異世界で双子の勇者の保護者になりました

ちびっ子育成ファンタジー!未来の勇者兄妹はとってもかわいい!
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11.その刃鋭く

公開日時: 2021年4月2日(金) 09:14
更新日時: 2021年5月9日(日) 22:55
文字数:3,225

ゲオドロスの店の地下。

 たくさんの武器や防具が置いてあった。


 ソフィネがつぶやく。


「すごいわ。どれもかなりのレベルの武器よ。伝説級のもあるかも」


 アレルもうなずく。


「すごいねー、1階の武器よりずっと」


 ゲオドロスはぼそっと言う。


「当然だ。上の武器は雑魚や泥棒よけみたいなもんだ」


 1階に置いてあった武具は能力の低い冒険者や窃盗犯を満足させるための商品。

 地下にある武具こそが本物ってことか。

 ゲオドロスは「そうだ」と思いついたように、レルスに尋ねる。


「レルス、ジンパルグに行っていたそうだな?」

「よく知っているな」

「ドワーフの情報網を甘く見るな。それで、どうだった?」

「どうとは?」

「兵器のことだ」


 レルスは少し考えてから答える。


「それこそ、ドワーフの情報網の方が詳しいのでは?」

「兵器がどういうものかは分かっている。だが、人族の手に渡った未来、どういうことが起きるのかは分からん」

「私にも分からんな。私は予言者でも政治家でも占い師でもないからな」

「ふん、そうかよ」


 それっきりその話はなくなり、ゲオドロスは倉庫のさらに奥から鞘に入った剣らしき武器を取り出した。


「ほらよ、お前さんが欲しいのはこれだろ?」

「欲しているのは私ではなくライトだよ」

「なに?」


 ゲオドロスは俺をまじまじと見る。


「お前さん、どこまで欲深なんだ?」


 は?

 どういう意味だ?

 キョトンとする俺に、ゲオドロスは言い直す。


「さっき、お前さんのステータスは見た。その年で最強クラスの戦士だ。それなのに、さらなる力を欲するとは、欲深でなくてなんだというんだ」


 ああ、なるほど。

 そういう意味か。


「最強クラスじゃ、本当の最強の戦士を助けられないからだ」


 俺の答えに、ゲオドロスは眉をしかめる。

 が、すぐに俺の意図を察したらしい。

 地下室の武器の数々に夢中になっているアレルをちらっと見て言う。


「あのチビのために強さが必要ってか」

「ああ」

「確かに、あのチビにはまともには追いつけんだろうな。いいだろう。コイツを持ってみな」


 ゲオドロスはそう言って、俺にその武器を渡した。

 ……?

 一見すると細身の剣にしか見えないが……

 むしろ、こんな細さじゃすぐに折れてしまいそうだ。


 俺がこの武器について何も聞かされていないとゲオドロスも理解したらしい。


「そいつはカタナという。聞いたことはないか?

「カタナ……」


 記憶のどこかにある言葉。

 どこだ?

 悩む俺の後ろから、アレルがさけぶ。


「カタナってミリス先生が言ってたやつだ」


 え?

 ミリスが?

 フロルが付け足す。


「私たちが最初に剣術を習ったときに言っていたわね。東の国に『斬ることを目的としたカタナという剣がある』って」


 おお!

