異世界で双子の勇者の保護者になりました

ちびっ子育成ファンタジー!未来の勇者兄妹はとってもかわいい!
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第十章 勇者様と王様と王女様

1.戦いの後の恐怖と自己嫌悪

公開日時: 2021年2月10日(水) 20:32
文字数:1,796

 俺の目の前で、人が死んだ。

 アレルが殺そうとし、それは止めたものの最後は自殺した。

 その事実に俺は自分でも驚くほどショックを受けていた。


 考えてみれば、人が死ぬところを見るのは初めてだった。

 日本でも、エンパレの街でも、王都までの旅でも、俺は人の死と関わらずにいられた。


 人の死。

 それも、殺し合いの――いわば、戦争の結果として。


 頭の中が真っ白になる。

 気がつくと、地面に膝を突いていた。

 動けない。

 体が震える。

 なんだ、これ。


 死んだのは敵だぞ。

 街を焼き、俺達を殺そうとしたヤツだぞ。

 それなのに、ショックを受ける理由があるのか?


 理屈はその通りだ。

 だが、それでも。

 戦いで人が死んだという現実に、俺は打ちのめされていた。


 冷静に考えてみれば、これまで人の死を目撃しないでこれたのはただのラッキーだ。

 魔の森でセルアレニと戦ったとき、本当ならミリスも俺も、あるいはアレルやフロルも死んでいたっておかしくなかった。

 それ以外にも、モンスターと戦っていれば、どこかで何か事故が起きたっておかしくなかった。


 勇者の使命が魔王との戦いだというなら、いつかは魔族と殺し合いする日がくるのも当然だった。

 それが、今日やってきたというだけのことだ。


 そして、俺もライトもアレルも、おそらくフロルもソフィネも生き残った。

 ショックを受ける必要なんてない。むしろパーティーメンバー全員が無事だったのは幸運な結果とすらいえる。


 だが、それでも。

 俺は目の前で、人間同士の殺し合いの結果、片方が死んだという事実を受け入れられないでいた。

 しかも、それをしたのが無邪気なアレルだというのが、なおさら俺の心を痛めつけた。


 フリーズしてしまう俺に、声が聞こえた。


「ショート!」


 ……?


「ショート!」


 声の主は……ライト?


「いいかげんにしろ、ショート!」


 頬に痛み。

 ライトが俺を平手打ちしたらしい。


「……ライト?」

「いつまでほうけているんだよ!? ソフィネ達のところに行くって言っているだろ!」


 え?

 ああ、そうか。

 アレルとライトとでそんな話をしていたのか。


 そうだな。

 ソフィネとフロルをほったらかしてはおけない。

 彼女たちの所に行かなければ。


 だが。


 立ち上がる力がわかない。


「ご主人様、どうしたの?」


 首をひねって尋ねるアレル。


「……いや、すまない」


 しっかりしないと。

 パーティーでは俺が一番年上なんだ。


「大丈夫? けがした?」


 アレルが心配そうに俺を見る。

 そして、自分の右手を俺に伸ばす。


 そのアレルの姿はいつもどおりの、無邪気でかわいくてやさしいアレルで。

 それなのに。


 俺は、その手を握れなかった。

 ほんの一瞬だけど、恐いと思ってしまった。


 数分前の、圧倒的な力でアブランティアを痛めつけ、殺そうとしたアレルの姿が、目に焼き付いていて。

 だから、アレルの手を取れなかった。


 そんな自分に自己嫌悪を覚える。


 アレルはアレルだ。無邪気なやさしい子だ。

 俺はそうなって欲しいと思っていたし、実際そうなったはずだ。

 そのことは、俺が誰よりも知っている。

 そのはずだ。


 それなのに。


 なんで、一瞬とはいえ俺はアレルに恐怖を感じてしまったんだ。


「……そうだな、2人と合流しよう」


 俺はヨイショと立ち上がる。

 アレルの手を取ることなく。


「ご主人様、ホントに大丈夫?」

「ああ、問題ない。問題ないとも」


 少なくとも、肉体は。

 屋根から飛び降りたときにひねった足首の痛みも治まっているし。


 たぶん、ステータス的にはHPはほとんど下がっていないだろう。


 でも、HPに現れない心のダメージは……


 俺は首を振り回して、気持ちを切替える。

 子ども達には負けていられない。


 悩むな。

 悩む暇があったら動け。

 まだ、何も解決していない。


 ドラゴン達は倒し、それを操っていた魔族も倒したが、それだけだ。


 アレルによれば、もう一人の魔族の戦士を捕まえてあるという。

 ソイツから話を聞き出さなければ。


 そのあと、マラランとも会って、必要があれば色々情報交換して。

 国王のところにも行くことになるかもしれない。

 今回の襲撃と関係なく、国王は俺達に会いたがっていたらしいし。


 シルシルにも報告する必要があるか。

 どこかのタイミングで教会にも行こう。王都なら教会くらいいくつかあるだろうし。


「すまない。もう大丈夫だ。フロルとソフィネのところに案内してくれ」


 いずれにせよ、行動だ。

 心の迷いは行動によって晴らすしかない。


「わかった、こっちだよ」


 アレルは頷いて駆けだした。

 俺とライトはそのあとを追った。

 

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