『ミリス先生』
3人はミリスに駆け寄る。
「本当にすみませんでしたっ!」
「お前達……ああ、そうか、そうするのか」
ミリスは雰囲気だけで、3人が冒険者をやめたと理解したらしい。おそらくこういう場面には何度も出くわしているのだろう。
「ミリス先生、その腕……」
「ああ、教会や医者を回ってみたが、動くようにはならないそうだ」
その言葉に、3人は悲痛な顔を浮かべる。
片腕で戦士はできない。あるいはレルスとかなら片腕になっても戦えるかもしれないが、ミリスはそこまでの天才ではない。
「俺達のせいで、先生が」
「あほか、私の怪我は私の責任だ。お前達が気に病む必要はないさ」
「でも……」
「私は戦士ではない新しい道を探す。お前達も冒険者ではない別の道を探す。それだけのことだろう」
『……はい』
3人は泣きそうな顔で頷いた。
「ああ、それとな。今さらだとは思うが、剣術師範としてお前達に伝え忘れていたことがある。
お前達は、決して剣術の才能が皆無ではなかったぞ。まあ、才能溢れてもいなかったが。才能としては凡の上といったところだろうな」
ミリスの言葉に、3人はビックリしたような顔を浮かべる。
「だって……」
3人の視線の先にライト、そしてアレル。
「本当だぞ。そうだな。たとえばショートの剣術の才能を1とする。その基準ならフロルとゴルは2、お前達は3といったところだ」
え、俺そこまでダメダメなの!?
「そして、ライトは10。私もそのくらいだろう。いや、才能だけならライトの方が上かもしれん。
ライトはわずか122日でレベル1になった。100日ちょっとでレベル1になるなど、1000人に1人の才能だ。私は300日かかった」
3人はそれでも納得いかない顔。
その理由は、当然、俺の隣にいる舌っ足らず5歳児だろう。
カイがおずおずという。
「その基準だと、アレルの才能は?」
「さあな、百か千か万か。所詮10の才能しかない私には、超天才児の才能なんぞはかりしれんよ」
ミリスはそう言って苦笑する。
「どうだ? 冒険者をやめたこと、後悔しているか?」
ミリスは3人に問う。
だが、3人とも首を横に振る。
「そうか。なら、がんばれよ。私の訓練に100日耐えたんだ。たいがいのことには耐えられるだろう」
『はいっ!』
3人は頷いた。
俺は理解する。
彼らも間違いなく、ミリスの弟子なのだ。
「じゃあな、ライト」「今までありがとう」「ごめんよ」
3人はそういって、今度こそ本当にギルドを後にした。
その背に向けて、ライトが大声で叫ぶ。
「俺はやめねーぞ! 絶対、絶対、ちょうスゲー冒険者になるんだからなっ!! あとで吠え面かくなよっ!!」
そんなライトに、3人が叫び返す。
「おう、がんばれよ」「応援しているぜ」「いつか村にもよれよ!」
こうして、マルロ、カイ、バーツの3人はエンパレの町から自分たちの生まれた村へと帰っていったのだった。
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3人が去った後。
「ミリス先生、うでなおらなかったの?」
アレルが心配そうに言う。
「ああ」
「ごちゅじんちゃまのまほーでもダメ?」
「だろうな」
アレルは泣きそうな顔。
「そんな顔をするな、アレル。実は次の仕事は決まっている」
へ?
「といことで、よろしく頼むぞ、ミレヌ」
「ええ、今この町のギルドも人手不足ですから、とことんこき使いますよ。片腕が動かないとか言い訳はききません」
「そりゃ厳しいな」
ミリスがぼやき、ギルド内に笑い声が響く。
どうやら、ミリスはギルドの職員として働くことになったらしい。
これは後から聞いた話だが、戦えなくなった冒険者が、ギルドの職員になれることは珍しい。なにしろ脱落する冒険者は多いが、職員の空きは少ないのだ。
タイミングもあるだろうが、ミリスの日頃の信頼があってこそだろう。
しばしして、ミリスはアレルの前に立った。
「アレル、ライトの剣は返したんだよな?」
「うん」
「ならば、これからはこの剣を使え」
そう言って、ミリスは今まで自分が使っていた鋼鉄の剣をアレルに差し出す。
「え、でも……」
「まあ、異能の天才児からみたら大した剣じゃないかもしれないが、それでも大判金貨5枚はするぞ」
アレルは目を見開き、そして次に満面の笑み。
ミリスが魔の森で語ったことを思い出す。
戦士が戦士に自らの剣を託すのには大きな意味がある。
アレルもそれを感じ取っているはずだ。
「ありがとうごぢゃいます。先生」
そう言って、アレルは深々とミリスに頭を下げた。
次にミリスはライトに尋ねる。
「ライト、君はこれからどうするんだ?」
「決まっているだろ。レベル2を目指す。いや、もっと、もっと先を目指す!」
「だが、現実問題として、1人では厳しいだろう?」
1人で活動する冒険者もいるが、やはり限界はある。ゴルがそうだったとミリスは語る。
「それは……まあ、そうだけど。仲間は探すさ」
「仲間か、それなら一応私に心あたりがあるぞ」
「へ?」
「後衛は充実しているが、前衛が足らず、しかも年少者がパーティーに入ることにも抵抗がなさそうなヤツら」
「それって……」
ライトがハッとした顔になり、そして俺達を見る。
なるほどな。そういうことになるのか。
「ライト、俺達とパーティー登録するか?」
俺が尋ねる。
「いいのか!?」
「ああ。アレルとフロルもいいよな?」
双子の答は……
「もちろん。ライト、いっちょにがんばろー!」
「まあ、前衛は必要ですし」
……ま、そうだよな。
ちなみに。
双子とライトが盛り上がっているスキに、おれはミリスにコッソリ尋ねた。
「俺って、そこまで剣術ダメダメですか?」
ミリスは視線をそらし、「お前は魔法をがんばれ」と言って俺の肩を叩く。
……そうですか、そこまで才能ないですか。
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こうして、俺達は新たな仲間を加えて、あらためてレベル2を目指すこととなったのだった。
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