俺達3人のレベル1への試験当日。
実際のところ、俺は結構緊張していた。
何しろ、試験の内容が全く分からない。
いや、アレルの試験は分かっているのだ。
要は剣術の能力を見られる。彼はレベル1の戦士として登録するつもりなので。
ちょっと、ここで冒険者の職業と試験について分かっている限り解説しておく。
俺も最初は知らなかったのだが、冒険者はレベル1以降専門職と呼ばれる能力に特化していく。
たとえば、レベル1~2の間は、戦士、魔法使い、レンジャーの3つの初級職業につくことができる。
レベル3に上がると、戦士は剣士、武闘家にも就ける。
同様に、魔法使いは魔道士、回復師、召喚師に、レンジャーは罠解除師、鍵解除師などなどに別れていく。
もちろん、複数の能力を身につければ同時にいくつもの職業につくこともできる。
たとえば、攻撃魔法と回復魔法が両方使えるならば、レベル4の魔道士兼レベル3の回復師みたいなことも可能だ。
その気になれば、魔法使い兼戦士だって可能だし、ごく少数だが双方を極めた魔法戦士なんていう職業に就く人もいるらしい。
ある意味ではその究極系が勇者ともいえるわけだが。
で、アレルはレベル1の戦士を目指し、俺とフロルはレベル1の魔法使いを目指している。ちなみにライトはレベル1の戦士になっているし、ミリスはレベル3の剣士だ。
多くの冒険者はまずレベル1の戦士を目指す。
理由は簡単。魔法使いになれる才能を持っている人間はごく僅かだから。そしてレンジャーは特殊技能で、冒険者ギルドとはまた別の組織で学ぶ必要があるから。
レベル1の戦士になる試験は俺達もすでに見学した。ライト達の試験を見たのだ。
ミリスではない別の剣士――レベル10の男性――と模擬戦をやって、その結果で合否を決めていた。
勝てば文句なくレベル1の戦士になれるし、そうでなくても実力を示せれば合格。ライトは勝てなかったがかなりいいところまでいっていた。
他の3人はあっという間にのされていたが。
一方魔法使いの試験はというと……これが全く分からない。
そもそもエンパレの町で魔法使いの試験を受ける者が出ること自体、5年ぶりだとか。
ミレヌ達ギルド職員もどんな内容なのか教えてくれない。
よって、ほとんどぶっつけ本番である。
「ごちゅじんちゃま、フロル、がんばろーね」
アレルは緊張とは無縁の様子だ。
「アレルねぇ、ぜったいごーかくするのぉ。ライトにまけてられないのっ!」
先に合格したライトへの対抗心があるらしい。
「そうね。ご主人様、頑張りましょう!」
フロルも気合い十分。
そうだな。俺だけ不安がっていても情けないよな。
「よし、2人とも、頑張ろう!」
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そんなわけで、やってきました試験会場。
といっても、これまでほとんど毎日通ってきたギルド道場の建物である。
そこで俺達を待ち構えていたのは、見知らぬ中年男性と初老の男だった。
2人は今回俺達を見るという試験官だ。
中年男性の方は剣と鎧を装備していて、いかにも戦士といった風貌。ライト達の試験の時とは別の男だ。
初老の男は……なんとなくだけれども、魔法使かな。少なくともタンクトップオカマの100倍は魔法使いっぽい。
俺達3人を見て、冒険者カードを渡すように要求する2人。
試験官に対してはスキルを含め隠すことはできない。
「ふむ……ショート・アカドリくん、アレルくん、フロルくん……話には聞いていたが、これは……」
老人の方がブツブツ言っている。
「まあ、いいじゃろう。ワシはダルネス、彼はレルス。今回、ワシがショートくんとフロルくんの、レルスがアレルくんの試験を担当する。よろしく頼む」
『よろしくお願いします』
「よろちくおねがいちまちゅ」
俺とフロル、それにアレルも彼らに挨拶する。アレルだけは相変わらずの舌足らずだが。
その様子を見て、さらに2人は顔を見合わせるのだった。
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中年の試験官――レルスが言う。
「ではアレルくん。君の試験は地下の剣術道場で行なう。ついてきてくれ」
「うん、分かったぁー」
ああ、もう、アレルってばあれほど敬語を使うようにって言ったのにもう元に戻っているし。
まあ、いいか。ライトも敬語なんてそっちのけで受かっていたし。
アレルはレルスの後にくっついて、剣術道場への階段を下りていく。もはや慣れ親しんだ場所ということだろう。
「では、ショートくんとフロルくんはこちらへ」
俺達が案内されたのは、1階の小さな小部屋だった。
ここは――そう。アレルとゴルの模擬戦の後、ミリスと2人で話した場所だ。まださほど日時は流れていないのに、ちょっと懐かしいな。
「ショートくんはそちらに、フロルくんはそちらに座ってくれ」
ある程度離れた場所に座るよう促される俺とフロル。
えっと、これは?
てっきり、実際に魔法を使ってみせる試験かと思ったのだが。
ダルネスは俺とフロルの机に、2枚の紙とインク壺、そして羽根ペンを置く。
……これって、まさか……
さらに、ダルネスはポケットから砂時計を取り出してた。
「それでは試験を開始する。1枚目は言語、2枚目は算術だ」
やっぱり!
日本で学生時代に何度も味わった筆記テストかよ!?
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結論を言えば、筆記テストは俺にとって楽勝だった。
言語は単語が現わす物の絵を選ぶだけだし、算術はせいぜい2桁の加減算である。
フロルの様子をちらっと見てみるが、彼女もそこまで苦戦はしていない様子だ。
やがてテストが終わって、その場でダルネスが採点を始める。
「ふむ。フロルくんは言語は満点、算術も最後の数問が間に合わなかった以外正解だな。ショートくんはどちらも満点っと」
ダルネスが満足げに言う。
「これが魔法使いの試験なんですか?」
フロルが尋ねる。
「そうじゃよ」
あっさり頷かれ、むしろ俺とフロルは困惑する。
「でも、魔法を使えるかどうかとか……」
「そんなもん、冒険者カードを見ればわかることじゃ」
まあ、そりゃあそうか。
「言語は思念モニタを操れるかどうかの確認、算術は自分のMPを計算しながら使えるかどうかの確認といったところじゃな」
なるほど。確かにそう言われてみれば、この世界の魔法システムだと、言語と算術ができないと話にならない。
そういえば、ミレヌが何度か、特にフロルには文字と計算を勉強させるように言っていた。暗にこの試験に向けたアドバイスだったわけだ。
「それで、俺達は合格ですか?」
「ま、それはアレルくん達が戻ってきてからおいおいな」
ダルネスは意味深に笑ったのだった。
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