マラランに引き連れられるように、俺達は王都のメインストリートを進んだ。
周囲には兵士もいて、一見すると俺達を警護しているように見えるけど、むしろ未だ警戒されているというのが正しいだろう。
あるいは、単純にマラランの護衛か。
とはいえ、ウチのちびっ子&少年少女の4人はそれよりも王都の街並みに興味津々らしく。
以下、順にアレル、ライト、フロル、ソフィネの感想。
「うわー、すごいねー、おっきー建物がいっぱいだよー」
「露店とかもたくさんあるし、道もちゃんと整備されているし、確かにすごいな」
「なんだか皆綺麗な服を着ていて、ちょっと気後れします」
「あ、あのアクセサリー屋さんすごいわ。私もほし……ごめんなさい、値段みてなかった」
うん、確かに指輪1つで大判金貨3枚はね。
魔石売り払えば手が出ないとは言わないけど、さすがにそんな無駄遣いはできない。
っていうか、4人とももう完全にマラランに対する警戒心解いているのね。
マラランから敵意を感じないからなのだろうけど、さっきまで一触即発だったのになんというか。
ひょっとして俺の方が色々気にしすぎなのだろうか。
アレル達の王都への感想に、マラランがにこやかに笑う。
「ははは、王都の街並みは気に入ってくれたかな?」
「うん、すごいよー。エンパレよりもずっとすごい」
アレルの率直な賞賛。
王都を守るものとして、マラランもまんざらではない様子。
「そうかい。もっとも、冒険者ギルドに関してはエンパレも王都と同じか、それ以上の規模だと思うけどね」
そうなのか?
初耳だが。
俺達がピンとこないような顔をしていたからだろう。
マラランはさらに解説してくれる。
「エンパレの街の近くには、ダンジョンや魔の森が点在しているからね。冒険者が王都以上に集まりやすいらしいよ。もっとも、私も実際にエンパレに行ったことがあるのはもう、5年以上前だが」
なるほど。
「王都の近くには魔の森やダンジョンは少ないんですか?」
俺の問いに、マラランは答える。
「ダンジョンはあるよ。王都で使う魔石を供給できる程度の高レベルダンジョンも。
ただし、そのダンジョンは王家の許可を得た――というよりも、王家に雇われた者しか入れない。流れの冒険者が立ち入るのは禁止なんだ」
つまり、そのダンジョン――あるいはダンジョンへの立ち入り権は王家がもつ利権のひとつといったところか。
「で、魔の森のようなモンスターが住まう場所の近くに、国王陛下のお住まいを置く理由もないだろう?」
確かに。
エンパレは冒険者が中心といった風土すらあったが、国王にしてみれば魔の森の近くに住む理由はないな。
モンスターは魔の森から原則出てこないとはいえ、あくまでも原則だ。
実際、俺達も角ウサギに襲われたわけで、無駄なリスクを王様が背負う必要はない。
「王都についてもう少し解説しておこうか」
マラランはさらに王都について教えてくれた。
一部はエンパレの図書館などで調べたことと重なっているが、俺は素直に聞いておく。
実際に暮らしている――しかも管理している側の解説は貴重だろう。
「王都は大きく3つの地域に分かれる」
それが、庶民街、貴族街、王城である。
庶民街は王都に住む一般庶民が暮らす場所。
今歩いているところだ。
貴族街は貴族が生活している。
庶民街に囲まれている形らしい。
囲まれているというよりも、いざという時庶民街を盾にして貴族街を守るという意図かもしれない。
その貴族街に囲われているのが王城。
この国の政治の中心だ。
ちなみに、王様が寝泊まりしている場所は、王城の隣にある王宮という別の建物。
「これから向かうのは貴族街の中でも最高のレストランだよ」
その言葉に俺の顔が引きつる。
「え、貴族街のレストランって、俺達なんかが立ち入っていいんですか?」
「はは、大丈夫大丈夫。私が一緒だからね。それに、君達には話すべきことがあるし」
話すべきこと、か。
どうにも違和感がある。
