再び地下道場に戻った俺とミリス。
アレル達3人は真面目に素振りをしている。フロルだけはかなりキツそうだが。
「待たせたな」
言うミリスに、ライトが尋ねる。
「ゴルのオッサン大丈夫だったのか?」
「ああ、やはり軽い|脳《のう》|震《しん》|盪《とう》だそうだ」
「そっか、よかった」
朝、あれだけ争っていたのに、素直にそう言えるライトは、やっぱりいい奴なのだろう。
「では、本日最後の訓練はライトとショートで模擬戦をやってもらおう」
ミリスが言った。
慌ててしまう俺。
「え、俺ですか?」
「そうだ」
「で、でも、俺はまだ剣術は……」
「アレルは訓練一日目で頑張っていただろ。保護者のお前が及び腰でどうする」
ミリスはニヤッと笑った。
くそ。そんな風に言われたら断れない。
立ち上がった俺に、双子が声援を送ってくれる。
「ご主人様、がんばってください!」
「がんばれー、ごちゅじんちゃまぁー」
お、おう。
そうだよな。
頑張ろう。
相手は年下の子どもだ。きっとどうにかなる。
……なる、よな?
---------------
結論。
どうにもなりませんでした。
模擬戦開始、10秒後にはライトの木刀は俺の腹を打ち、倒れたところに木刀の先を突きつけられ、わずか15秒で俺は降参するしかなかった。
確かに、ゴルより強いかもしれん。いや、俺が弱すぎて比較にならないけど。
「ごちゅじんちゃま、だいじょうぶ?」
「うん、大丈夫。ははは、負けちゃったよ」
アレルに心配され、落ち込みながら立ち上がる俺。
「そんなにガッカリするな。初日なら当然だ。ライトはそれでももう、100日は訓練を積んで、もうじきレベル1に上がる実力者だ」
ミリスに励まされる俺。
確かにその通りなのだろう。
アレルの異常な活躍を見た後でなければ、俺だってここまで落ち込まない。
もしかすると、双子に呆れられちゃったんじゃないかなと思うとさ。
「じゃあ、こんどはアレルがやるー、アレル、ごちゅじんちゃまのカタキとるぅー」
そう言って、ライトに挑もうとするアレル。
だが。
「ダメだ」
ミリスがアレルを制する。
「でもぉー」
「さっき言っただろう。今日はこれで終わりだと。それと……」
ミリスは膝をつき、アレルと同じ目の高さに顔を持っていって言う。
「アレル。確かに君は強いが、簡単に力をつかってはいけない。その力は、本当に大切なものを守るためのものだ。今、ライトと君が戦う必要はない」
ミリスの真剣な表情に、アレルも彼なりに真剣な顔になる。
「うん、わかったー、ごめんなちゃい。アレル、フロルとごちゅじんちゃまをまもるよぉ」
「そうか、偉いぞ、アレル」
ミリスはアレルの頭を優しく撫でる。
「えらい? アレル、えらい?」
褒められて、キャッキャと喜ぶアレル。
そんなアレルを、俺は微笑ましい思いで見守るのだった。
大丈夫、この子は危険な子じゃない。そんな子には、俺がさせない。
---------------
訓練が終わり。
俺達はギルド近くの安価な食堂に行くことにした。
俺達というのは、俺とアレルとフロル、それにライトだ。
ライトは俺達のパーティーではないが、今日は一緒に修行したわけで、その流れというヤツだな。
ちなみに、ミリスはまだ仕事が残っているらしい。
「そういや、ライトのパーティーメンバーはどうしたんだ?」
昨日は他に3人ほどの少年達と一緒にいたはずだ。
「ああ、あいつらならな……二日酔いで寝込んでいる」
ライトは苦々しそうな口調で言う。
「二日酔い?」
他の子達も10代前半にみえたんだが。いや、この世界でのアルコール解禁年齢は知らないが。
「ツノウサギが手に入って喜んじまってさ。あいつら、飲めもしないのにワインをがぶがぶと。結局、ツノウサギの売値よりも金がかかった」
おいおい、大丈夫か。
呆れる俺。
「ライトは飲まなかったのか?」
「ああ、俺は今日も訓練受けるつもりだったからな。というか、あいつらもその予定だったくせに、まったく」
ブツブツいいながら、パンを口に放り込むライト。
「それにしても、アレルはすごいよな。ゴルのおっさんをやっつけちまうんだから。俺、スカッとしたぜ」
ライトがアレルの背中をポンポンっと叩きながら言う。
「ミリスさんは、ゴルよりライトの方が剣術は上だって言っていたぞ」
「うーん、そうかもしれないけど、やっぱり、力や体力では勝てないからなぁ。最近はいいところまでいくんだけど、簡単には勝てねーよ」
どうやら、ライトはこれまでにもゴルと何度も模擬戦をしているらしい。
その後もライトと色々話をした。
彼は13歳。この近くの村の出で、今のパーティメンバーは同じ村出身の少年達だという。
彼らはまだレベル0だが、依頼を18回こなし、もうすぐレベル1へのテストを受ける予定。
「テストは受かりそうなのか?」
「さぁ、俺はともかく、他の3人はなぁ。正直、厳しいかもな」
パーティ全体としてのレベルは、全員の平均レベルになる。ただし、小数点以下は切り捨て。
つまり、たとえばライトとあと2人レベル1になったとしても、4人のうち誰か1人でもレベル0のままなら、パーティ全体としてはレベル0と見なされるのだ。
それは俺達も同じ事だ。
アレルがどんなに強くなっても、俺やフロルがテストに合格できなければパーティーとしてのレベルは0のままだ。
さっき、フロルの冒険者カードを確認したが、俺と同じく別段変化はなかった。彼女も勇者の因子を持っているはずなのだが。
そんなこんなで、食事を終える。
「じゃな、ショート、アレル、フロル。また今度な」
そう言って、ライトは立ち去ったのだった。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!