俺とミノルの前に姿を現したショート。
「ショート……だよな?」
俺は一瞬戸惑う。
確かに姿形はショートだ。
だが、皮膚の色が違う。
全身の皮膚が人族としては不自然なほどに赤みがかっている。
もちろん、ショートの肌の色はこんなじゃなかった。
さらにいえば、目つきが違う。
恐ろしいくらいに白目が血走り、しかし眼光が鋭い。
敵意というよりは……
俺は思わずミノルに尋ねる。
「ミノル、どうなっているんだ?」
彼が答えを知っているとも思えないが。
それでも、誰かに尋ねずにはいられなかった。
ショートが口を開く。
「勇者はどこだ?」
ショートの声じゃない。
いや、声の質はショートのそれだが、威圧感とかが全く違う。
俺はヤツの質問を無視して、尋ね返す。
「お前、誰だ?」
「ショートだ。ショート・アカドリ。見て分からないか?」
「わからないね!」
俺は叫び、ヤツに向けて剣を構える。
コイツはショートじゃない。
絶対に違う。
あいつは……俺に、仲間に剣を向けられて不敵に笑うようなヤツじゃない!!
と。
ミノルが言う。
「ゲームマスター」
え?
「昨晩は上空でショートからを操っていましたが、今はショートさんを中から操っているんですね」
それはつまり――
「お前が、ゲームマスターなのか!?」
俺が叫ぶと、ショートは……いや、ショートの姿をした何者かが高笑いを始めた。
「あはははっ、意外とカンがいいじゃないか。ライト・ルールくん」
「俺のことを知っているのか!?」
「そりゃあねっ! 何しろ、キミはボクの子どもみたいなものだもの」
「どういう意味だ!?」
「あれ? ミノルくんかショートくんから聞いていないの?」
俺は考える。
フロルのように天才ではない俺は、すぐに答えを導けない。
代わりにゲームマスターに言ったのはミノルだった。
「自分がこの世界そのものを作ったのだからといいたいのですか?」
「ま、そういうことだね。ミノルくん。
ライト・ルールくん、キミはボクが作った。キミの幼なじみも、双子の勇者も、王女様も、剣術の師匠も、魔王も、そのほかみーんなね。もちろん、魔物や動植物もそうだ」
まさに神様かよ。
俺は体をこわばらせ、必要以上に剣を握る拳に力を入れる。
「おいおい、ライト・ルールくん。キミは自分の創造主に逆らうのかい? しかもそんな剣一本で戦おうと?
自分の子どもがそうやって苦しみあがくのはカワイイと思うけど……同時に、身の程を知らないのはちょっとムカつくかなぁ」
ゲームマスターはニヤッと笑う。
「うるせー! ショートを返せ」
「返せっていうけど、別に彼はキミのものではないだろう?」
「俺のものじゃないが、俺の仲間だ」
「なるほど、一理あるね。ま、一理あったとしても君の言い分をボクが聞く理由は皆無だけど」
どうする?
斬りかかる?
だが、そうしたとして、倒せるのはショートの肉体であって、ゲームマスターではないということになる。
たとえ俺がショートを殺しても、ゲームマスターはショートの体から抜け出して、それこそ今度は俺を操りかねない。
俺が迷っていると、ミノルが叫んだ。
「一体何が目的なんですか?」
「どういう意味かな?」
「勇者を探すのはなぜですか?」
「そりゃあさ、さっきから勇者がどこにいるか分からなくなってね。おかしいなぁと思って。
そしたら、キミたち2人だけが残っているから聞いてみようかなって」
俺は内心ほっと一息。
ダンジョンに避難させるという手は、少なくとも今この瞬間は有効なようだ。
ほんの少しではあるが、ゲームマスター――神様の上手を取れた。
これは大きい。
神様だからといって、全知全能ではないという証明だ。
ならば、対抗策はある……かもしれない。
探れ!
ヤツの目的を。
ヤツの弱点を
ヤツにつけいる隙を!
「アレル達の居場所を教えるつもりはない」
俺はしっかりと剣を振りかぶる。
いつでも『風の太刀』を使える体勢だ。
いざとなったら、ショートの肉体に攻撃できる。
魔法を使われたとしても、吹き飛ばせる。
だが、ヤツはおどけた声で言う。
「やめてよ、別にキミと戦う理由はないんだからさ」
「お前になくても、俺にはあるぞ」
「そうだとしても、勝算はないでしょ?」
くっ。
確かに。
剣でどうにかできる状況かといわれれば……
「ボクの願いはね、この世界が戦乱に落ちることだ。そのために、この世界を作ったともいえる」
戦争そのものが目的だというのか!?
