ゲームマスターはムカつくニヤつき顔で言った。
「ボクがこの世界を作ったのは、6年と120日前だよ」
俺は顔をしかめる。
「意味が分からないんだが?」
「この世界ができたのは双子の誕生日だってこと。それ以前にはこの世界は存在すらしなかったんだよ」
……?
そんなわけがない。
俺の中にはそれよりも前の幼い頃の記憶がある。
ソフィネやバーツ達と遊んだり、イタズラしたり、そんなたわいもない故郷での思い出だけど。
俺が首をひねっていると、ゲームマスターは続ける。
「それ以前のキミの……キミたちこの世界の住人の記憶は、全てボクが作り出した偽りなのさ」
「なにをばかなことを」
「信じられない?」
「信じる理由がないからな」
「その男の顔は信じる理由にならないのかい?」
ヤツはそう言って、俺の背後にいるミノルを指さした。
俺は思わず戦士としてありえない行動に出てしまう。
敵対する者から目をそらし、ミノルの顔をうかがったのだ。
すると――
ミノルは青ざめて、俺に同情するような目を向けていた。
「本当のこと……なのか?」
俺の……俺たちの過去が全て作り物?
そんなことって……
……まさか、そんな。
だが、ミノルの表情は……
ミノルは慎重に、言葉を選ぶように言った。
「私をこの世界に送り込んだ神から、同じ説明を受けています」
「……うそだろ?」
「真相は分かりません。ただ、目の前のゲームマスターも含めて、神達がそう語ってきたのは事実です」
「それ、お前の他に知っているヤツは?」
「おそらくいません……いえ、ショートさんは……」
ああ、そうか。
確かにそういう話ならショートは知っていただろうな。
何しろ、アイツはずっと神様と会話していたんだから。
……そういうことか。
悔しいな。
俺は声を絞り出す。
「ざけんなっ」
「ライトさん、確かにこの世界は6年前につくられたのかもしれません。ですが、あなたや勇者達のこれまでの冒険は真実です」
ミノルはなにやら俺を励まそうとしている様子だが。
俺が悔しく思っているのはそこじゃない。
「そこはどうでもいい」
「は?」
「この世界の成り立ちなんて俺は興味もない」
「いや、興味ないって……」
「俺が悔しいのは、仲間が俺に真実を話してくれなかったことだ」
「すみません、こればかりは話せませんでした」
「アンタのことじゃねーよ。そりゃ、会って十数日の人間に話すことじゃねーだろ。だけどさ、ショートとは1年以上一緒に冒険してきたんだ。それなのにアイツは……」
わかっている。
ショートが俺たちに世界の真実とやらを話さなかった理由は。
こんなこと、そんな簡単に話せるわけがない。
だけどさっ!
俺たちとショートの間は、そんな簡単なもんじゃなかっただろ!?
聞かされるなら、お前から聞かされたかったよ
お前の姿をしたゲームマスターでも、会ってさほど経っていないミノルでもなくてさ。
お前は、俺のこと、信用していなかったのかよ!?
それが悔しくて。
でも、誰にもその悔しさをぶつけられなくて!
そんな俺に、ミノルが言う。
「ライトさん。あなたはこの世界の真実を受け入れて、それでもなお勇者のために戦うというのですか?」
「当然だろ。アレルもフロルも俺の仲間だ!」
「そうですか。よかった、あなたになら任せられるかもしれない」
任せる?
何を?
ミノルは俺の方へ……いや、俺を通り越してショートの姿をしたゲームマスターの方へと向かう。
「何のつもりかな? ミノルくん?」
「私を送り込んだ神はね、いつかあなたがこの世界の人々にこうやって干渉してくる可能性を考えていたようです」
「そうだろうね。それで?」
「だから、私に1つのスキルを託してくれました」
ミノルはゆっくりと、ゲームマスターに近づく。
「スキル? そんなもの、ボクには通用しないよ。この世界のスキルは……」
「このスキルは、この世界の外にあるものだそうです。あなたを封印し、人々への干渉を封じるスキル。このスキルを使ってあなたを封印すれば、私は日本に戻れる」
「まさか……あの死に損ないの女神が!?」
「この世界の行く末を見守った後で、ショートくんを送り込んだ神様にたのんで日本に返して貰うことも考えました。が、彼女をあなたが封印したらしき現状。私が日本に帰る方法は、やはりこれしかないのでしょう」
さらにミノルは、振り返りもせずに俺に言う。
「ライトさん、このスキルを使えば、ショートさんごとゲームマスターを封印することになります。ショートさんを助けられないことは心残りではありますが、私が日本に帰り、ゲームマスターが勇者に干渉できなくなるとするならば、これが最善手でしょう」
正直、おれにはなにがなんだかわからなかった。
ミノルはゲームマスターを封印できると言う。
そして、そうすればミノルは『ニホン』とやらに帰還できるらしい。
だが、それではショートは助からない?
「願わくば、あなたと勇者達でこの世界に平和を。そしてショートさんを救い出してください。私は一足先にゲームマスターを封印して帰郷するとしましょう」
ミノルが近づいても、ゲームマスターは動かない。
いや、動けないのか?
ショートの姿のゲームマスターがその場で金縛りに遭った様子で苦しんでいる。
「馬鹿な。あんな女神のスキルでボクが封印されるなんて!?」
「おろかですね。そもそもあなたが神の力を得たのは、その女神から奪ったからでしょう? 自分の力を封印するスキル程度ならば、彼女が私に渡す余裕もあったんですよ」
ミノルとショートの肉体が発光する。
まぶしくてとても目を開けていられない!
「ち、ちくしょうっ!! だが、だからといってこの世界が救われるとは限らんぞ!」
「それはそうでしょうね。この世界が戦乱に向かうか、平和に向かうかは分かりません。
ですが、私はライトさんと勇者達を信じます。あなたの言うとおり、日本のあるあの世界よりは、この世界の人々の方がずっと善良ですから」
「ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう! 神どもが!! いつもいつもいつもボクの邪魔をしやがって!!!」
俺は目をつぶったまま叫ぶ!
「ミノル!」
「ライトさん、この世界のことはあなたに託します。勇者でも魔王でもなく、あなたにね」
それが、俺が最後に聞いたミノルの言葉だった。
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