第一階層から第二階層へ転移した俺達。
そこは巨大な谷の中腹だった。
谷の底は見えない。同時に谷の一番上や空も見えない。あるいは、底も空もないのかもしれない。
谷の間には空飛ぶ島があり、崖から島へ、島から島へ、さらに島から崖へといくつもの石の橋が架かっている。
谷の底からは強風が巻き上がっている。
極めて立体的な構造のダンジョンだ。
『地域察知』は3次元に対応していないが、ここは問題ない。
なぜならすでに次のオーブは見えている。壁がないからね。
かなり上の方。橋を最低でも10回は渡らないとたどり着けない場所だ。
この階層のモンスターは空を飛べる鳥や虫系が多い様子だ。
今のところ近づいては来ないが。
「ごちゅじんちゃまぁ、こわいよぉぉぉ」
アレルが谷の下を覗き込んで言う。
確かに恐い。
橋や島は十分な広さがあるが、手すりなどない。
普通に歩けば落ちないだろうが、モンスターに襲われれば……
俺もゾッとなる。
「ここから落ちたらどうなるんですか?」
レルスに尋ねると、彼は端的に答えた。
「分からん。落ちたことがないからな。ただ、谷のダンジョンで落下した冒険者が戻ってきた事例はない」
つまり、落ちたら終わりってことか。俺はゴクリと唾を飲み込んだ。
「ごちゅじんちゃまぁ、アレルむりぃぃ。こわくて、むりぃぃぃ」
うわ、俺の足に縋って泣き出しちゃった。
どうしたもんだろう。
思念モニタを確認する。ここのタイムも100。すでに98まで減っている。
時間を無駄にすればするほど、後で慌てて事故になりやすくなるだろう。
だが、アレルは歩くのが無理そうなほどに震えてしまっている。
「フロル、君は大丈夫?」
「ええ、恐いけど……」
そうか。どうやらフロルは俺と同じ程度には恐怖を感じているが、歩くことは出来そうだ。
しかたがない、アレルは俺が抱っこしていこう……そう思ったのだが、俺より前にライトがアレルを抱きかかえた。
「空飛ぶ敵相手なら、俺は役に立たないだろ。魔法使いや弓使いの出番だ」
確かに。
遠距離攻撃を持たないライトはこの階層では戦力になりそうもない。
ならば、アレルはライトに任せるか。力も彼の方がずっと強いわけだし。
そんなわけで、ライトがアレルを抱きかかえて先に進む。
アレルはギュッと目を閉じている。もう、これ、天才戦士どころか、ただの幼児だな。かわいいけど、戦力ダウン甚だしい。
「もう、とっとと行くわよっ!」
ソフィネが言って、橋を躊躇なく走って行く。
彼女は恐いとか全然思っていないらしい。
「お前、平気なのかよ?」
「何が?」
ライトの問いに、むしろ不思議そうな顔のソフィネ。
「いや、何がって、もし落ちたらって思わないのか?」
「こんなに幅があるのに、落ちるわけないじゃない」
確かに橋の幅は1メル……2メートルはある。真ん中ならば走ったって落ちることはまずない。
それは俺だって分かる。
分かるのだが。
それでも底の見えない谷は恐い。
ソフィネは俺達が何を恐がっているのか分からない様子だが。
彼女、日本に生まれていたら絶対に絶叫マシーンやバンジージャンプが大好きになるタイプだな。あるいは暴走族になるか。
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第二層のモンスターは空を飛ぶだけでそこまで強くはなかった。
ソフィネの矢や俺やフロルの魔法でほとんど一撃である。
近づけると危ないので、遠くに居るうちにどんどん倒していく。
風があるなか、ソフィネの矢はほとんど100発100中である。以前コジャラックスを捕まえに行っていたときから思っていたが、彼女の弓の正確性はすごいな。
俺とフロルも負けてはいられない。
炎系は風で吹き飛ばされがちなので、氷系の魔法で敵を落とす。
モンスターを倒しても魔石のほとんどは谷底(底があるかは分からないが)に落ちて、回収不能だが、ここは命の方が大切だ。
この足場でモンスターと直接肉弾戦は絶対に避けたい。
アレルがライトの腕の中で震えまくっている状態では尚更である。
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ソフィネの言うとおり、確かに俺達は落ちることなく次なるオーブまでやってきた。
体も心もかなりしんどかったが、みんな無事だ。
「アレル、もう大丈夫だぞ。ついたから」
「ほんとぅ?」
アレルは恐る恐るといったかんじで目を開ける。
次のオーブが目の前にあることを確認し、ようやくライトの腕の中から飛び降りた。
こうして俺達は第二階層をクリアした。次は第三階層である。
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