王都近くの採石場。
俺の目の前に、巨大な石が置かれている。
高さも太さも、おれの身長よりもでかい。
俺はカタナを構える。
失敗すれば、カタナの方が折れてしまう。
さすがに2本目をギルド本部に買ってくれとは言えない。
すぅっと息を吐く。
俺の闘気がカタナまで届く。
その鋭く輝く刃に、さらなる力が宿った。
(いける)
俺はそう確信する。
ゆっくりと、しかし鋭くカタナを動かし!
そして一気に一閃!
その結果。
すぅーっと大石に切れ目が入る。
大石は真っ二つに割れた。
砕けたのではなく。
「うぉぉぉぉぉ!!!」
採石場の作業員達が大拍手。
アレルとレルスも目を見開いている。
「ま、こんなもんかな」
カタナの力と俺の力を合わせた結果だ。
「じゃあ、つぎはアレルねー」
アレルは元気よく右手を挙げたのだった。
-------------------------
なんで、俺たちが採石場なんかにいるかというと。
もちろん新しい武器の力を試すため。
特に俺のカタナだ。
大石を砕くならば、剣でできる。
だが、斬ることはできない。
カタナをつかって、それがなせるかどうか。
それを試すために、レルスのコネもつかってここで試させて貰ったのだ。
で、次はアレルの番。
ミスリルを超えるアダマスの剣を構えるアレル。
その瞳は久々に楽しそう。
新しい武器を試したくてたまらないのだろう。
戦士としては自然な感情だ。
アレルの前に置かれたのは5つの巨石。
俺が斬ったやつよりもさらに大きい。
6歳のアレルにしてみれば見上げるような大きさだ。
アレルの力を知らない作業員達は、一体何をするのか、あるいはこんなチビに何ができるのかといった表情。
アレルは、ゆっくり息を吸い、それから吐いて、体の力を抜く。
そして。
「いくよ」
そう言って駆け出した。
アレルは俊足を使っている。
そのスピードはすさまじく、俺やレルスでも追うだけで限界。
フロルやクラリエ王女、あるいは作業員達には見えていないだろう。
ソフィネにも見えないかも。
そんなスピードで採石場を駆け回り。
アレルは一瞬にして5つの巨石を粉々に砕いてみさえた。
6歳児のありえない破壊力に、作業員達が騒ぐ。
「すっげー」「むしろ、こええよ」「発破とかつかってねーだろ?」「魔法じゃねーの」「どう見ても剣だろ」「どう見てもって、みえねーし」
まあ、そうなるよな。
レルスが俺とアレルに言う。
「2人とも見事だ」
『はい』
フロルがソフィネに尋ねる。
「これって、どっちがすごいの?」
「両方すごいわよ」
「でも、やっぱりアレルの方がすごく見えるけど」
1つの巨石を斬ったおれよりも、5つの巨石を砕いたアレルの方がすごい。
迫力ある。
間違っていないし、俺も否定はしない。
だが。
フロルに反論したのは作業員のリーダー格っぽい人だった。
「そいつはちがうよ、嬢ちゃん。石を砕くのと、石を割るのは別の技術だ。ここまで一直線に石をわるというのは、俺たちには無理だ。すさまじい力だよ。
もちろん、火薬も魔法も使わずに一瞬で巨石を粉々にしたそっちの坊やもすさまじいが」
彼らは剣術の専門家ではないが、石の加工の専門家だ。
その目から見て俺たちの力を認めてもらえた。
「どうだい、坊や達、うちで働かないか? 給料ははずむぞ」
「ごめんね、僕らはやらないといけないことがあるから」
アレルはそう言って謝る。
もちろん、作業員達的にも冗談だったのだろうけどね。
レルスが言う。
「場所を貸してもらって助かった」
「いいや、今回の岩はこれから砕く予定だったヤツだ。作業がはかどって、こっちも助かる」
「礼金は後日冒険者ギルドに請求してくれ。私の名前を出せば分かるようにしておく」
「ありがとよ」
なるほど。
彼らにとっても一石二鳥だったわけだ。
クラリエ王女が言う。
「ねえねえ、私たちの武器もつかってみてもいい?」
レルスがうなずき、クラリエ王女は指輪の電撃を使ってみる。
採掘用のスコップを地面に突き刺し、そこに向かって発射。
結果、スコップは弾き飛ばされた。
「なかなかね」
クラリエ王女は大喜びだ。
フロルが言う。
「無茶な使い方しないでくださいよ」
「無茶って?」
「結婚相手に発射とか」
それはシャレにならない!
クラリエ王女の場合、結婚相手が相手だけに国際問題だ。
「しないわよ。信頼してよ」
いやぁ、あなたの暴走っぷりを知っているとなぁ。
すげー嫌な予感もするわけだが……
フロルはあっさり言う。
「今のあなたなら信頼できるけど」
え、そうなのか!?
びっくりする俺に、アレルも。
「クラリエ様なら大丈夫」
ま、勇者の双子がそう言うなら俺も信頼するか。
その後、フロルとソフィネもそれぞれの武器を試した。
フロルの短剣もちゃんと発動したが、実用的に使うには短剣そのものの練習も必要そうだ。
ソフィネの方は順当の弓矢の威力と連射スピードが上がった。
で。
全員が自分たちの新たな武器に満足した頃。
採石場に数人の兵士がやってきた。
よく見ると、ランディとタリアも一緒だ。
兵士の1人がクラリエ王女の前で跪く。
「クラリエ王女殿下ですな。私はブラネルド王家直属の近衛兵ミサルナドでございます。殿下と、それに勇者様をお迎えに上がりました」
どうやら、自由で楽しい時間は終わりのようだった。
ここからは戦いの時間だ。
カタナや剣を振り回す戦いではなく。
ブラネルド王家を説得する戦いの。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!