういうのじゃなくて……」
俺はあの時みたものについて、シルシルに説明する。
シルシルの顔にはどんどん困惑が浮かんでいく
「……ふ~む」
悩んだあげく、シルシルは最後にやたら優しそうな顔を浮かべた。
「ワシもな、心配はしておったんじゃ」
「心配?」
「お主に負担をかけすぎではないかとな。いいんじゃいいんじゃ、少しは休め。なんならしばらく時間を止めておくからゆーっくり眠るのじゃ」
何を言っているんだ、この空飛ぶ幼女は?
「ゆーっくり寝て起きて美味いものの1つも食べれば、そんな妄想も消えてなくなるじゃろう。うんうん」
勝手に納得するシルシル。
「だから妄想じゃねーんだよっ!!」
「……いや、そうはいうがな。人間が合体して別人だかになるなど、あるわけないじゃろ、常識的に考えて」
うわ、転移だの魔法だのを扱う空飛ぶ幼女神様に、常識論を説かれているの、俺?
「俺だけじゃない。ミリス――この世界の戦士も目撃したんだっ! マジなんだって」
俺がさらに言いつのると、シルシルは「ふ~む」とうなり、そして言った。
「ちーっと、お主の記憶を探ってみるか」
「記憶を探る?」
「心配するな、必要な部分だけじゃ。お主が夜ベッドの中で一人遊びしているシーンとかまでのぞきはせんよ」
あまりの言葉に、顔を引きつらせる俺。だが、そんな俺に構わず、シルシルは俺の額に右手を当てた。
「うーむ、うん? なんと。こんなことが……」
どうやら、本当に記憶を読めるらしい。
合体は非常識で、人の記憶を読むのは常識とか、もう神様の基準が分からん。
「ふむ、確かにこれは双子が合体したとしか思えんのう……」
ようやく理解したか。
「どういうことなんだ?」
俺の質問に、シルシルは大いばりで答えた。
「まーったく、わからん!!」
おい。全知全能の神様!?
「何しろ、双子の勇者という時点で前例なきことじゃからのう……
想像するに、お主やミリスとかいう戦士が殺されかけたことで、双子の怒りが爆発して合体&パワーアップしたとかかもしれんのう」
いや、そんな、怒りでパワーアップって、どこぞの野菜の星の戦闘民族じゃないんだからさぁ。
っていうか、俺はク○リンか!?
「まあ、なんにせよ、考えても分からんものは分からん。奇跡が起きてラッキーだったと思っておくのじゃな」
「そんな、いいかげんな……」
しかし、シルシルにも分からないとすると、もうお手上げだな。
「それより、お主に1つ言っておくことがある」
「なんだ?」
「お主、自分の今の命をどう思っておる?」
「えっと、仮の肉体でこっちの世界に魂だけ来ているみたいな状況だよな?」
「確かにその通りじゃ。では、その世界で死んだ場合どうなると考えているのじゃ?」
どうなるって……
「……日本に戻される? それとも輪廻の間に戻って……」
「魂が破壊されれば、この世はもちろん、輪廻の間にも、あの世にも行けん。完全に消滅する。もちろん、日本で蘇生することもできなくなる。無理矢理蘇生させても完全に廃人状態になるじゃろう」
げ、マジで!?
「ふむ、これは確かに説明を忘れたワシの落ち度か。
お前も、双子も、死ねばそれまでじゃ。今回の記憶を読ませてもらったが、どうみても無謀な行動が多すぎる。命は大切にせいよ」
うう。確かにそうだ。
俺は頷くしかない。
「他に何か聞きたいことはあるか?」
「聞きたいことっていうか……これから目指すのはレベル2でいいんだよな?」
「その通りじゃ」
「何かアドバイスみたいなのはあるか?」
「ふむ……アドバイスのう……1つあるとしたら、お主達にはレンジャー技能が足りんのう」
レンジャー?
「罠や鍵を無効化したり、開けたりするスペシャリストじゃ。他にもアイテムの鑑定とか、色々あるが。ダンジョン探索をするならば、レンジャー技能があった方がはるかにやりやすいじゃろう」
なるほど。
「お主が学ぶか、それともレンジャーの仲間を見つけるか。レベル1の依頼をこなしながら考えてみるのじゃな」
「了解。サンキューな、シルシル」
「それほどでもないのじゃ。では、また7日以内に呼び出すのじゃぞ。遅れたらワシ、拗ねちゃうのじゃぞ」
はいはい、わかったから。
そして、いつものようにシルシルがドロンと消えて、俺の周りの時間が動き出すのであった。
レンジャー技能、ね。
確かに必要かもな。
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