魔王を名乗る少年少女を前にして、僕らはしばし唖然。
いくらなんでもいきなりすぎるもん!
そんな中、フロルがなんとか冷静さを取り戻して――あるいは冷静さを装って――口を開く。
「えーっと、今、魔王って言った?」
そのフロルの問いに、男の子が「うんうん」とうなずいて人なつっこい笑顔になる。
「そーだよ。オイラ達が魔王。名前はワイルス。妹はタイレス。本当の名前はもっと長いんだけど、オイラも覚えきれないからそう呼んで」
「ちょっと、ワイルス! 私は妹じゃなくてお姉ちゃん! あんたが弟!」
「えー、オイラの方がお兄ちゃんで、タイレスが妹だろ?」
「私の方が先に生まれたもん!」
「数分の差だろ。双子なんだから」
なんか言い争いが始まったけど。
その気持ちは分かる。
僕だって、フロルとどっちが兄(姉)かでちょっとケンカしたこともあるからね。
世の中の双子は一度はそういう言い合いもするんじゃないかな。
……などと、妙なところに納得している僕。
フロルは何やら考え込んでいる。
一方、ライトが言う。
「お前達が魔王? 色々疑問はあるが、まずそれが本当だという証拠は?」
ライトがそう尋ねたのも無理はない。
目の前の子供達はごく普通の少年少女にみえる。
特に強そうでもない。僕と同じくらいの年齢のタイレスが剣を持っているのは目に付くけど、そこまでの使い手かっていうと微妙。もちろん、実力を隠している可能性もあるけど。
……なにより。
「お前達、魔族には見えないが?」
ライトの言葉通り、2人の姿はリラレルンスやララルブレッドとは違う。
普通の人族の姿だ。
もちろん、ミノルの例があるから、姿だけじゃ全てを判断はできないけど。
ワイルスがライトの疑問に答える。
「うーんとね。ショーコっていわれても……今のオイラ達は、人族に化けているし……」
化けている?
もしかしてミノルと同じ?
そう考えたのは僕だけじゃなかったみたいで、ライトが尋ねる。
「それって、『変化』のスキルか?」
「ううん、ちがうよライトさん。スキルじゃないよ、別の方法。あ、魔法でもお化粧でもないよ」
そう解説したワイルスに続き、タイレスが言う。
「元の姿に戻ることはできるけど、それよりももっと簡単な証明方法があるかな」
そういうと、彼女はスッと身構えた。
その瞬間。
僕の全身から汗が噴き出す
タイレスから強烈なプレッシャーが放たれる。
僕は最大級の警戒心を覚える。
僕は自分の背後へフロルをかばう。
(なんだ?)
反射的に木刀を構える。
アダマスの剣は……ベッドの横。すぐにも取りに行きたいけど、たぶんその行動は致命的なスキになってしまう。
頼りないけどとりあえずは木刀で対処するしかない。
ライトもまた、ぼくと同じようにタイレスからの強烈な殺気を感じ取っているようだ。
これは『威圧』スキル?
それもあるかもしれないが、そういう問題じゃない。
これは……
(僕と同じ?)
そう、勇者たる僕と同じだ。
尋常ならざる力。
天才という言葉では足りない異能の能力。
タイレスは剣を抜いたわけじゃない。
戦いに向けて構えているわけでもない。
表面上はさっきまでと同じくにこやかに笑っている。
――だからこそ、恐ろしい。
僕ですら――僕とライトが2人で戦ってすら、彼女には勝てないかもしれない。
フロルが僕の→袖をちょっと掴む。
「アレル?」
「心配しないで、フロルは僕が護るから」
僕はフロルを安心させるべくそう言った。
が。
「じゃなくて、なんで警戒しているの?」
え?
「だって、タイレスが……」
「よくわからないわ」
戦士ではないフロルは何も感じていないらしい。
それはつまり、このプレッシャーは『威圧』のようなスキルではなく。
戦士同士にしか分からないタイレスの実力ってことだ。
「フロル、とにかく下がって。いつでも魔法を使えるように……」
僕がそこまで言ったときだった。
タイレスから発せられていたプレッシャーが消えた。
そして、彼女はにっこり笑って言う。
「今みたいなことができるっていうのは、証拠にならないかしら?」
そう言う彼女は、すでにただのかわいいな女の子でしかなかった。
ライトが震える声で言う。
「確かに、その年齢でアレルと同じ力を持っているというのは、これ以上ない証拠かもしれないな」
あー、なるほど。
そういうことか。
僕と同じ力をもっているということは、勇者か魔王だってこと。
そして、ぼくとフロルが勇者である以上、彼女は勇者じゃない。
つまり、答は1つか。
「確かに、君たちが魔王みたいだね」
僕はそう認めるしかなかった。
「分かってくれて嬉しいわ」
「ずいぶん乱暴な自己紹介だけどね」
「でも、一番わかりやすいでしょう?」
「まーね」
そんな僕らに、フロルが一言。
「……なるほど、戦士同士の自己紹介ってことね」
フロルはさっきのタイレスの力を感じ取れなかったみたいだけど、それでも今行われたことを会話からなんとなく察したらしい。
一方、よく分かっていなかったのはワイルス。
「えーっと、つまり何? オイラたちのことを認めてくれたの?」
事前打ち合わせなしだったんだね。
あと、ワイルスは戦士ではないらしい。
だとすると、魔法使いなのかな?
僕とフロルとは男女が逆?
などと思っていると、フロルが「ふん」と鼻を鳴らす。
「どうやら本当に魔王らしいわね。でもそれが分かっても話が見えないことに違いはないわ」
確かに。
なんで、いきなり魔王が現れるんだよ。
意味が分からない。
一体何の用事なんだろう?
そもそも、魔王って南の大陸にいるんじゃなかったの?
リラレルンスはこのこと知っているのかな?
っていうか、2人だけでここまで来たのかな?
疑問はいくらでも湧いてくる。
だけど、今一番きにするべきことは。
ライトが未だ警戒を解かずに、双子の魔王に問う。
「勇者と戦いに来たのか?」
そう。
魔王と勇者は戦う運命だ。
僕らやリラレルンスは和平の道を探しているけど。
それでも。
勇者の前にわざわざ魔王が現れたなら、そういうことも考えなくちゃいけない。
もっとも、今までの流れを見ると、僕らと戦いに来たようには見えないけど。
ライトの問いに、ワイルスは慌てた様子で「ちがうよっ」と言う。
「オイラ達の目的は……」
続けてワイルスが発した言葉に、僕らは2度目の絶句をすることになった。
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