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(アレル/一人称)
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ブラネルド王国の王城に案内された僕ら。
僕らの周囲をブラネルド王国の兵士達が囲んでいる。
僕とライトはさりげなくクラリエ王女とフロルをかばえる位置に回っている。
いざとなったらこの兵士達を倒すことは可能だけど、2人をかばいきるためには……
……などと、ライトと無言で警戒していたのだが。
クラリエ王女が僕とライトに言う。
「そんなに警戒する必要はないわ。私は友好国に輿入れにきたのよ。襲われるわけがない」
それはそうなんだけど。
ソフィネもうなずく。
「確かにその通りね。アレル、ライト、殺気立たない」
2人の言うとおりだ。
だが、それでも僕らが殺気立ってしまう理由はある。
その原因に、クラリエ王女が言う。
「だから、あなた方も少しは警戒を解いてくれないかしら? まだ正式な婚姻はしていないとはいえ、私はこの国の王女になるはずよ?」
そう。
僕らを囲んだ兵士達には警戒心があらわだった。
もちろん、その対象は僕らで。
だから、僕らは気が抜けなかったのだ。
兵士の1人が答える。
「我らはクラリエ殿下の護衛を任されております。故に警戒を解くことはできかねます」
微妙にずらした回答だ。
この人達が警戒しているのは、外部からの攻撃じゃない。
僕らに対してなのはあきらかだ。
それが、勇者に対してか、クラリエ王女に対してかは分からないが。
「ブラネルドの王城はそんなに危険な状況なのかしら?」
「万が一の備えとお考えいただければ」
なんだかな。
とはいえ、兵士達に『警戒心』はあっても『敵意』はない。
それは分かる。
「それで、私たちはどこに案内されているのかしら? サリナス殿下かヘドラー陛下のところ?」
「むろん、すぐにも謁見していただきたく思いますが、陛下らは現在公務中にて。クラリエ殿下も身支度がございましょうし、まずは控室へとご案内いたします。殿下の従者もお待ちです」
現在、クラリエ王女は旅人に扮するための服ではない。王城にくるまえにそれなりに高価な衣装に着替えている。とはいえ、王女が結婚する相手にあうのにふさわしいかは別問題ということらしい。
控室につくと、兵士は廊下で待機。
クラリエ王女と僕、それにフロルが中へ。
部屋の中にはタリアがいた。
ライトとソフィネは迷ったようだが、タリアが隣の部屋に行くように促した。そっちにランディもいるらしい。なんで別れているのか知らないけど、ランディも寂しいだろうし、ライト達にはそっちをまかせるか。
部屋の中はさすがに王女様の控室。
ものすごい豪華。
壁はレンガ造りだけど、明かりとか絵とか壺とかそのたもろもろ、僕でも値段が高そうだなぁと思うものばかりだ。
と。
「ふぅ」
クラリエ王女はソファにどかっと座る。
「クラリエ様、サリナス殿下の前ではそのような無作法は……」
「……しないわよ。ここには身内しかいないでしょ」
僕とフロルも身内らしい。
そう言ってもらえるのはちょっと嬉しい。
タリアは少しだけため息をつきつつも、それ以上文句は言わず。
「クラリエ殿下、楽しまれましたか?」
「……ええ。もう十分。これからは、王族としての務めを果たすわ」
先ほどまでの闘技場や買い物はクラリエ王女の最後の自由。
ここから先、クラリエ王女に自由はなくなる。
「ランディはなんで別室なの?」
「それは……やはり、王女の控室に男性を置くことをよしとされなかったのでしょう」
「ふーん」
言いながら、クラリエ王女は僕をチラッと見る。
男って言うなら、僕も男だもんね。
「勇者様は例外か」
「いえ、むしろ6歳児は問題ないという判断かと」
なんだよそれ?
ちょっとプライド傷つくなぁ。
ここで、2人は少し声を潜める。
外の兵士に聞かれたくないのだろう。
「で、状況は?」
「クラリエ殿下が到着されたことを伝えたのみです。表面上はクラリエ殿下を受け入れるご様子です」
「表面上はねぇ?」
「今回の輿入れに辺り、従者が私とランディのみだったことに対し、アラバランがブラネルドを蔑ろにしてるのではないかと、ヘドラー陛下は懸念されていました」
「ま、当然ね」
僕にはちょっと意味が分からない。
フロルに「どういうこと?」と聞いたが、「今は口を挟まない」と怒られてしまった。
「サリナス殿下は陛下に『クラリエ王女が勇者を案内した』と解釈すればよいと説得されました。陛下もそれを受け入れられたようです」
「メンツより実を取るか。武の国らしいわね」
「こう申し上げるのは大変恐縮ではあるのですが、サリナス殿下やヘドラー陛下のご興味はむしろ『勇者』にこそあるように感じられました」
え、そうなの?
「ま、そうかもね。もともと、三カ国の婚姻外交が、勇者と魔王の生誕に端を発しているんだから」
「とはいえ、クラリエ殿下を蔑ろにされるおつもりもないようです。アラバランへの復興支援もすでにおこなってくださっているとか」
「それがどの程度かは、あとで探りを入れるべきかしら?」
「気にはなりますが、タルオネウス陛下とヘドラー陛下との間のこと。下手に口を挟みすぎないほうが懸命かと」
「なるほど。いずれにせよ、つつがなく婚姻を終えることが第一ね。婚姻の日程は?」
「そこはまだ。おそらくはそう遠くない日に設定されるでしょう」
「りょーかい」
えーっと、結局どうなっているの?
相変わらず、難しい話についていけない僕。
変わりにフロルが尋ねる。
「で、ブラネルド王国は魔族に対してどう相対しているの? 戦争に向かっている? 和平を選ぶ可能性は?」
「正直言って、その辺りの話はしていません。私の役目はあくまでもクラリエ王女のお輿入れの護衛と送迎です」
「それはそうかもね」
「いずれにせよ、まずは着替えをお願いします。クラリエ殿下はもちろん、アレル様とフロル様も」
え、僕らも?
着替え?
なんで!?
びっくりする僕。一方フロルは冷静。
「国王に会うんだから当然か。服はあるの?」
「はい。事前に通信の魔道具でこの国の仕立屋に、アレル様とフロル様、それにライトさんやソフィネさんの服も用意させてありますから」
「手回しが良いわね」
「最低限の身なりは整えていただかないと」
ふーん。
「アラバランでは王様に会うときも特に着替える必要なかったじゃん」
「あれは、王様が私たちを呼んだでしょ? 今回はこっちが押しかけたんだから。求められる礼儀も変わってくるわよ」
そんなもんらしい。
クラリエ王女と僕らはいそいそと着替えることになったのだった。
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