教会へと向かううち、二つの太陽は山の向こうへと沈んで夜になった。
家々から漏れる明かりや、いつの間にやら輝いている街灯のおかげで真っ暗というわけではないが。
「あの街灯、自然につくんですね。どういう仕組みなんでしょう」
この世界に電灯があるとも思えないのだが。
そんな俺に、ミリスがあきれ顔。
「魔石を使っているに決まっているじゃないか。何を言っているんだお前は?」
「魔石? あ、いえ、そうですよね。ははは……」
あまりにも当たり前のようにミリスに言われたので、俺はそれ以上何も聞けなくなってしまった。
まあいいか。シルシルに聞けば分かるだろう。きっと。
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実のところ、エンパレの町に教会は10箇所以上あるらしい。
俺が案内されたのは、その中でも最も大きな教会だそうだ。
「じゃあな。さすがにこれ以上警備の仕事をさぼっていると、ニサンに何を言われるか分からん。また会おう、ショート。
アレルとフロルも元気でな」
俺達を教会まで案内した後、ミリスはそう言って立ち去ったのだった。
教会の建物は他の家々に比べて立派だった。
単純に大きさだけでもすごい。
屋根は天高くを指し示すように尖り、そのてっぺんには『×』印がついた旗が掲げられている。
これは後から知ったことだが、『×』がこの世界の協会のシンボルである。キリスト教で言うところの十字架のようなものらしい。
「じゃ、2人とも行くよ」
俺が言うと、双子は素直にコクンと頷くのだった。
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教会の入り口にいくと、まだティーンエイジャーに見える僧侶が俺達を迎え入れた。
服装は黒い燕尾服。どうやらこの世界の牧師の服装は黒が基調らしい。なるほど、ミリスがスーツ姿の俺を牧師と間違えたのも分からなくはない。
「一般礼拝の方々でしょうか?」
その問いに対して肯定する。
「分かりました。それでは右手にお進みください」
説明はそれだけだとばかりの少年僧侶。
俺は言われたまま、廊下を右に進む。
少し歩くと看板があった。見たことがない文字だが、なぜか読める。これもスキル『自動翻訳』の効果なのだろう。
看板には『一般礼拝はこちら』と書かれていた。
それに従って進むと、小さな部屋にたどり着いた。
あるのは4人がけの椅子と、美しい女性像のみ。
……えっと。
正直どうしたらいいのか分からない。
なんとなくだが、礼拝といえばもっと広い場所で神様にお祈りするようなことを考えていたのだが。
いや、シルシルと話すならばこういう狭い場所の方が都合がいいか。
アレルが尋ねる。
「ごしゅじんちゃまー、ここってなにするとこなのぉー?」
「神様にお祈りするところだよ」
「かみちゃまぁ?」
うん、この子絶対よく分かっていないね。
もっとも、どうしたらいいのか分からないのは俺も同じなのだが。
「とりあえず、2人とも座って」
言いつつ、ひょっとしてこれも奴隷契約の『命令』になるのかななどと考えてしまう。
いずれにせよ、2人とも元気に『はい』と答えて椅子に座ってくれた。
さて。
俺も椅子に座ってみたのはいいものの、どうしたらシルシルと話ができるんだろうか。
確かお祈りをしろってことだったが。
試しに俺は目を瞑り両手を前で合わせて祈る。
(神様仏様シルシル様、お話しさせてください)
と、次の瞬間だった。
「じゃっじゃーん、呼ばれて飛び出てシルシルなのじゃっ!!」
またしてもファンファーレとともに俺の目の前に幼女神様が現れたのだった。
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唐突な幼女神様の登場に、アレル達が驚いているのではないかと心配になる俺。
だが、シルシルはそんな俺に『心配はいらない』と告げた。
「何しろ、ワシとおぬしが話している間は時間を止めておるからの」
言われてアレル達を見れば、確かに動きが止まっている。
というか、アレル、なんでフロルの頬を抓ろうとしているんだ。
「で、この2人を奴隷商人から買い取ったわけだが、この後はどうしたらいいんだ?」
「ふむ、先にも告げたとおり、おぬしの役割は2人を立派な勇者に育てることじゃ」
大いばりで胸を張るところ悪いんだけどさ。
「いや、その指示はアバウトすぎだろ。もうすこし具体的にたのむ」
「ふむ、確かにそうじゃな。勇者が勇者として目覚めるためには、この世界にある3つの試練を乗り越える必要があるのじゃ」
「3つの試練?」
「具体的には『勇気の試練』『真実の試練』『祝福の試練』じゃな」
いや、名前だけ言われても、全然具体的じゃないんだが。
「じゃあ、これから俺はこの子達と一緒にその3つの試練とやらをのりこえなくちゃいけないのか?」
「その通りじゃが、物事には順序というものがある。今のおぬし達の力では試練をのりこえるどころか、試練の場所にたどり着く前に魔物に食い殺されるのがオチじゃ」
魔物ね。
そのことについては俺もいいたいことがあるぞ。
「そういえば、お前、俺を魔物がいる森の中に放置しただろ!?」
「魔の森じゃな。魔の森とは固有の森を示すのではなく、魔物が生息している森ならばどこでもそう呼ばれるぞ」
「いや、そういうことじゃなくて。もしも俺が魔物に出会っていたらどうするつもりだったんだって話をしているんだっ!」
「そこは心配いらん。この辺りの魔の森ではそこまで強力な魔物は出てこんからな。ワシがさずけた『火炎球』の魔法で十分倒せる相手ばかりじゃ」
いや、そうなのかもしれないけどな。
「そもそも、魔法の使い方を習っていないぞ」
「……あっ」
俺の言葉に、シルシルが『しまった』とばかりに固まる。
どうやら、本当に伝え忘れていたらしい。
「ふ、ふむ、この世界では常識じゃからなぁ。確かに、お前達の世界には魔法がないわけで、使い方を教えておくべきじゃったな。
シルシルちゃん、シッパイシッパイじゃ」
テヘペロするシルシル。
いや、今さらそんな顔で、頭をカキカキされてもなぁ。
「それで、これから具体的にはどうすればいいんだ?」
「ふむ、まずはレッツ冒険者登録っ! じゃ」
幼女神様の口から、ますますラノベ的な単語が飛び出すのだった。
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