エンパレの町のギルド。
もう何度も何度も通ったその場所に、俺達はいた。
この町を拠点にする多くの冒険者達が、俺達を見送りに来てくれていた。
ダルネスとレルスはすでにこの町を去っている。
そして、俺達も今日、この町から旅立つ。
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もう、完全にギルドの受付嬢になったミリスが俺達に言う。
「行くんだな、アレル、ライト、ショート」
「はい」
俺は頷く。
『ミリス先生、ありがとうございました』
アレルとライトが頭を下げる。
俺やフロルも多少習ったが、やはり彼女と2人との関係は特別だ。
「先生はやめてくれ。お前達はとっくに私よりも腕前は上だ」
アレルはもちろん、ライトだってもう腕が動かなくなる前のミリスよりも強い。
それでも、2人はミリスを先生と呼んだ。
「アレルに剣術を教えてくれたのはミリス先生だよ?」
そう言ったアレルは、今剣を持っていない。
ミリスから受け継いだ剣は壊れてしまった。
「そうかもしれんが、私ではお前達に教えるには実力不足だった。以前、ライトと私は同じ実力などと言ったが、それも見誤りだったな」
ミリスはそう言って苦笑する。
「アレル、私からの――私たちからの最後のプレゼントだ」
ミリスはそう言って、受付カウンターの裏側から1本の剣を取り出し、アレルに渡した。
「……これは?」
「以前の剣ではいずれお前には不足になろうと分かっていた。だから、ギルドを通じて取り寄せた。ミスリルの剣だ。
それでも、お前の実力には不足かもしれんが、私たちに用意できるのはこの剣が限界だ」
その剣は、アレルの背丈よりも少し長い。アレルは抱きかかえ、鞘から抜く。刀身が2つの太陽に照らされ輝く。
「すごい。ミリス先生、みんな、ありがとう!」
アレルはミスリルの剣を鞘にしまってから、背負った。
ブライアンがフロルに近づく。
「フロルちゃん、あなたにはこれを上げるわ♪」
そう言って、彼が取り出したのは指輪だった。
宝石ではなく、魔石がついている。
「この指輪はね、魔法の威力をアップさせる効果があるの。でも、MPの消費量も倍になってしまう。だから、私には使いこなせなかったわ。たぶん、ショートくんでも難しいわ。
でも、あなたなら、きっと使えるわよ♪」
フロルは指輪を受け取る。
「ありがとうございます」
「まったく、まさか私が初めて指輪を贈る子が女の子になるなんてね。運命ってわからないものね。
うんもう、ショートちゃんってばそんな羨ましそうな顔しないで♪
次に会うときは、あなたにもプレゼントを用意しておくから♪」
「え、ええ、ありがとうございます」
言いながら、俺は思う。
次に会うとき――たぶん、それはない。
アレルやフロルやライトやソフィネがこの町にもう一度来ることはあるかもしれない。
だが、俺は――
この町の人達はいい人ばかりだった。
ここにいる皆と、別れたくないという思いはある。
それは、たぶん、アレル達4人も同じで。
皆、必死に涙をこらえていて。
だから、そんな俺達に厳しい声をかけてきた者がいた。
「ショート、アレル、フロル、それからそっちの2人も。そんな泣きそうな顔しているんじゃねーよ。
冒険者っていうのは出会いと別れを繰り返すんだ。だから、笑って別れる。そういもんだ」
「そんなこといって、ゴボダラさんも涙を溜めているじゃないですか」
俺がいうと、ゴボダラは「なにぃ?」といって、慌てて服の袖で目をこする。
「こ、これはちげーよ。奴隷商人として後悔しているだけだ。双子を売るとき、おめーさんになんで1000倍ふっかけなかったんだってな」
「1000倍って……そんなん払えたわけないじゃないですか」
「……売るんじゃなかったって意味だよ」
あ、なるほど。
ゴボダラはあらためて、双子に言う。
「お前達は俺の奴隷の中で一番の出世頭だな。せいぜいがんばれよ」
ミリスはともかく、ゴボダラや他の冒険者達には双子が勇者だとは教えていない。
それでも、皆なんとなく、双子が特別な存在だとすでに気づいているようだった。
「それで、最初はどこにいくんです?」
ミレヌに尋ねられる。
ギルド総本山はここから北に向かった方向だ。
「まずは、ライト達の故郷の村へ。それから王都に向かうつもりです」
「そうですか、お気を付けて。バーツくん達によろしく」
『はい』
俺達は答えて、歩き出す。
その俺達の背に、冒険者達から様々な声がかけられる。
「がんばれよ」「またどこかで」「死ぬんじゃねーぞ」「ライトおねしょはすんなよ」「はっはっはは」「アレルいつか『風の太刀』の使い方教えてくれ」「おめーにゃ一生使えねーって」「ショートちゃん、次はデートしましょう♪」
ふと、アレルが後ろを振り向いた。
「みんなぁーバイバイっ! いままでありがとうっ!」
最高の笑顔でそう言うアレルに、ひときわ大きな見送りの言葉がかけられ。
そんな声達に見送られて、俺達はエンパレの町を後にしたのだった。
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