森。
うん、森だ。
地面は土で、周囲は樹齢何千年かと思われるような木々。
どうみても森である。
どうしろっていうんだよ、この状況。
改めていまの俺の現状を確認。
見知らぬお子様の代わりに事故死(まだ死んでいない)して、幼女な神様に未来の勇者を育成したら、蘇生させてやると言われた。
うん、あらためてすごい話である。
だが、どうやら俺は本当に異世界転移したらしい。
なにしろ、頭の上には太陽が2つ輝いているし。
シルシルの言葉を思い出す。
たしか、魔法とお金をくれるって言っていたよなぁ。
だが。
服装は事故死したときのスーツのままだ。
しかも、持っていた鞄はない。
ポケットの中を探っても、何も入っていない。
……どこに|金《かね》があると。
ついでに言えば、森の中を歩くのに適した格好でもない。
革靴でサバイバルなんてできるか。
それに魔法は……
などと、頭に思い浮かべたときだった。
目の前に半透明なボードが浮かび上がる。
そこにはこう書かれていた。
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選択
・ステータス確認
・魔法使用
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なんじゃこりゃ?
思いつつも、俺はなんとなく指で『ステータス確認』を触る。
すると、ボード上の表示が変わった。
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選択
・ショート・アカドリ
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どうやら、タッチすることで選択できるらしい。
『ショート・アカドリ』とは、俺の名前だろうか。
朱鳥翔斗をこの世界風に表示したらこうなるのかも知れない。
とりあえず、自分の名前をタッチしてみる。
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氏名:ショート・アカドリ
職業:無職
HP:32/32 MP:70/70 力:20 素早さ:10
装備:異世界の服
魔法:無限収納、地域察知、体力回復、怪我回復、火炎球
スキル:自動翻訳
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ふうむ。確かにステータスだ。
非常にゲーム的。攻撃力とか防御力とかは書かれていないけど。
しかし、『職業:無職』って……余計なお世話だっ!!
確かに就職活動で失敗続きだったけどっ!!
スキルの自動翻訳というのは、そのままの意味だろうか。
で、『魔法』か。
どうやったら使えるんだろう?
呪文とか唱えるのかな?
いや、そういえば、最初の選択画面に『ステータス確認』の他に『魔法使用』っていうのがあったよな。
あそこで『魔法使用』にタッチすれば良いのか?
だけど、どうしたら最初の画面に戻るんだろう?
などと思ったのだが、よくよく見てみると画面の右上に左向きの矢印がある。
(ネット用のブラウザなら、左矢印は戻るボタンだよな)
そう思って矢印をタッチすると、画面が戻った。
ふむ、わかりやすいといえばわかりやすい。
最初の画面まで戻し、今度は『魔法使用』をタッチする。
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魔法選択
・無限収納
・地域察知
・体力回復(※現在のパーティーメンバーには必要ありません)
・怪我回復(※現在のパーティーメンバーには必要ありません)
・火炎球(※誤使用による火災や火傷にご注意ください)
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うん、なかなかご丁寧な注意書きである。
それよりも、もう少し詳しい魔法の使い方を教えてほしいものだが。
とりあえず、無限収納をタッチしてみた。
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魔法:無限収納選択
・取出
・収納
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ひょっとして、お金はここから取り出せるのだろうか?
取出をタッチする。
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魔法:無限収納:取出選択
・大判金貨×20
・ライ麦パン×2
・干し肉×2
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えっと、とりあえず、パン?
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魔法:無限収納:取出:ライ麦パン
・いくつ? 個
OK
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えっと、どうしたらいいんだ?
とりあえず、『個』という部分をタッチしてみる。
すると、タッチするたびに、1、2、キャンセルと表示が移り変わった。
『1個』と表示されたところで『OK』をタッチする
すると。
いきなり目の上にライ麦パンが出現した。
「おっとっと」
もう少しで地面にパンを落としそうになったが、なんとかキャッチ。
なるほどなぁ。
確かに魔法だ。
とりあえず、パンにかじりつくとそこそこ美味かった。
ちなみに半透明な画面は俺が『消えろ』と念じたら見えなくなった。
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ライ麦パンで腹を満たした後、今後のことを考える。
シルシルの言葉に従うならば、北の方向にあるなんとかという町に向かうべきだ。
そこに、例の子ども達がいるらしい。
が。
北ってどっちだよ……
シルシルは画面の上が北とか言っていたが、昔のRPGじゃあるまいし、なんの参考にもならなそうだ。
太陽の動きからおおよその目安をつけるという手もあるが、そもそも地球と違って恒星が2個もある世界である。あまりあてになりそうもない。
一体どうしたらいいのか。
そこまで考えて、先ほどステータス画面の『魔法』に『地域察知』という項目があったことを思い出す。
文字通りならば、この辺りの状況を調べることができる魔法ってところだろう。
使ってみるか。
俺は試しに『画面出ろ』と念じてみる。
先ほどと同じく、半透明な画面が出現。
数回タッチして、『地域察知』の魔法を発動した。
すると。
画面上にこの辺りの地図が表示された。
おそらく、中心部分が俺の居る場所。矢印で書かれているのは、今向いている方向だろうか。
下の方には川らしき表示、左右はずっと森が続いている。そして、上の方には町か村のような絵が描かれている。
画面の上が北ってそういう意味か。
あの幼女神様はもう少し丁重な説明をするべきだと思う。
だが、なんにせよ森の中でいつまでもグズグズしていても始まらない。
俺は画面に映った地図を見ながら、北にある街に向けて歩き出したのだった。
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