たんに門番が無礼を働いたからというだけで、はたして「大将」とまで呼ばれる地位の人が一介の冒険者を直接案内するだろうか。
普通なら、せいぜい適当なレストランを紹介して、ついでに食費を提供して終わりだろう。
……となると、これはやはり……
俺はためしにマラランに言ってみる。
「あの、マラランさん」
「なにかな? ショートくん?」
その返事で、俺はやはりと思う。
俺はまだ彼に名乗っていない。
アレルは俺のことを「ご主人様」と呼んでいる。
他の3人が俺の名前をマラランの前で呼んだりもしてなかったはずだ。
それなのに、あっさり俺の名前を呼んだ。
門番とおなじくマラランも『ステータス鑑定』スキルを持っている可能性もあるが、おそらく違う。
彼は、俺達のことを予め知っていたのだ。
そもそも、さっきの登場タイミングも絶妙すぎたし。
「冒険者ギルドで思い出しました、俺達も冒険者としてまずギルドに顔を出しておくべきかと思いまして」
俺の言葉に、マラランがちょっと困った顔をする。
「確かにそれはそうかもしれないが、私も忙しくてね。まずはお付き合いいただけないかな。
ギルドへ行くのはその後でも十分だろう?」
言葉はにこやかだ。
敵意は感じられない。
だが、どこか問答無用さもある。
今、ギルドに行かれたら困ると言わんばかりだ。
俺の名前を知っていたことや、タイミング良く門に現れたことを考えると……
などと思考している俺。
それを台無しにしてくれたのはいつもの無邪気なアレルくんである。
「えー、アレルお腹すいたぁ、ギルドよりコッコたべたぁい」
まいったなぁ。
確かに俺もお腹は空いているんだけどね。
マラランもそのアレルの言葉にのってくる。
「ほら、ショートくん、アレルくんもそう言っていることだし」
「ですが……いえ、わかりました」
ここで意地になっても仕方が無い。
元々、ギルドへ今すぐ行かなければならない理由もないのだ。
先ほどの俺の要望は、むしろマラランが俺達を連れて行くことにどれだけ重きを置いているかを探るため。
そして、彼の反応からしてよく分かった。
彼は俺達を連れて行きたがっている。
いや、おそらく、彼の上にいる存在が。
もちろん、本当に連れて行きたいのはレストランなどではないだろう。
もし、俺の想像通りならばここで逆らう意味はない。
むしろ、逆らって彼に命じた人に悪感情を持たれない方が身のためだ。
仮に俺の想像がハズレて俺やアレル達がまた襲われるようなことがあったら、その時は実力行使するしかあるまい。
大丈夫、俺と共にいる幼児は、この世界で1番強い戦士なのだ。
やがて、俺達は庶民街を抜け、貴族街に入った。
街並みも大きく変わる。
庶民街の家々もエンパレの街よりも立派だったが、貴族街は立派なだけでなく煌びやかである。
さらに、庭も含めて一軒一軒が広い。
「さて、ここだ」
案内されたレストランは、ガチで高級そうである。
なんというか、これドレスコードとか大丈夫なのか?
少なくとも、長いこと旅をして汚れまくって、風呂も洗濯もしていないかっこうで入って良い店には思えないんだけど。
アレルとライトはあまり気にしてないっぽいが、フロルやソフィネも俺と同じ感想を持ったらしい。
ちょっと困惑顔だ。
いや、むしろ女子2人は自分の格好を恥ずかしく思っているというのが正しいか。
「ねーねー、どうしたのー? はやくコッコ食べようよ」
うん、アレルのお気楽さが羨ましいなぁ。
「大丈夫だよ。気にすることはない。この店は防音のしっかりした個室もちゃんとあるから」
そういうマラランの顔は相変わらずにこやかだ。
だが。
「そうですか。防音のしっかりした個室ね」
要するに、秘密の話がしたいと。
ならば、ここはそれに乗るべきか。
まさか、秘密の話ではなく暗殺ということでもあるまい。
「わかりました。ごちそうになります」
読み終わったら、ポイントを付けましょう!