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(アレル/一人称)
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ブラネルド王国相手の決闘。
会場となった闘技場。
その中央に、僕達はいた。
僕達というのは、僕とライトとフロルの3人。
話し合った結果、ソフィネとランディは見学ってことになった。
見学人は他にも多数。
王都の人たちはみんなこの一大イベントを見学しようとしたらしい。
もっとも、観客席には限りがあるので、抽選会とかもしたみたいだけど。
いずれにしても、観客席は超満員。
で、一般の観客席とは別のVIP席ってところに王族とその護衛。
王様と王子様、それにクラリエ王女やタリアもいたりする。
僕はクラリエ王女にちょっと手を振って見せたけど、反応がない。
ま、彼女の今の立場からすると僕らは敵側だからしょうがないか。
観客も王様というか、ブラネルド王国よりだと思ったけど、以外と僕らへの応援もおおいみたい。
前回のライトの戦いを見た人もいるだろうし、僕らが勇者だということも告知されちゃったからね。
あと、純粋に子どもが頑張っているから応援しようって人もいるのかな。
「よーし、がんばるぞー」
僕がエイエイオーと右手を挙げたのだが。
ライトがジと目で僕とフロルに言う。
「お前ら、どんだけ国王陛下を挑発したんだよ……」
まあね。
周囲を見ればライトが言いたくなるのも分かる。
なにしろ、僕らを敵方のブラネルド王国の兵士がかぞえきれないくらい囲んでいるのだ。
フロルによると、500人以上いるとのこと。
さすがにこれは僕にとっても予想外すぎた。
「あはは、王様、本気で怒っちゃったかな?」
「『あはは』じゃねーんだよ! どうするんだよ!?」
「そりゃあ、倒すしかないじゃん?」
「倒すったってさぁ……」
ライトは不安そうだけど。
うーん、別に大丈夫だと思うんだけどな。
「僕らなら勝てるよ」
僕は心底そう思っていた。
別に兵士が弱いというわけじゃない。
ぱっとみたところ、普通に強いと思う。
レベル10の冒険者くらいの実力がありそうな人たちも多い。
中にはレベル20の冒険者でも勝てない人も混じっているかも。
ま、レベル1の冒険者程度の人たちもいるけど。
いずれにしても、『普通に強い軍隊』だと思う。
あるいは、確かに魔族と正面から戦う力はあるかも。
アブランティア1人くらいなら、数の暴力で倒せるだろう。
だけど。
『普通に強い』だけでは勇者や魔王には及ばない。
フロルの魔法と僕のスキルであらかた倒せる。
残った人が居ても、ライトと僕の剣で対処可能。
その程度の相手だ。
「そりゃ、勝てるは勝てるだろうよ。手段も結果も選ばなければ」
「別にヒキョーなことしなくても勝てると思うけど」
「そうじゃなくて! 相手を死なせず、大怪我させず勝つのはさすがに難しいだろって話だ!」
うーん、確かにそれは難しいかな。
でもさぁ。
「え、殺しちゃだめなの?」
僕が首をひねる。
「いや、ダメだろ!」
当然のようにライトは言うが。
「なんで? 決闘だよ? 殺してもルール違反じゃないよ?」
さらっと言った僕の言葉に、ライトとフロルの顔が引きつる。
あれ?
僕そんなに変なこと言ったかな?
フロルが言う。
「ルールの問題じゃないわ」
「人殺しはダメって話? でもこれは……」
「それも違う。私たちの目的はこの決闘に勝つことじゃないでしょ。この国と仲良くなって、魔族とも戦争しないようにすることよ。人を殺しちゃうと、恨みを買うわ。そうなったら、色々ぶち壊しでしょ!」
うーん。でもさ……
「決闘は死んでも恨みっこなしじゃん」
「建前はそうだけど、人の感情ってそんなに単純じゃないの! それに、この国の兵力を無駄に減らすのは悪手よ」
「よくわかんない」
「とにかく、怪我はまだしも、殺すのはナシ。わかった?」
「わかったよ。でも、それって結構大変だよね?」
相手は殺しに来るだろうし。
こっちだけ手加減するってことで。
強力な広範囲呪文や、スキルは使いにくい。
『蛟竜の太刀』で一気にやっつけようと思ったんだけど、1人も殺さないっていうならダメだ。
「雑魚兵士は私の呪文で無効化するわ」
「フロルの魔法でも殺しちゃうと思うけど?」
『爆炎連弾』あたりを使えば使者が出る。
だからって、弱い魔法じゃ意味が無い。
「開幕一番で……」
フロルは自分が使おうとしている魔法について説明してくれた。
なるほど、それならほとんどの兵士を無効化できる。
何人かの強い兵士は残るだろうけど、僕とライトで対処すれば良い。
だいたいの話し合いが終わって。
「そろそろいいかね?」
そう声をかけてきたのは、レルスだ。
今回の決闘の審判役を務めてくれている。
「うん、いいよ! はじめて」
「わかった」
レルスは少しあきれ顔だ。
一昨日、レルスに審判をお願いしたときから、そんな様子である。
国相手に決闘なんてことになったことに色々思うところがあるらしい。
大人は大変だよね。
「国王陛下、そちらもよろしいか?」
レルスはよく通る声で、遠く王様に尋ねる。
王様が立ち上がる。
「いいだろう。勇者殿と剣を交えるは望まざるところなれど、我らの埃を護るため、我らの力を示そう」
レルスがうなずく。
僕はアダマスの剣を、ライトはカタナを鞘から抜いた。
同時に、フロルが思念モニターを操作する。
兵士達もそれぞれ剣を抜く。
それだけでなく、思念モニターを開いている人も居る。
どうやら、魔法使いもいるらしい。
「では、決闘開始!」
レルスの言葉に、最初に動いたのは僕とライトとフロルだった。
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