この世界をゲームのようにもてあそぶ存在。
ミノルがさらに問う。
「なぜそんなことを望むんですか?」
「うんもう、質問ばっかり。ま、いうなら神様への復讐だね。ボクの人生と運命をもてあそんだあいつらへの嫌がらせさ」
うん?
なにか違和感が……
なんだ?
ミノルとヤツの会話は続く。
「この世界に戦乱を起こすことが神への嫌がらせになると?」
「まーね。やつらは世界を作ることを生業としている。そしてある一定条件に達した世界の割合が増えると、ヤツらはさらなる高みに行ける……と言われている」
なんだ?
なにかおかしい。
会話が根本的に……
「それはつまり、戦乱がない世界をたくさん作ることが神様の願いであり、あなたはその逆の世界を作ろうと言うことですか?」
「まあ、平たく言えばその通りだね。もっとも、そんなことをしなくても神どもがさらなる高みに行けるとは思っていないけど」
「それはなぜ?」
「ははっ、それをキミが聞くの? 神様の期待に反して2回も世界大戦をおこした世界の人類が?」
ショートとミノルの世界はそんなことに?
2人ともある種平和ぼけしているかんじがあるのだが、この世界よりも大変なことになっているのだろうか。
いや、今は2人の世界の話よりも……
こいつの話のおかしさだ。
確実におかしい。
それはわかる。
だけど、どこだ?
この神様の言葉のどこに、俺は違和感を……
……神様の言葉?
違う。
違うぞ。
ヤツはさっきからっ!
「お前は、神様じゃないのか!?」
そうだ、そうだよ。
ヤツはさっきから、神を第三者――いや、むしろ自分と敵対する存在として語っている。
ミノルから聞いていた話と根本的に矛盾している。
もし、ヤツが神ではないというなら――
「ははっ、ライト・ルールくんは頭がいいなぁ。生み出したボクが想定しているよりもずっと。アレルくんに対するかませ役の剣術バカ少年として作ったのに。
そうなったのは予想よりも早く勇者と出会ったからかな? それともショートくんかミノルくんの影響?」
「いいから答えろ!」
俺の言葉に、ヤツは「はぁ」と深くため息。
「この世界を作ったのはボクだ。だから、ボクがこの世界の神様なのは間違いない。実際、神の力の一端をえているしね。ただし、本当の意味での神様とは違うね」
意味が分からん。
「ボクはね、元々神様によって、とある世界に送り込まれた『勇者』だったんだよ」
はあ?
勇者!?
アレルやフロルのように!?
「細かい話はともかくさ、結局ボクは勇者でありながら闇落ちして、神様と敵対することになった。それで、神様の力を奪ってこの世界を作ったんだ」
……何が何だか。
ようするに、偽の神様なのか?
いやだが、この世界を作ったのがヤツならば、この世界にとってはやはり神と考えるべきか?
「さて、どうするかな。キミ達は勇者の居場所を教えてはくれそうもないし……だからといって殺す意味もないしなぁ。
う~ん、そうだなぁ。
あ、面白いことを思いついた!」
面白いこと?
「ライト・ルールくん。キミに1ついいことを教えてあげる」
いいことだと?
聞くべきじゃない。
俺を惑わすための言葉に決まっている。
だが、そう思っても、気にはなってしまって。
「なんだよ?」
俺はそう問い返した。
問い返してしまった。
だから、知ってしまったのだ。
この世界の真実の一端を。
耐えがたいほどに重すぎる現実を。
「この世界の成り立ちについてだよ」
「だから、お前がこの世界を作ったっていうんだろ?」
「その通りだ。だけど、ボクがこの世界を作ったのはいつなのかって話だよ」
その言葉を聞いた途端、ミノルの顔色が変わる。
「やめなさい! そんなことをこの世界の人々に教えて、アナタになんの得があるのですか!?」
「別に得なんてないよ。たださ、あえていうなら……そうだね。罰かな?」
「罰ですって?」
「創造主に逆らう馬鹿なお子様への罰。ライト・ルールくんは無駄に天才戦士につくったから、肉体的な罰は耐えられるだろうけど……真実を知ったときの精神的なダメージはどうかな?」
ショートの顔でニヤニヤ気持ち悪く笑うゲームマスター。
「ボクがこの世界を作ったのは、6年と120日前だよ」
まるで意味が分からなかった。
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