 思い出した。

 確かに聞いた。


 これが、そのカタナなのか。


「東の国ってジンパルグ帝国のことだよな?」


 俺の問いにゲオドロスがうなずく。


「ってことは、これも兵器なのか?」


 レルスが首を横に振る。


「いや、カタナは兵器とは違う。兵器は誰もが使える武器。カタナは真逆。低レベルの戦士では扱えない装備だ」


 なるほど。


「抜いてみな。刃に指を当てないように気をつけてな。そいつはよく切れるから」


 俺はゆっくりと鞘からカタナを抜く。

 美しいほどにきらめく刀身。

 剣とは違い片刃だ。

 そして、剣と比べてあまりにも頼りない細さ。

 確かにこれは剣とは似て非なる武器だ。


「さっき、チビ2号が言ったように、カタナは斬るための武器だ。動物もモンスターも骨ごと切断できる。もちろん、人間もな」


 ゴクリ。

 俺は唾を飲み込む。

 斬る――切断するための武器。


「ちょっと、誰がチビ2号よ!?」


 フロルが不機嫌な声を上げているが、俺にはかまっている余裕はない。


 ショートやフロルから聞いたことがある。

『怪我回復』では傷を塞ぐことはできても、切断された手足をくっつけることはできない。

 剣で叩いたり、魔法で焼いたり、弓で射貫いたりしても、死なない限り回復魔法を使えばなんとかなる。

 だが、カタナで切断すれば……


「修行すれば、巨岩をも切断できるそうだ。お前さんなら可能かもな」


 それは確かに勇者にも不可能な強さだ。

 アレルは巨岩を砕くことはできても、切断はできないはずだから。

 これは確かに、俺にアレルにはない力を与えてくれる武器だ。


 レルスが俺にたずねた。


「どうする?」


 俺は背中に汗をかく。

 この武器を俺は装備するべきなのか。

 考えるまでもない。

 アレルを助ける力を俺に与えてくれる武器だ。

 恐ろしくもあるが、頼もしい。


「恐ろしい武器だと思う。だからこそ、俺に必要な武器でもある」


 ゲオドロスは「ふんっ」と鼻を鳴らす。


「いい答えだ。恐ろしさを理解しながらなお仲間を助けるために必要だというならば、そいつはお前さんに売ってやる」


 どうやら、認めてくれたらしい。

 俺の反応次第では欲しいと言っても売らないつもりだったのかも。


 ……って、売る?


「あ、でも、これ、おいくら?」


 今更だけど、俺たちの手持ちは多くない。

 少ないというわけでもないが、無尽蔵に金があるわけでもないのだ。


「本来なら大判金貨20枚だが、レルスの顔を立てて、大判金貨19枚+金貨5枚だな」


 え、えーっと……

 お金はソフィネが持っていたよな?

 俺は恐る恐るソフィネをみやる。


「そんな目で見られても、ない袖は振れないわよ。今の手持ちだと厳しいわね」


 手が出ないとは言わないが、後々困るってくらいか。

 が、レルスが言う。


「心配しなくても、金はギルド本部が負担する」

「え、いいんですか?」

「君たちがここまでたどり着いたお祝いだ。アレルくん、フロルくん、ソフィネくん、クラリエ様もそれぞれ好きなものを選びなさい」


 おお、太っ腹!

 そう言われて遠慮するつもりもないらしく、みんなが武具を選び出す。


 まずはアレル。


「僕ね、この剣が欲しい!」

「なるほど、そいつを選ぶとはな。アダマスの剣。この世界でも数本しかない貴重品だ」


 次にソフィネ。


「私はこれね」

「順当に強力な弓だな。特別な銘はないが威力と連射スピードはピカイチだ」


 なるほど。

 フロルは迷っているが……


「私は……」

「魔法使い向けなら、うちの店よりも法具屋だろうな」

「そうね……でも……」


 迷うフロルに、アレルが一振りの短剣を渡す。


「フロルはこれがいいよ」


 いや、なんで?

 短剣なんてフロルが使っても……


「この短剣、たぶん魔道具」


 え、そうなの?


「さすがだな。そいつは使用者が念じると、炎、氷、電撃を発動することができる武器だ」

「でも、私……」


 躊躇するフロルに、アレルは言う。


「もし魔法が使えなくなっても戦えるから。フロルのことはアレルが護るけど、でも、護れないときもあるかもしれないから」


 クラリエ王女と一緒に挑んだダンジョンで、転移の罠によってアレルとフロルは引き離された。

 その時は事なきを得たが、アレルなりに何かを感じたのかもしれない。


「そうね。分かったわ。剣は難しくても短剣くらいは使えるようにならないとね」


 フロルはうなずいた。


 そして、最後はクラリエ王女。


「えっと、私も選んでいいの?」


 確かに彼女は俺たちと立場が違う。

 これから冒険をするわけでもない。

 俺たちのような実力者でもない。

 戸惑うのは当然だろう。


 ゲオドロスはクラリエ王女に言う。


「あんたにはこれだ」


 クラリエ王女に渡したのは指輪?


「フロルの短剣と同じく魔道具だ。念じることによって電撃を発動する。もちろん、装着者には電撃は及ばないようになっている」

「なぜ、私にこれを?」

「これから他国に嫁ぎ、時に政争にも巻き込まれるであろう王女様の自衛の道具としては最適だからな」


 やっぱり気づいていたか。


「そんなに驚くなよ。ドワーフの情報網を甘く見るなと言っただろう。この大陸の地下世界は広い。4大国家だけでなく、ありとあらゆるところに地下世界との出入り口がある。お前達人族とは全く違う世界だ」


 ドワーフ。

 四大国家とは別に、いずれ彼らの代表とも話さなければならない。


「というわけだ、頑張れよ。幼い王女様、それにチビ勇者とその仲間達」


 ゲオドロスはそう言ってニカッと笑ったのだった。

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