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(ライト/一人称)
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アレルがミスリルの剣を抜き、俺に向かって構えた。
「やる気になったか、アレル!?」
「先に剣を抜いたのはライトだからね!」
「かかってこいや!」
クラリエ王女とソフィネがごちゃごちゃ色々言っているようだが、俺の考えは単純だ。
俺とアレルには剣しかない。
だから、悩むアレルに剣を向けた。
落ち込む仲間を励ます方法が他に思いつかなかったから。
天才少年だの勇者だの呼ばれたって、俺たちは単に剣術がスゴイだけの子どもだ。
フロルのような頭脳面の天才ではない。
レルスやダルネスやミノルのように人生経験が豊かなわけでもない。
だったら、できることは全力で戦うことだけだ。
ソフィネ達から見ればばかばかしい話かもしれないが、俺には他にできることが思いつかなかった。
アレルが俺に向けてミスリルの剣を振り下ろす。
俺はギリギリのところで躱す。
たぶん、このやりとりだけでもそこらの戦士にはできない高レベルの戦い。
ソフィネやゴルなら、今のアレルの一撃で死んでいる。
(……こんなものかよ)
。
アレルのヤツ!
「やるね、ライト。いつの間にそんなに強くなったの?」
その言葉に、俺は少しムカつく。
さっきのアレルの一撃は全然本気じゃなかった。
勇者の本気の剣が俺程度に躱せるわけがない!
「上から目線だな、勇者様。最初の模擬戦では俺が勝ったの忘れたか?」
「そうだったかな」
アレルがニヤッと笑う。
俺も笑い返す。
そんな俺たちに、フロルがあきれ顔で言う。
「ああ、もう! 2人ともすきなだけケンカでも決闘でもしなさい! 死なない限り私がどうにかするからっ」
ま、彼女には迷惑をかけるが後で謝っておこう。
俺はさっき購入したばかりの安物の剣を構え直す。
アレルはレルスとの決闘で、最強の剣士にとって武器の質など関係ないと示して見せた。
俺はその戦いを一番間近で見ていた。
ならば、俺もその程度はしてみせよう。
「いくぜ、アレル!」
叫び、鋭くつく。
「ムダだよ、ライト!」
アレルは叫んで自分の剣で打ち払う。
そのまま一気に接近し、ミスリルの剣で俺の右腕を狙う。
俺は体をひねって躱し――しかし、アレルの右足が俺の脇腹を蹴飛ばす。
(痛えな)
アレルは本来剣術以外の格闘技は苦手だ。
殴ったり蹴ったりは、むしろ俺の方が得意だと思っていた。
実際その通りなのだろうが、苦手な蹴り技でも俺にここまでダメージを与えるとは。
(だけどさ!)
「なめるなよ!」
俺は叫んでさらに打ちかかる。
アレルは手加減している。
それがわかる。
さっきミスリルの剣で腕ではなく首を狙われたら、それで終わっていた。
俺の頭と胴体は切断されただろう。
そうなればフロルの魔法でも治せない。
だから、アレルはそうしなかった。
つまりそれは、手加減をしているということだ。
(アレルを立ち直らせるだけのつもりだったけど……)
本気でムカついてきた。
年下の、ある意味弟弟子ともいえるアレルに、こうも手加減されてあしらわれるとは。
1人の戦士として、一矢報いてやりたいという思いが強くなる。
だがどうやって?
最初の模擬戦の時の手は通じないだろう。
アレルの攻撃の先にフロルがいたとしても、今のアレルならどうにでも対処する。
それに、そんな方法で勝ちたいわけじゃない。
俺の実力で勝ってみせる!
思い出せ。
アレルの戦いを。
最初の模擬戦。
セルアレニとの戦い。
レルスとの決闘。
そして王都のでの戦い。
そうだ。
アレルは戦いの中で常に強くなってきた。
レルスとの戦いの最中には、相手のつかった『蛟竜の太刀』を初見で再現してみせた。
俺にそんな実力はない。
俺は才能があるだけの凡人。アレルのような超天才ではないのだ。
だが。
それでも!
初めて見た技まではコピーできなくても!!
(やってみるか)
俺は剣を構える。
アレルがそれをみて言う。
「『風の太刀』? ムダだよ」
アレルは一気に距離を詰める。
アレルの『俊足』は『風の太刀』のスピードを上回る。
だが。
俺の技は。
アレルが駆け寄るよりも前に放たれる。
アレルが驚愕の声。
「なっ、『光の太刀』!?」
そう。
俺が使ったのは『風の太刀』ではなく『光の太刀』
初めて使う技だけど、成功した。
俺には初見の技をコピーするような実力はない。
だが、『光の太刀』はこれまで何度も見てきた技だ。
他ならぬ、アレルが愛用している技なのだから。
『光の太刀』のスピードは『風の太刀』を、そしてアレルの『俊足』をも超えた。
アレルは吹き飛ばされる。
俺は倒れるアレルに一気に距離を詰めた。
だが。
アレルは立ち上がる。
そして――
ミスリルの剣を振りかぶり、彼が放った技は……
――『蛟竜の太刀』
アレルとしてもほとんど反射的に反撃したのだろう。
放った瞬間に後悔した顔で叫ぶ。
「ライト、よけて!」
そう言われてもよけられるタイミングではない。
俺は思う。
(やべ、これは死んだかな?)
俺はまともに『蛟竜の太刀』を全身に受けて……
(え?)
すさまじい衝撃だが、命までは奪われていない。
やっぱりアレルが手加減したのか?
いや、違う。
(ダメージが半減された?)
なにが起きたのかといぶかしがる俺とアレルに、フロルの冷静な声が聞こえた。
「死なない限りなんとかするとは言ったけど、死なれちゃ助けられないでしょ」
そうか。
フロルが寸前で『金剛』あたりの魔法を使って助けてくれたのか。
フロルはさらに、俺とライトに『怪我回復』や『体力回復』をかける。
「本当に2人ともあきれるわね」
「ごめん」
謝る俺に、フロルは言う。
「ま、アレルが元気になったことだけは良かったかしら。
アレル、あなたも暴れて少しはスッキリした?」
フロルが問いかけると、アレルは「え?」とキョトン。
それから。
「う、うん」
と小さくうなずいた。
ソフィネが言う。
「じゃ、勇者様も復活したところで、あらためて今後のことを話し合いますか」
その言葉に、ミノルが言う。
「そうですね。とはいえ、まずは国王陛下にご報告しないと。あるいは魔族側にもなんらかの警告が必要かもしれません。仮に今、ゲームマスターに操られたショートさんが魔王様を襲うなどということがあれば、それこそ全ては水の泡ですし」
あー、なるほど。
確かにショート――人族がもしも魔王を襲ったら、それだけで和平などぶち壊しだ。
そんな俺たちに、タリアが冷たい声。
「そうですね。それに、問題は他にもありますし」
「問題?」
「この周囲の有様、どうするつもりですか?」
タリアが俺とアレルをとがめるように言う。
あらためて周辺を見回すと――やべえ、俺とアレルの戦いの余波で、壁とか塀とか壊れまくり……
「……えーっと、宿屋のご主人に弁償?」
「お金、あるんですか?」
うっ!?
顔を引きつらせる俺とアレル。
タリアはため息をつく。
「今度は私の指輪がなくなりそうですね……」
……ご迷惑、おかけします……
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