タリアとソフィネが私とランディにダンジョンについて教えてくれる。
その大半が脅しみたいな内容。
曰く、モンスターが大量に現れる。
曰く、罠もいっぱいある。
曰く、制限時間があって、時間内に次の階層へのオーブを見つけないと毒ガスで死んじゃう。
などなど。
聞けば聞くほど面白いと思ってしまうんだけど。
隣にいるランディは青い顔。
恐怖に震えているのかしら。
そんなに怖いならミノル達か、近衛兵達かといっしょに待機していればいいのに。
そう言ってやると、ランディは「クラリエ様が行かれるのに私が逃げるわけにはいきません」だそうだ。
だったら、震えるなっつーの。
ワクワクしている私に、フロルが「はぁ」っとため息。
「クラリエ様、本当に分かっているんですか? 命に関わることなんですよ!」
「分かってるわよ。とっとと行きましょう。ダンジョン楽しみ」
フロルは「わかってないじゃない」とつぶやきながら、もう一回ため息。
と、アレルが言う。
「別にいいよ。早く行こう」
おっ、こっちの勇者は話が分かるわねっ!
が、アレルは冷たく付け足す。
「どのみち、アレルが護るから関係ないもん。ダンジョンなんてとっととクリアーしようよ」
なんか、こっちはこっちでムカつくわね。
フロルがアレルをとがめる。
「アレル、そうはいうけどね……」
「ダンジョンなんてどうでもいいんだ。はやく、ご主人様を元に戻さなきゃ」
どうやら、アレルにとってはそっちが最重要事項らしい。
「いや、だからそれは……」
「方法が分からないっていうんでしょ。だったら、方法を探さなきゃ」
どうも、アレルは立ち直ったようで明るさはない。
フロルやソフィネもそれは気がついているようで、アレルを心配そうに見ている。
が、確かにいつまでもこうしていてもしかたがないと考え直したらしい。
「クラリエ様、ランディさん、2人にはこれから『金剛』の魔法をかけます。レベル4のダンジョンなら、モンスターの攻撃をほとんど無効化できるはずです。あ、私自身とソフィネとタリアさんにも」
「ふーん、モンスターの攻撃が効かなくなるなんてなんか難易度低いわね」
「これはゲームではありませんから、安全策は当然です。それに、効かなくなるのはあくまでも1回の攻撃だけ。連続攻撃や複数のモンスターからの攻撃を受ければ、2発目は普通にダメージが通りますのでそのつもりで」
フロルはそれだけ説明すると、思念モニターをいじって私たちに魔法をかけていく。
「アレルにはかけないの?」
「MPがもったいないですから」
「双子の兄弟に随分な言い方ね」
「アレルのHPなら、レベル4のダンジョンにいるモンスターの攻撃なんて、最初から効きません」
さすがは勇者様ってことか。
ソフィネが言う。
「じゃ、いきましょうか」
全員で同時にオーブに触り、私たちはダンジョンへとワープするのだった。
周囲は明るかった。
洞窟の中にいたはずなのに。
上空には空と太陽がある。
そして、周囲は赤い幹と枝の森。
ソフィネがつぶやく。
「第一階層は森か」
私は周囲を見回して言った。
「なんか、不自然な色した樹ね。これがダンジョン?」
タリアが解説。
「先ほども申しましたとおり、ダンジョンは毎回姿を変えます。森のこともあれば、洞窟のこともありますし、山道や崖のこともあります。時には遺跡のような姿のことも」
「ふーん」
と、タリアの顔色が変わる。
「モンスター!」
え、モンスター!?
「どこ!?」
慌てて見回すと、四方を犬みたいな獣型モンスターが囲んでいた。
私は自分の剣を抜く……つもりだったのだが。
そんな動作をする暇すらなく、勇者アレルが動く。
『俊足』とかいうスキルを使ったのか、目にもとまらぬ早さ。
次の瞬間には全てのモンスタは倒され、魔石へと変化していた。
強すぎるでしょ、このガキ!?
