俺達は草陰からセルアレニ達の様子を伺う。
セルアレニは、なるほど蜘蛛の足を蛇に取り替えたような姿をしていた。それとは別に首もついている。そんなんでどうやって動くのかと思っていたが、触手のような足を持ち、立ち上がって移動するらしい。
大きさは1メートル~5メートルくらいまで様々。
全部で10匹くらいだろうか。
「きもちわるぅ」
フロルが嫌悪感を示す。
確かに。強い弱い以前に、生理的嫌悪感を覚える姿だ。
マルロが恐がったのも無理はない。俺も戦う前から手足が震えている。
ヤツらは森の中の開けた広場に集まってた。
「『地域察知』の反応は?」
小声で聞くミリスに、俺は答える。
「2人は広場の中央ですね」
その俺の答えに、ミリスは舌打ち。
もしも、2人が少し離れた場所に保管されていたならば、セルアレニとの戦闘を避けて、まずは救助のみ行なうといったことも考えていたのだ。だが、これではヤツらを全滅させる……少なくとも、ヤツらの勢力を半壊させなければ救助のしようがない。
「どうします?」
俺はミリスに尋ねる。
戦うのか、それともやはり救助を諦めるのか。
戦うとしてどういう作戦で行くのか。
ミリスは瞬間考え、そして言った。
「やつらはまだ気づいていない。まずはショートの『火炎連弾』でやつらを叩いてくれ」
俺やフロルが使える魔法で、多数に一度にダメージを与えられるのは俺の『火炎連弾』だけである。
「掴まっている2人が火傷する可能性もありますけど」
「悪いが命以上のことは求められても困るな」
確かに、そこまで余裕はない。
2人が焼け死ぬ可能性は……いや、そこまで考慮していられないな。そうならないことを祈ろう。
「『火炎連弾』と同時に、私がつっこむ。ショートとフロルは援護。アレルは遊撃。わかるな」
俺達は頷く。
実のところ、俺達のなかで最も戦い方の選択肢が広いのがアレルだ。
接近戦もできれば、『風の太刀』や『光の太刀』による遠距離攻撃も可能。しかも俺やフロルの魔法と違ってほとんどタイムラグがない。
接近戦しかできないミリスや、逆に接近されたら自分たちではほとんどどうにもできない俺とフロルに比べて、アレルは自由に動きやすい。
遊撃――言い方を変えれば適時接近戦と遠距離戦を切替えて戦えるのはアレルだけだ。
それはつまり、5歳児のアレルに対して負担の強い戦い方だともいえるのだが。
ここは、アレルの天性の才能にかけよう。
「じゃあ、行きます」
俺は言って思念モニタを出す。
うう、緊張で指が震える。
くそっ。
「ショート様、落ち着いて」
俺と同じ魔法使いのフロルが言う。
この世界の魔法使いにとって、恐怖や緊張で指が震えるのは致命的。
彼女もそれはよく理解している。
「ああ、わかっている」
5歳児に負けてられない。
俺は『火炎連弾』を放った。
『火炎連弾』という魔法は、一定方向にいる敵すべてに炎を放つ。
そのため、敵の数が多いほど有効だが、同時にMP消費も大きい。
今回は10匹相手に使ったので、MPは15減ったはずだ。
不意打ちの『火炎連弾』をセルアレニ達は避けられない。
ほとんどがまともに命中する。
これで決まってくれれば話は早いのだが。
しかし。
炎のあとには、平然と立ったままこちらに蛇の目を向けるセルアレニ達の姿。
「ほとんど効いていない!?」
悲鳴まじりに言う俺。
ベルモンキ相手に一撃だったのにっ!
こちらに対して攻撃の意思を見せるセルアレニ達。
まずは1匹が先行してくる。体調は2メートルくらいの中堅(?)セルアレニだ。
そのセルアレニに、ミリスがつっこむ。
蛇の足を1本1本切っても無駄と考えたのか、狙うは1つだけの首。
だが。
冗談だろ!?
ミリスの剣はセルアレニの首を軽く傷つけただけ。
避けられたり防がれたのではない。皮膚が硬すぎて弾かれたといったかんじだ。
ミリスも、まさかといった感じで、飛び退く。
その彼女をセルアレニの蛇の手のうち3本が睨む。
いや、違う。3本の蛇の手が口を開き、そこから炎が吹きだした。
「くぅ!」
ミリスはかろうじてその炎をかわす。元々、そこまで熱い炎ではないのだろう。致命傷にはほど遠いようだ。
「ミリス先生!」
アレルがミリスの方に――いや、セルアレニに飛びかかる。
彼が狙ったのもセルアレニの首。『風の太刀』や『光の太刀』ではない。ライトから譲られた剣で直接斬り掛かる。
ミリスが叫ぶ。
「アレルっ! よせ!」
ミリスの剣が通じなかったのだ。アレルがやっても同じ事――
誰もがそう思った。
だが。
アレルの剣はセルアレニの首をすっぱり切り落としてた。
マジかよ!?
剣そのものはミリスの剣の方が立派なはずだ。
ならば、この結果の違いは単純にアレルとミリスの、現在の力量差ということになる。
首を切り落とされたセルアレニはその場に倒れる。
だが、まだ油断はできない。セルアレニはあと9匹いる。
いや、仲間が倒されたことで、残りの9匹が一斉に俺達――とくにアレルとミリスに敵意を向けていた。
――と。
「危ないっ!」
フロルが叫んで思念モニタを操作。
なんだ?
俺が思ったとき。
倒したはずのセルアレニの蛇の手が8本、アレルの方を向いた。
まだ生きていた!? さっきの炎攻撃か?
他のセルアレニの方を睨んでいるアレルとミリスは反応が遅れる。
まずい!
おもった次の瞬間、首のないセルアレニにフロルの『氷球弾』が命中!
それで、ヤツは本当に動かなくなった。
「助かったフロル! やつらには炎より氷かもしれん!」
炎には強いが、氷には弱い。ミリスはそう判断したらしい。
その判断が正しいのかどうかはイマイチ分からない。
単に首を切り落とされてHPが減っていたところにとどめになっただけではないのか?
フロルが再び思念モニタを弄る。
別のセルアレニに対して『氷球弾』を使用。
分からないなら試すまでってことか。
もっとも小さい、1メートル程度のセルアレニは、『氷球弾』一発だけで動かなくなった。
確かに、ヤツらの弱点は氷らしい。
だが、だとすると、俺はほとんど役に立てない。
俺は炎系を、フロルは水や氷、それに泥沼を学ぶことにしていたのだ。
得意不得意ではなく、ブライアンが炎系をフロルに教えてくれないから、俺が炎の方に重点をおいただけだが。
一応、俺も『水球』、『氷球』、『水球弾』は使えるが、『水球』は論外。『氷球』も相手に当てる魔法ではない。『水球弾』は相手に当てる魔法だが、ヤツらに効くとは思えない。
そして、フロルの『氷球弾』も単体に対する魔法。一度に何匹も倒せはしない。こんなことなら、金をケチらず『吹凍雪』を覚えるべきだったかもしれないが、金貨3枚はさすがに……いや、今、覚えていない魔法のことを考えても仕方がない。
いずれにせよ、すでに戦いは始まっていた。
いまさら後には引けない。
ならば、できることをやるだけだ。
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