異世界で双子の勇者の保護者になりました

ちびっ子育成ファンタジー!未来の勇者兄妹はとってもかわいい!
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3.勇者の保護者

公開日時: 2021年2月11日(木) 20:34
文字数:2,597

 ガシャン!

 王城内の地下牢。

 鉄格子が閉まる音が響いた。

 閉じ込められたのはララルブレッド。


 俺はマラランに小声で聞く。


「大丈夫なんですか、彼女、かなり強いらしいですよ?」


 この世界の戦士は超常的な力を持っている。

 もしも、彼女が剣なしで、『風の太刀』とかを使えるなら、この程度の鉄格子や壁など破れそうだ。

 見張りの戦士もいるようだが、アレルはもちろん、ライトやマラランよりも弱いだろう。


「問題ない。ここではスキルや魔法は使えない」


 どういう意味だ?

 怪訝な顔をする俺に、マラランは肩をすくめる。


「王家の機密だ。詳細は語れない」


 ふむ。

 そう言われてしまうと、それ以上は聞けないか。

 ここは彼の言葉を信じるしかあるまい。

 俺達が永遠ララルブレッドの見張りにつくわけにもいかないし。


 フロルが推測を口にする。


「たぶん、床の魔法円が関係しているんでしょうね」


 言われて気づく。

 あまり濃い色ではないが、地下牢全体に魔法円が描かれている。

 囚人がスキルや魔法を使えないようにするためのものなのか。


 マラランが苦笑する。


「めざといな。だが、それだけではないよ」

「でしょうね。魔法だけならまだしも、スキルを魔法円で封じられるとは思えないし」


 フロルは言いながら、さらに考察しようとしているらしい。


 俺はそんなフロルに言う。


「フロル、秘密だそうだからあんまり暴こうとしない」


 なにしろ、王家の機密らしいからな。

 暴いてしまったら最悪俺達が投獄されかねん。


 それに。

 今はそんな仕組みよりも考えるべきことが多すぎる。


 魔族の襲撃。

 これから予定されている国王との会談。

 そして――


 今のところ、ララルブレッドは大人しくしている。

 むしろ、ひと言たりとも口を利いてなるものかというかんじだ。

 俺が彼女の声を聞いたのは、アブランティアのことを尋ねられたときだけだ。


 ――彼女をどうするか。

 尋問し、聞けるだけ聞いて、あとは死刑というのが普通の考えだ。

 普通の考えなのだが。


 ――尋問か。

 正直気が重い。

 自分で尋問の権利を主張しておきながら今さらだが、たんに話を聞くならともかく、拷問めいたことが俺にできるとは思えん。


 そんなことを考えていると。

 マラランが俺達に言った。


「それでは順番が前後したが、王宮へと案内しよう」

「王様と会うのね?」


 ソフィネの言葉に、マラランは頷いた。


「陛下は是非とも勇者に会いたいとおっしゃっている」

「わかりました。ご案内をお願いします」


 相手が国王じゃ、拒否することはできないだろうし、拒否する意味も無い。


 ---------------


 王宮。

 王城の中でも特に煌びやかな一画。

 国王が政務を行ない、また生活や睡眠をする区画。


 その中の一室に俺達は案内された。


 かなり立派な部屋だ。

 国王に拝謁するまでの控え室ということらしい。

 例のレストランの個室でも面食らったが、ここはさらにすごい。


 絵画だのガラス工芸品だのがたくさんある。

 椅子や机も、これまで見たことがないくらい高級そうだ。

 いや、俺達は芸術を鑑定する眼など持ち合わせていないが。


「申し訳ないが、ここで、しばらく待って欲しい。何か必要な物があれば用意させるが」


 マラランの言葉に、俺は言う。


「そうですね。俺は特に……皆は何かある?」


 ライトがちょっと考えて。


「腹減った。結局、タルトーキ食い損なったし。あと、喉も渇いたな」


 たしかにそうだな。

 戦闘やらなんやらの緊張で忘れていたが。

 マラランが頷く。


「わかった、お茶と軽食を用意させよう。さすがにタルトーキを用意する時間は無いと思うが」


 それはありがたい。

 さらにアレルが右手を挙げて言う。


「あと、アレル、おしっこー」


 おいっ!


「わかった。それも案内させよう」


 マラランは苦笑するのだった。


 ---------------


 メイドさんに手を引かれ、アレルはトコトコとお手洗いに向かった。

 マラランも、本来の仕事――軍の指導に戻る。

 襲撃は終わったとは言え、まだまだ王都は混乱状態なのだ。


 そんなわけで、部屋に残ったのは、俺、フロル、ライト、ソフィネの4人。


 ややあって。

 ライトが俺に言った。


「すまなかったな、ショート」

「なにがだよ?」

「戦士として、魔法使いのお前を護れなかった」


 いや、それは。

 確かに、戦士と魔法使いの役割分担としてはそうなんだろうけど。


「お前のせいじゃない。そもそも、別れて対処しようとした俺のミスだ。自信満々に魔法を使って敵を引き寄せて、結局追い詰められて」


 はっきりいって、今回の俺の戦い方は赤点以下だ。

 ドラゴンの強さや魔族の存在などの不確定要素があったとはいえ、完全に戦術も戦略も無謀すぎた。


「それでも、護るのが戦士の役目だ」


 ライトは両手の拳を強く握りしめる。


「俺は、やっぱり弱い」


 いや、そんなことはないだろう。

 フロルもまた口を開く。


「私も、今回はなにもできませんでした」


 フロルとソフィネの戦いを俺は見ていない。

 だが、そちらはそちらで、やはりアレル頼みだったようだ。


「私も、勇者のはずなのに。今回だけじゃなくて、これまでもずっと全部アレルに押しつけちゃってる」


 いや、そんなこともないだろう。

 フロルはフロルでよくやっている。

 俺以上に色々と考えてくれるし、魔法だって使えるし。


 ソフィネもポツリ。


「私はフロル以上に役立たずだったわね」


 いや、だって、あの戦いで弓矢も鍵開けも役に立たないだろうし。


 いずれにせよ。

 4人それぞれ落ち込んだ表情で同時に溜息。


 分かっている。

 今回だって結局アレル頼みだった。

 言い方を変えれば、たった6歳の幼児におんぶに抱っこだったのだ。


 その結果が、アレだ。

 あの暗い目をしてアブランティアを殺そうとした、あのアレルの姿だ。


 アレルは強い。

 あるいは、大陸で一番強いかもしれない。

 レルスだってもうアレルには勝てないのだろう。


 だけど。


「アレルは、まだ子どもだよな」


 そう。

 アレルは悪い子じゃない。

 力をむやみに使って暴れるような子でもない。


 それでも。

 幼い。

 幼児だ。

 日本で言えば、幼稚園の年長さんか、せいぜい小学1年生。

 フロルと違って、頭脳の方は天才でもなんでもない。


 ライトがポツリという。


「このままじゃ、ダメだ」


 フロルとソフィネも頷く。

 俺も。


「そうだな。アレルの負担を少しでも軽くしてやらないと」


 ただでさえ、アレルは『勇者』という重圧を背負っているのだ。

 その重圧の一部でも、俺達が――いや、俺が肩代わりしてやらなくては。

 それが、この世界に勇者の保護者として召喚された俺の役目だろう。

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