緊張感も何もない。
こんな圧倒的な力があれば、ダンジョンなんてただの散歩道だ。
ソフィネとタリアが、魔石を拾い出す。
もともと、そのためにダンジョンに来たんだしね。
私はランディに言った。
「私たちも手伝うわよ」
せめてそれくらいしないでは、ダンジョンに来たかいがない。
魔石を1つ拾ってみる。何の変哲も無い石ころにしか見えない。宝石の方がずっときれいだ。
魔石って初めて見たけど、こんなのがMPを回復させる力があるなんてね。
その後も、モンスターは現れた。
だが、危険なんてカケラも感じられない。
なにしろ、勇者アレルが一瞬で倒してしまう。
第一階層はあっさりクリアー。
次の階層へのオーブは簡単に見つかったし、魔石もある程度回収できた。
第一階層をクリアーする前。
私は口をとがらせた。
「なーんかつまんない」
ランディが言う。
「なにがですか?」
「だって、モンスターはアレルが全部倒しちゃうしさ。罠とかないし。時間だって超余裕だったじゃん。全然ワクワクもドキドキもしない」
「安全に越したことはないですよ!」
「かもしんないけどね」
私がダンジョンに求めていたスリルあふれる冒険と違いすぎ。
しかも、全然活躍できていない。
「タリアやソフィネだって戦士なのに戦ってないじゃない。それでいいの?」
だが、タリアはそれを恥とは思っていないらしい。
「私の役目はあくまでもクラリエ様をおまもりすることです。アレル様が苦戦しているならいざ知らず、現状では手出しして足手まといになる方が問題です」
さらにソフィネ。
「そもそも、私は戦士というよりレンジャーよ。ダンジョンでは罠や宝箱鑑定が仕事」
正論なんだろうけどさ。
なーんか、アレルだけが活躍しているみたいで面白くない。
「フロルはどうなのよ? あんたも勇者なんでしょ? 戦わないの?」
「私は魔法使いです。魔石が足りないのにMPを無駄に使う意味がありません」
くぅ! みんなで正論ばっかり。
さらに、勇者アレルが言う。
「クラリエ様、心配しなくても、戦闘はアレルだけで十分だから」
「別に心配なんてしていないわよ」
そう、心配なんてしていない。
する意味もないくらい、勇者アレルは強すぎる!
これじゃ、本当に私はただダンジョンをお散歩して魔石拾いをするだけで終わってしまう。
ソフィネが言う。
「無駄話していないで、次の階層に行きましょう」
次の階層は『山道』だった。
といっても、一般的な山道とは少し違う。
上り坂や下り坂やトンネルが複雑に入り組んだ細い道からなるダンジョンだ。
ソフィネが自分の思念モニターを確認して言う。
「制限時間は……けっこう長めね」
ランディが尋ねる。
「それって余裕があるってことですか?」
「むしろ逆ね。攻略に時間がかかる構造だってことよ。しかも、いりくんだ『山道』タイプとだし、見当違いの方向ばかり探しているとタイムアップもありえるかも」
タイムアップすると、毒ガスで全滅。
少しはスリルが出てきたわね。
フロルが言う。
「ショート様の『地域察知』があれば簡単なんですけど」
ショートのスキルだか魔法だかなら、ダンジョンのMAPや次階層へのオーブの場所を調べることができるという。
だが、そのスキルはさしもの勇者やソフィネも使えないらしい。
「じゃあ、それこそ話し込んでいる場合じゃないでしょ、とっとと行きましょう」
私は言って、勇者達よりも先に一歩を踏み出す。
が。
ソフィネが警告!
「クラリエ様、待って、足下!!」
え?
待ってと言われても、踏み込んだ足は止まらない。
私が右足をついた地面は、よく見てみると他と色が違って……
ソフィネが叫ぶ。
「転移の罠!?」
ソフィネが慌てて私の手をつかむ。
「まずい!」
さらに近くにいたフロルも私の足にしがみつく。
なんで2人で……と思ったが。
気がついたとき、私の周囲からはソフィネとフロル以外の仲間が消えていた。
いや、違う。
私とソフィネとフロルだけが、別の場所に転移してしまっていたのだった。
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